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211話 牽制
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「情報としては耳に入ってたんだよね。警備隊の中で指折りの人間を集めた精鋭部隊がいるって。だけど、警備隊の連中がそこまで強いって感じ無かったからさ。その精鋭ってのも、あいつらに毛が生えた程度だと決めつけて舐めてたんだよ」
「……ずいぶんな言い草だな。反論してやりたいが、他国の間者に容易く入り込まれているようではやむなしか。その隊服もどこで手に入れたのやら……」
「確認するまでもないと思うけど、お兄さんはその精鋭部隊のひとりなんだよな? オレ自分は結構強いつもりでいたんだけど世界は広いね。お兄さんと会って考えを改めたよ。オレはまだまだ未熟だ。てか、間者じゃないし!!」
レナードさんはノアさんの両腕を縄で縛っている。あの変わった武器も没収されてしまった。絶望的なシチュエーションだろうに、ノアさんからはどこか余裕のようなものを感じてしまう。レナードさんのことが気に入ったのか、彼に向かってずっとお喋りを続けているのだ。
「お兄さんが着てる隊服、オレと色が違うよね。黒の方がカッコいいな。お兄さんが着てるから余計にそう見えるのかな」
「お前に兄と呼ばれる謂れはない。私の弟はこの世にひとりだけだ」
「お兄さん弟いるんだ!! いくつ? てか、お兄さんも何歳なの? オレはね、17だよ」
「聞きたいことがあるとは言ったが、今お前と雑談を交わすつもりはない。これ以上無駄口を叩くなら、腕と一緒にその口も縛り上げるぞ」
「えー……お兄さん呼びそんな怒るの。じゃあ、レナードさんだ。さっきこのお嬢ちゃんが何回もそう呼んでたから名前は平気だよね。オレはノア。よろしく、レナードさん」
レナードさんのそっけない対応を物ともせず、ノアさんは彼に話しかけている。しまいには自己紹介までする始末。さすがのレナードさんもペースを乱されているようで、眉間に手を添えて瞳を伏せていた。
「あっ、あの……レナードさんはどうしてお屋敷に? セドリックさんの要請があったからですか」
居心地の悪い雰囲気を変えたくて、おふたりの会話に割り込んでしまう。俯いていたレナードさんは顔を上げ、私に向かってにっこりと微笑んだ。いつもならこのキラキラ笑顔にうっとりするところだけど、今回に限ってはあからさまな態度の変化に苦笑いが込み上げた。レナードさんも存外子供っぽいところがある。
「そう。正確にはそれに応えるための下準備をしに来たって感じかな。ジェムラート公にも協力して頂かないといけないからね。幸い王宮から公爵邸まではそう離れていないし、増援はいつでも向かわせることができるから安心して」
レナードさんはここに来る前にルーイ先生とセドリックさんに会っていたそうだ。レオン殿下の伝言を伝えたり、先生の怪我の具合を確認したり……。最後に旦那様ともお話をして、一旦王宮に帰るところだった。その時廊下で揉めている私とノアさんを発見したというわけだ。
「この男の処遇は殿下がいらしてから決めることになるだろうね。騒ぎを起こした少女の身内らしいけど、こいつ自身も色々やらかしていそうだ……」
レナードさんの言わんとしていることが私にも察せられた。警備隊の隊服……ノアさんはこれを身に付けて二番隊の隊員だと偽り、お屋敷に侵入した。彼がその隊服を利用したのは今回が初めてではないだろう。これまでその隊服で何を行なってきたのかを想像するだけで頭が痛くなりそうだった。
相も変わらず、レナードさんからキツい視線を浴びせられているのにノアさんは一向に堪えた様子は無い。どうしてこんなに冷静なのか。カレンが拘束された時に見せた激しい抵抗と比べると、ノアさんの落ち着きようはとりわけ異様に映った。まさか、他にも仲間がいたりして……? 仲間による救出が期待できるから余裕をかましているのか。いや、カレンはふたりで旅をしていると言っていた。ノアさんの他に連れはいないはずだ。カレンがあの時本当のことを話していたという前提になってしまうけれど。
「こっちにも事情があってね。そちらから見たらオレたちがめちゃくちゃ怪しいのは分かってる。でも、コスタビューテの連中と揉める気は全くなかった。タイミングが悪かったんだよ」
「身分を偽って他所の屋敷に侵入したり、客人に怪我を負わせようとしたことはタイミングがどうとかいう問題ではないと思うが? これで揉める気がなかったなんてよく言える。信じられるか」
「それはまぁ、その通りですね……はい」
「ここで私と押し問答をしていても仕方がない。お前のことはレオン殿下がいらっしゃってから決める。それまでは大人しくしていろ」
「王太子殿下が来るの? コスタビューテの王太子って、まだ10にも満たないんじゃなかったっけ。歳の割に賢いってのは聞いたことあるけど、マジでそんな子供が捜査の指揮取ってるの。不安じゃない?」
「……そのやかましい口、いい加減閉じて貰おうか」
そう言った後のレナードさんの動きは素早かった。彼は懐から大きめのハンカチを取り出すと、それをノアさんの口に噛ませて後頭部で縛り付けた。セドリックさんがカレンにしたのと同じだ。カレンの時は自害するのを防ぐ意味合いもあったようだけど、ノアさんの場合はお喋りをやめさせるためだった。強制的にではあるがさっきまでの饒舌ぶりが嘘のように、ノアさんは大人しくなってしまう。布を噛ませられたせいで、思ったように口が動かせなくなったのだ。言葉にならない呻き声だけが虚しく響く。
「あの方は私など比べものにならないほど聡明で強い。誰よりも優しく……そして恐ろしい方だ。子供だと思って侮ると大怪我をするぞ」
『口の利き方には気を付けろ』とレナードさんはノアさんを叱責する。さっきまではうんざりしつつも彼の相手をしてあげていたのに……
やはりレオン殿下に関わる事になると少しの融通もきかなくなるみたい。取り繕うこともせずに怒りを露わにするレナードさんを見て、改めてそう確信するのだった。
「……ずいぶんな言い草だな。反論してやりたいが、他国の間者に容易く入り込まれているようではやむなしか。その隊服もどこで手に入れたのやら……」
「確認するまでもないと思うけど、お兄さんはその精鋭部隊のひとりなんだよな? オレ自分は結構強いつもりでいたんだけど世界は広いね。お兄さんと会って考えを改めたよ。オレはまだまだ未熟だ。てか、間者じゃないし!!」
レナードさんはノアさんの両腕を縄で縛っている。あの変わった武器も没収されてしまった。絶望的なシチュエーションだろうに、ノアさんからはどこか余裕のようなものを感じてしまう。レナードさんのことが気に入ったのか、彼に向かってずっとお喋りを続けているのだ。
「お兄さんが着てる隊服、オレと色が違うよね。黒の方がカッコいいな。お兄さんが着てるから余計にそう見えるのかな」
「お前に兄と呼ばれる謂れはない。私の弟はこの世にひとりだけだ」
「お兄さん弟いるんだ!! いくつ? てか、お兄さんも何歳なの? オレはね、17だよ」
「聞きたいことがあるとは言ったが、今お前と雑談を交わすつもりはない。これ以上無駄口を叩くなら、腕と一緒にその口も縛り上げるぞ」
「えー……お兄さん呼びそんな怒るの。じゃあ、レナードさんだ。さっきこのお嬢ちゃんが何回もそう呼んでたから名前は平気だよね。オレはノア。よろしく、レナードさん」
レナードさんのそっけない対応を物ともせず、ノアさんは彼に話しかけている。しまいには自己紹介までする始末。さすがのレナードさんもペースを乱されているようで、眉間に手を添えて瞳を伏せていた。
「あっ、あの……レナードさんはどうしてお屋敷に? セドリックさんの要請があったからですか」
居心地の悪い雰囲気を変えたくて、おふたりの会話に割り込んでしまう。俯いていたレナードさんは顔を上げ、私に向かってにっこりと微笑んだ。いつもならこのキラキラ笑顔にうっとりするところだけど、今回に限ってはあからさまな態度の変化に苦笑いが込み上げた。レナードさんも存外子供っぽいところがある。
「そう。正確にはそれに応えるための下準備をしに来たって感じかな。ジェムラート公にも協力して頂かないといけないからね。幸い王宮から公爵邸まではそう離れていないし、増援はいつでも向かわせることができるから安心して」
レナードさんはここに来る前にルーイ先生とセドリックさんに会っていたそうだ。レオン殿下の伝言を伝えたり、先生の怪我の具合を確認したり……。最後に旦那様ともお話をして、一旦王宮に帰るところだった。その時廊下で揉めている私とノアさんを発見したというわけだ。
「この男の処遇は殿下がいらしてから決めることになるだろうね。騒ぎを起こした少女の身内らしいけど、こいつ自身も色々やらかしていそうだ……」
レナードさんの言わんとしていることが私にも察せられた。警備隊の隊服……ノアさんはこれを身に付けて二番隊の隊員だと偽り、お屋敷に侵入した。彼がその隊服を利用したのは今回が初めてではないだろう。これまでその隊服で何を行なってきたのかを想像するだけで頭が痛くなりそうだった。
相も変わらず、レナードさんからキツい視線を浴びせられているのにノアさんは一向に堪えた様子は無い。どうしてこんなに冷静なのか。カレンが拘束された時に見せた激しい抵抗と比べると、ノアさんの落ち着きようはとりわけ異様に映った。まさか、他にも仲間がいたりして……? 仲間による救出が期待できるから余裕をかましているのか。いや、カレンはふたりで旅をしていると言っていた。ノアさんの他に連れはいないはずだ。カレンがあの時本当のことを話していたという前提になってしまうけれど。
「こっちにも事情があってね。そちらから見たらオレたちがめちゃくちゃ怪しいのは分かってる。でも、コスタビューテの連中と揉める気は全くなかった。タイミングが悪かったんだよ」
「身分を偽って他所の屋敷に侵入したり、客人に怪我を負わせようとしたことはタイミングがどうとかいう問題ではないと思うが? これで揉める気がなかったなんてよく言える。信じられるか」
「それはまぁ、その通りですね……はい」
「ここで私と押し問答をしていても仕方がない。お前のことはレオン殿下がいらっしゃってから決める。それまでは大人しくしていろ」
「王太子殿下が来るの? コスタビューテの王太子って、まだ10にも満たないんじゃなかったっけ。歳の割に賢いってのは聞いたことあるけど、マジでそんな子供が捜査の指揮取ってるの。不安じゃない?」
「……そのやかましい口、いい加減閉じて貰おうか」
そう言った後のレナードさんの動きは素早かった。彼は懐から大きめのハンカチを取り出すと、それをノアさんの口に噛ませて後頭部で縛り付けた。セドリックさんがカレンにしたのと同じだ。カレンの時は自害するのを防ぐ意味合いもあったようだけど、ノアさんの場合はお喋りをやめさせるためだった。強制的にではあるがさっきまでの饒舌ぶりが嘘のように、ノアさんは大人しくなってしまう。布を噛ませられたせいで、思ったように口が動かせなくなったのだ。言葉にならない呻き声だけが虚しく響く。
「あの方は私など比べものにならないほど聡明で強い。誰よりも優しく……そして恐ろしい方だ。子供だと思って侮ると大怪我をするぞ」
『口の利き方には気を付けろ』とレナードさんはノアさんを叱責する。さっきまではうんざりしつつも彼の相手をしてあげていたのに……
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