リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき

文字の大きさ
234 / 294

233話 歪み(1)

しおりを挟む
「……シルヴィア様?」

 ドアノブに手をかける寸前、何者かに呼び止められる。声がした方向へ目線をやると、数人の使用人が怪訝そうな表情でこちらを見ていた。彼らの手には箒やはたきなどの掃除用具が握られている。声をかけてきたのはその集団の先頭にいた女だ。見覚えのある顔……そうだ、こいつは王妃付きの侍女ではないか。名前は確かロザリー・モラン。

「そちらの客室は現在ジェムラート家のクレハ様がお使いになっておられます。殿下の近衛隊の一員である貴女には別棟に個室があてがわれているはずですが……」

 王妃の側使えがなぜ今、侍女を引き連れて迎賓棟にいるんだ。面倒くさい奴と鉢合わせた。レオン様に報告でもされたら厄介だ。どうにか怪しまれないようにやり過ごすしかない。

「そんなの知ってるよ。私はその公女様に会いに来たんだからね」

「クレハ様に……?」

「そう。久しぶりに王宮に来たから、ヴィーはまだ公女様に挨拶できてないんだもん。他の隊員はみんな会ってるっていうのに……」

 王宮に来るのが久しぶりというのも、公女に会えていないというのも本当。挨拶に来たというのは嘘だけど。
 理由を聞いた侍女連中は合点がいったらしく表情を緩めた。ロザリーの眉間に寄っていた皺も薄くなる。無邪気な顔で拙い喋りをするだけで簡単に信じてくれるのだから助かる。

「左様でございましたか。残念ですが、クレハ様はレオン殿下と共にご実家へ帰省しておられます。遅れて王宮にいらっしゃったシルヴィア様には連絡が行き届いていなかったようですね」

「ええっ!! そうなんだ。せっかく来たのにー……」

 レオン様から直接聞いたから公女がいないことなんて知ってる。不在なのを承知で来たっていうのに……ああ、面倒くさい。
 ロザリーこそ何をしに来たというのだ。公女の部屋を掃除するだけならその辺の使用人どもに任せればいいものを……王妃の側使えがわざわざ出しゃばる必要はないだろう。

「えっと……ロザリーさんはどうしてここへ? 公女様いないんでしょ。あっ、だからみんなで大掃除するのかな」

「掃除も行いますが……クレハ様の新しいお部屋の準備が整いましたので、本日から荷物の移動を開始するのですよ。私は王妃殿下にその指揮を取るよう命じられました」

「部屋の変更? もしかして公女様がこんな部屋は嫌だーってワガママ言ったとか」

「ク、クレハ様はそのようなことを仰る方ではっ……」

 ロザリーの後ろにいた侍女のひとりが会話に割り込んで来た。なんだコイツ。軽く睨んでやると、びくりと肩を震わせロザリーの影に隠れた。こんなのでビビるなら最初から口挟まなきゃいいのに。
 薄くなっていたロザリーの眉間の皺が再び峡谷のように深くなっていく。この程度の軽口にみんなムキになっちゃってさ。公女に気を使い過ぎじゃない?

「クレハ様のお部屋の移動は王妃殿下がお決めになったことです。本来ならもっと早くに行う予定でしたが、様々な理由が重なり延期になっていただけでございます」

「ここのお部屋だって充分広くて綺麗なのにー。お客様をおもてなしするのになんの不足もないと思うけど」

「王妃殿下はクレハ様を『お客様』として扱ってはおられませんから。レオン殿下の婚約者でいずれ王家の一員になられるお方……既にご自身の娘のように可愛がっておられるのですよ。新しいお部屋も王妃殿下の向かいですしね」

 ロザリーは聞いてもいないのに公女がいかに王妃に大切にされているかを熱弁してくる。牽制のつもりなのか。うざいなぁ。全体的にどうでもいい内容だけど、公女の新しい部屋が王妃の向かいというのだけは聞き逃せなかった。
 王妃の部屋がある区域は『とまり木』の人間でも許可無く立ち入ることができない。このまま移動が行われてしまったら、公女の部屋に侵入するのが困難になる。まして持ち物を調べるなんて不可能だ。
 レオン様が付きっきりになっているのは腹立だしいが、公女が部屋を空けている今がチャンスだった。更に公女の護衛としてくっ付いているバカ兄弟……レナードとルイスが両方とも不在なのも都合が良かったのに。
 あの兄弟は私寄りの思考をしていると思っていたが、とんだ見込み違いだったな。愚かにも公女に懐柔されてすっかり腑抜けているそうだ。不甲斐ない……やはり他の隊員はあてにならない。レオン様のことを真に理解しているのは私しかいない。あんなくだらないことで足止めされてなるものか。

「お部屋の移動……ヴィーも手伝ってあげるよ。人手は多い方がいいでしょ?」

 掃除を手伝うふりをして公女の部屋を調べればいい。ここにいるのはたかが侍女数人。レナードとルイスがいないのならどうとでもなる。

「せっかくのお申し出ですが、移動は我々のみで行います。気にかけて頂きありがとうございます」

「遠慮しなくていいよー。今お仕事入ってないからヴィー暇だし」

「いいえ。ご厚意だけありがたく頂戴致します」

 ロザリーは私を部屋にいれるのを拒んでいる。態度は低姿勢だが警戒心を隠しきれていない。公女の部屋だから慎重になっているだけか……それとも、誰かに命令されているのか。

「人数多い方が早く終わるじゃん。せっかく手伝ってあげるって言ってるのに……もう、いいよ」


 思わぬ伏兵だ。まさか王妃の侍女に邪魔されるなんて。
 好意を無下にされて拗ねた子供を演じると、ロザリーが僅かにたじろいだ気がする。こちらを警戒してはいるものの、完全に突き放してもいないようだ。やはり誰かの命令に従っているだけか……
 どのみち今日は公女の部屋に入るのは無理そう。これ以上粘ると不信感を助長させるだけになり逆効果だ。仕方ない。別の方法を考えよう。

「ロザリーさんのわからず屋!!」

 控えめに捨て台詞を吐いて、私は公女の部屋から走り去ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

お転婆令嬢は、大好きな騎士様に本性を隠し通す

湊一桜
恋愛
侯爵令嬢クロエは、二度も婚約破棄をされた。彼女の男勝りで豪快な性格のせいである。 それに懲りたクロエは、普段は令嬢らしく振る舞い、夜には”白薔薇”という偽名のもと大暴れして、憂さ晴らしをしていた。 そんな彼女のもとに、兄が一人の騎士を連れてきた。 彼の名はルーク、別名”孤高の黒薔薇”。その冷たい振る舞いからそう呼ばれている。 だが実は、彼は女性が苦手であり、女性に話しかけられるとフリーズするため勘違いされていたのだ。 兄は、クロエとルークのこじらせっぷりに辟易し、二人に”恋愛の特訓”を持ちかける。 特訓を重ねるうちに、二人の距離は少しずつ近付いていく。だがクロエは、ルークに”好きな人”がいることを知ってしまった…… 恋愛なんてこりごりなのに、恋をしてしまったお転婆令嬢と、実は優しくて一途な騎士が、思い悩んで幸せになっていくお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました

春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

処理中です...