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239話 父と娘(1)
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「レオン殿下は武芸にとても秀でておられて……それは警備隊の方たちも圧倒するほどで驚愕しました。だって彼は私と2歳しか違わないのですよ」
私が護身術を身に付けたいと言ったら、レオンは自ら指南役を買って出てくれた。最初は面白半分に茶化されているのかと疑ってしまった。真剣な私を尻目にレオンは楽しそうにはしゃいでいたから。
私が抱いた疑念を払拭するため、彼は自身の実力をアピールする場を設けた。警備隊の隊員たちを巻き込んだ『鬼ごっこ』という名の対人訓練だ。
彼はそこで圧倒的な力を見せつける。私はぐうの音も出なかった。レオンが隊員たちから回収した白薔薇の束を手に取り、彼の申し出を受け入れる他なかった。些か強引な流れではあったけれど、この瞬間にレオンは私の婚約者兼、武芸の師匠になったのだ。
「レオンの強さに私はとても感銘を受けました。彼のようになりたいと……。レオンはそんな私の無謀ともいえる願いを叶えるための手助けをすると約束して下さいました。私に合ったトレーニングのメニューを作って、武器の扱い方だって教えてくれるのです。今まで自己流で行っていた時とは違い、はっきりと自分が成長している手応えを感じられて嬉しいです」
「……気が合いそうだとは思っていたけどね。クレハが王宮で充実した日々を過ごしていたみたいでお父様は安心したよ」
安心したと言っている割にはお父様は脱力したような顔をしている。私がこの手の話をすると、リズも似たような表情をする。武芸のことになると興奮して口数が多くなってしまうので呆れているのかな。私は話をすることに夢中になり、いつの間にか殿下ではなく『レオン』と名前で呼んでいたことにも気付いていなかった。
「お互い好きなことが一緒だと話が弾んで楽しいだろう。でもね、クレハ。殿下は武芸だけでなく、座学の方も優秀だと聞いているよ。こっちの方には感銘を受けてはくれなかったのかな」
「えっ……」
「クレハの王宮滞在は事前の準備もなく突然始まった。これはお父様たちの責任だけど、その間クレハのお勉強が停滞しているのが気掛かりだったんだよ」
「お勉強……ですか」
「クレハは体を動かすことは好きだけど、座学はあんまりだろ? 殿下の影響でちょっとは興味を持って取り組んでくれたら、お父様は更に安心するなぁ」
王宮では誰もそんな話をしないから頭から抜け落ちていた。みんな私の置かれた境遇に気を使って言えなかっただけなのかもしれない。
お父様はにこにこと笑いながら回答を待っている。私の勉強嫌いには手を焼いていたので、わざと意地の悪い質問をしているのだろう。いつもなら少し腹を立ててしまうところだけど、お父様の調子が戻ってきたようで嬉しくなってしまう。でも、勉強の話題はやめて欲しい。
「えーと、勉強の方の成果はまだあまり……でも、最近本をたくさん読むようになりましたよ!!」
「本を……クレハが?」
「はい。王宮には大きな図書館があるので、滞在中に色々な本を借りました。レオンも読書が好きなので、彼におすすめの本を紹介して貰ったりもしたんです」
「今まで本なんて読まない子だったのに。しかも王宮の図書館でわざわざ借りてまで……」
読んでるのは主に大衆小説ですけどね。レオンに本を紹介して貰ってはいるけど、まだ一冊も読破できていない。お父様が想像している本はレオンが読んでるみたいな難しい内容のものだろうな。歴史とか地理学に関するような……
勘違いしてるっぽいけど、そこを敢えて訂正はしない。読書にハマっていること自体は嘘ではないからね。
「そうか。てっきりまた庭を走り回ったりしてばかりだと思ったけど、クレハはクレハなりに殿下の婚約者としての自覚を持っているようだね。本を読むのだって立派な勉強だ。偉いよ」
「も、もちろんです、お父様。婚約者として彼の隣に並んでも恥ずかしくないよう、これからも精進して参ります」
大丈夫。これも嘘じゃない。レオンを……彼の婚約者として側で支えていけるように強くなろうと決意したのだ。お勉強は追々頑張ります。レオンだってゆっくりでいいって言ってくれてるもの。
「本当にジェラール陛下の仰っていた通りだったんだね。クレハの方もちゃんと殿下を思いやっていると。実はね、ちょっとだけ後悔していたんだよ。クレハを殿下と婚約させたことを……」
「お父様……」
もしかして島で起きた襲撃事件に私が巻き込まれてしまったから? 今後も危険な目に合うかもしれないと危惧しておられるのだろうか。
私とレオンの婚約はレオンの強い希望により結ばれたのだと聞いている。もともと自分は候補のひとりであったため、大きな混乱もなく話を進められたのだと。
最初は困惑したし、どうして自分なのかと疑問しかなかった。でも今は……レオンの私に対する真っ直ぐな好意も自覚している。熱烈過ぎて恥ずかしくなる時もあるが、決してそれを嫌だと感じない。彼の側にいるのが心地良い。彼と共にいたいと強く思う。危険など覚悟の上だった。
「分かっています、お父様。楽しいことばかりでなく、辛くて苦しいこともこれからたくさん経験するでしょう。それでも、レオンの婚約者は私です。今更お父様が反対しても降りたりなんてしませんからね」
我ながら大口を叩いたものだ。お父様の前で宣言することで、自分自信にプレッシャーをかけた。固めた決意が揺らがないように。目標を達成するため逃げ場を塞いだのだった。
「ふた月離れていただけなのに……いつの間にか、クレハは私が思っていた以上に成長して大人になっていたんだね」
生意気だって怒られるかもとドキドキしていたけれどそんなことはなかった。お父様はまるで眩しいものでも見ているように目を細めている。
意外な反応が返ってきてしまい、柄にもないことをしたかもと急激に羞恥が込み上げてきたのだった。
私が護身術を身に付けたいと言ったら、レオンは自ら指南役を買って出てくれた。最初は面白半分に茶化されているのかと疑ってしまった。真剣な私を尻目にレオンは楽しそうにはしゃいでいたから。
私が抱いた疑念を払拭するため、彼は自身の実力をアピールする場を設けた。警備隊の隊員たちを巻き込んだ『鬼ごっこ』という名の対人訓練だ。
彼はそこで圧倒的な力を見せつける。私はぐうの音も出なかった。レオンが隊員たちから回収した白薔薇の束を手に取り、彼の申し出を受け入れる他なかった。些か強引な流れではあったけれど、この瞬間にレオンは私の婚約者兼、武芸の師匠になったのだ。
「レオンの強さに私はとても感銘を受けました。彼のようになりたいと……。レオンはそんな私の無謀ともいえる願いを叶えるための手助けをすると約束して下さいました。私に合ったトレーニングのメニューを作って、武器の扱い方だって教えてくれるのです。今まで自己流で行っていた時とは違い、はっきりと自分が成長している手応えを感じられて嬉しいです」
「……気が合いそうだとは思っていたけどね。クレハが王宮で充実した日々を過ごしていたみたいでお父様は安心したよ」
安心したと言っている割にはお父様は脱力したような顔をしている。私がこの手の話をすると、リズも似たような表情をする。武芸のことになると興奮して口数が多くなってしまうので呆れているのかな。私は話をすることに夢中になり、いつの間にか殿下ではなく『レオン』と名前で呼んでいたことにも気付いていなかった。
「お互い好きなことが一緒だと話が弾んで楽しいだろう。でもね、クレハ。殿下は武芸だけでなく、座学の方も優秀だと聞いているよ。こっちの方には感銘を受けてはくれなかったのかな」
「えっ……」
「クレハの王宮滞在は事前の準備もなく突然始まった。これはお父様たちの責任だけど、その間クレハのお勉強が停滞しているのが気掛かりだったんだよ」
「お勉強……ですか」
「クレハは体を動かすことは好きだけど、座学はあんまりだろ? 殿下の影響でちょっとは興味を持って取り組んでくれたら、お父様は更に安心するなぁ」
王宮では誰もそんな話をしないから頭から抜け落ちていた。みんな私の置かれた境遇に気を使って言えなかっただけなのかもしれない。
お父様はにこにこと笑いながら回答を待っている。私の勉強嫌いには手を焼いていたので、わざと意地の悪い質問をしているのだろう。いつもなら少し腹を立ててしまうところだけど、お父様の調子が戻ってきたようで嬉しくなってしまう。でも、勉強の話題はやめて欲しい。
「えーと、勉強の方の成果はまだあまり……でも、最近本をたくさん読むようになりましたよ!!」
「本を……クレハが?」
「はい。王宮には大きな図書館があるので、滞在中に色々な本を借りました。レオンも読書が好きなので、彼におすすめの本を紹介して貰ったりもしたんです」
「今まで本なんて読まない子だったのに。しかも王宮の図書館でわざわざ借りてまで……」
読んでるのは主に大衆小説ですけどね。レオンに本を紹介して貰ってはいるけど、まだ一冊も読破できていない。お父様が想像している本はレオンが読んでるみたいな難しい内容のものだろうな。歴史とか地理学に関するような……
勘違いしてるっぽいけど、そこを敢えて訂正はしない。読書にハマっていること自体は嘘ではないからね。
「そうか。てっきりまた庭を走り回ったりしてばかりだと思ったけど、クレハはクレハなりに殿下の婚約者としての自覚を持っているようだね。本を読むのだって立派な勉強だ。偉いよ」
「も、もちろんです、お父様。婚約者として彼の隣に並んでも恥ずかしくないよう、これからも精進して参ります」
大丈夫。これも嘘じゃない。レオンを……彼の婚約者として側で支えていけるように強くなろうと決意したのだ。お勉強は追々頑張ります。レオンだってゆっくりでいいって言ってくれてるもの。
「本当にジェラール陛下の仰っていた通りだったんだね。クレハの方もちゃんと殿下を思いやっていると。実はね、ちょっとだけ後悔していたんだよ。クレハを殿下と婚約させたことを……」
「お父様……」
もしかして島で起きた襲撃事件に私が巻き込まれてしまったから? 今後も危険な目に合うかもしれないと危惧しておられるのだろうか。
私とレオンの婚約はレオンの強い希望により結ばれたのだと聞いている。もともと自分は候補のひとりであったため、大きな混乱もなく話を進められたのだと。
最初は困惑したし、どうして自分なのかと疑問しかなかった。でも今は……レオンの私に対する真っ直ぐな好意も自覚している。熱烈過ぎて恥ずかしくなる時もあるが、決してそれを嫌だと感じない。彼の側にいるのが心地良い。彼と共にいたいと強く思う。危険など覚悟の上だった。
「分かっています、お父様。楽しいことばかりでなく、辛くて苦しいこともこれからたくさん経験するでしょう。それでも、レオンの婚約者は私です。今更お父様が反対しても降りたりなんてしませんからね」
我ながら大口を叩いたものだ。お父様の前で宣言することで、自分自信にプレッシャーをかけた。固めた決意が揺らがないように。目標を達成するため逃げ場を塞いだのだった。
「ふた月離れていただけなのに……いつの間にか、クレハは私が思っていた以上に成長して大人になっていたんだね」
生意気だって怒られるかもとドキドキしていたけれどそんなことはなかった。お父様はまるで眩しいものでも見ているように目を細めている。
意外な反応が返ってきてしまい、柄にもないことをしたかもと急激に羞恥が込み上げてきたのだった。
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