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266話 バングルの行方
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ノアから聞いた通りの経緯で島が襲撃されたのなら……グレッグにそれを依頼した人物が存在するということになる。もしやそれがニコラ・イーストンか。いや、彼女は公爵家に住み込みで働いている。殺し屋への依頼方法なんてどうやって知り得たのかという疑問が生じてしまう。ニコラ・イーストンが教会に加えて酒場にも頻繁に出入りしていたというのなら話は別かもしれないが……生憎そのような証言はない。
ルーイ先生とレオン様も、依頼人がニコラ・イーストンではないかと考えてはいるはず。もちろん全く関係のない別の人間かもしれない。グレッグとニコラ・イーストンを結び付けるにはまだ情報が足りないな。
「まずは、酒場の夫婦が本当にグレッグと繋がりを持っていたのかを確かめないとね。そこがはっきりすれば、ノア君の情報は信憑性が高いという証明にもなるし、グレッグに依頼をした人物の手がかりも掴めるだろう」
「そうですね。とにかくベアトリスの報告を待ちましょう。幸いなことに酒場の夫婦は二番隊の監視下にあります。我々の動向を察知して逃亡されるようなことはないでしょう。取調べもすぐに行えるはずです」
捜査が進展して浮つく気持ちをぐっと抑えた。真実に近付いているという確かな手ごたえを感じているが、こういう時こそ落ち着いて行動しなければならない。
「それにしても……グレッグはどうしてよりにもよってコスタビューテの王族に手を出したんだ。魔法が使えるとはいえ無茶が過ぎる。そんな事も分からないくらいあいつは愚か者だったのか」
「魔法の力を盲信してたのもありそうだけど……ニュアージュでは悪事を見逃されていたから調子に乗ったんじゃないの。もしくは……よほど報酬が良かったとか?」
「耳の痛い話ですね。報酬は……赤の他人の代わりに殺しを請け負うのですから、それ相応の金額を受け取っていたのは間違いないです。あと、グレッグは宝石や貴金属にも目がなく、金の代わりにそちらを要求することもあったようですよ。何か珍しいアクセサリーでも手に入れたのかもしれない。それにしたって無謀な……」
「アクセサリーか……」
先生はノアとの会話に出てきた『アクセサリー』という単語が気になったようだ。俺もそれを聞いてあるものが頭をよぎった。ミシェルがニコラ・イーストンを目に留めることになった切っ掛けのひとつでもある……
「ねぇ、レオンにセディ。消えたニコラさんのバングルだけど、結構値打ち物だったのかな。もしかしてアレを……」
先生は最後まで言い切らなかったけど、この先は聞かなくても分かった。俺も同じことを考えていたから。
ニコラ・イーストンが常に身に付けていた母親の形見のバングル。それが、ある時期を境に別のものに変わっていた。これは同僚の侍女たちが不思議に思っていた出来事である。
ミシェルの聞き込みによると、バングルが変わったのはフィオナ様の一件があった後だ。ニコラ・イーストン……彼女は母親の形見を代償にして、クレハ様の暗殺をグレッグに依頼したのではないか。そんな予想が我々の頭の中では展開されていた。
「セドリック。酒場に残されたグレッグの遺品から、アクセサリーの類いは出てこなかったんだよな?」
「はい。身元を確認できるような物すらありませんでしたからね。遠いニュアージュから遥々海を渡って来た割には荷物が少ない印象を受けました」
「……という事は、どこか別の場所に保管しているか……もしくは、グレッグ自身が身に付けていたか。シエルレクト神がグレッグを始末した日……俺に渡してきたのは奴のフードの中に投げ込んでいたコンティドロップスのみだった。まさかあの神がバングルごと飲み込んでしまったということは……」
「シエルは悪食だけど金属は消化できないよ。グレッグが身に付けていたであろう衣類や小物はちゃんと吐き出しているはずだ。コンティドロップスに関しては、レオンの匂いがしたからお前に返したんだよ」
「では、もし……グレッグがあの時バングルを所持していたとしたら……」
「先生!! シエルレクト神は消化できなかった異物をどこで処分しているのですか!?」
レオン様が興奮気味に先生に詰め寄っている。シエルレクトが吐き出した異物の中からニコラ・イーストンのバングルが発見されたら……グレッグとの繋がりの有無を証明する重要な証拠になる。
「えーと、そうだな……食った物を吐いてるとこなんてあんまり見られたくないだろう。相当無防備な姿を晒すことになるからな。誰にも見られず……かつ、安心できる場所となると、あいつの巣以外に考えられないな」
「シエルレクトの巣……ニュアージュの首都、ジェナシティにある巨大なフラウムの木ですね」
「先生、メーアレクト様にお願いしてシエルレクト神に確認してもらいましょう。彼女のバングルが見つかったらほぼ確定ですよ」
「可能性は低いが、万が一ということもある。乾坤一擲……賭けてみるか!!」
「あんたら揃いも揃ってエグい会話平然としやがって。オレちょっと気分悪くなってきたんですけど……」
口元を抑えながらノアはそっぽを向いてしまう。俺たちの会話からグレッグの死に様を想像してしまったらしい。知るか。今はそれどころじゃないんだよ。悪いがノアに配慮する気などさらさら無い。
ニコラ・イーストンのバングルが、事件の謎を紐解く重要な手がかりになるかもしれない。更に、その無くなったバングルの在り方が判明したかもしれないのだ。落ち着いてなどいられなかった。
ルーイ先生とレオン様も、依頼人がニコラ・イーストンではないかと考えてはいるはず。もちろん全く関係のない別の人間かもしれない。グレッグとニコラ・イーストンを結び付けるにはまだ情報が足りないな。
「まずは、酒場の夫婦が本当にグレッグと繋がりを持っていたのかを確かめないとね。そこがはっきりすれば、ノア君の情報は信憑性が高いという証明にもなるし、グレッグに依頼をした人物の手がかりも掴めるだろう」
「そうですね。とにかくベアトリスの報告を待ちましょう。幸いなことに酒場の夫婦は二番隊の監視下にあります。我々の動向を察知して逃亡されるようなことはないでしょう。取調べもすぐに行えるはずです」
捜査が進展して浮つく気持ちをぐっと抑えた。真実に近付いているという確かな手ごたえを感じているが、こういう時こそ落ち着いて行動しなければならない。
「それにしても……グレッグはどうしてよりにもよってコスタビューテの王族に手を出したんだ。魔法が使えるとはいえ無茶が過ぎる。そんな事も分からないくらいあいつは愚か者だったのか」
「魔法の力を盲信してたのもありそうだけど……ニュアージュでは悪事を見逃されていたから調子に乗ったんじゃないの。もしくは……よほど報酬が良かったとか?」
「耳の痛い話ですね。報酬は……赤の他人の代わりに殺しを請け負うのですから、それ相応の金額を受け取っていたのは間違いないです。あと、グレッグは宝石や貴金属にも目がなく、金の代わりにそちらを要求することもあったようですよ。何か珍しいアクセサリーでも手に入れたのかもしれない。それにしたって無謀な……」
「アクセサリーか……」
先生はノアとの会話に出てきた『アクセサリー』という単語が気になったようだ。俺もそれを聞いてあるものが頭をよぎった。ミシェルがニコラ・イーストンを目に留めることになった切っ掛けのひとつでもある……
「ねぇ、レオンにセディ。消えたニコラさんのバングルだけど、結構値打ち物だったのかな。もしかしてアレを……」
先生は最後まで言い切らなかったけど、この先は聞かなくても分かった。俺も同じことを考えていたから。
ニコラ・イーストンが常に身に付けていた母親の形見のバングル。それが、ある時期を境に別のものに変わっていた。これは同僚の侍女たちが不思議に思っていた出来事である。
ミシェルの聞き込みによると、バングルが変わったのはフィオナ様の一件があった後だ。ニコラ・イーストン……彼女は母親の形見を代償にして、クレハ様の暗殺をグレッグに依頼したのではないか。そんな予想が我々の頭の中では展開されていた。
「セドリック。酒場に残されたグレッグの遺品から、アクセサリーの類いは出てこなかったんだよな?」
「はい。身元を確認できるような物すらありませんでしたからね。遠いニュアージュから遥々海を渡って来た割には荷物が少ない印象を受けました」
「……という事は、どこか別の場所に保管しているか……もしくは、グレッグ自身が身に付けていたか。シエルレクト神がグレッグを始末した日……俺に渡してきたのは奴のフードの中に投げ込んでいたコンティドロップスのみだった。まさかあの神がバングルごと飲み込んでしまったということは……」
「シエルは悪食だけど金属は消化できないよ。グレッグが身に付けていたであろう衣類や小物はちゃんと吐き出しているはずだ。コンティドロップスに関しては、レオンの匂いがしたからお前に返したんだよ」
「では、もし……グレッグがあの時バングルを所持していたとしたら……」
「先生!! シエルレクト神は消化できなかった異物をどこで処分しているのですか!?」
レオン様が興奮気味に先生に詰め寄っている。シエルレクトが吐き出した異物の中からニコラ・イーストンのバングルが発見されたら……グレッグとの繋がりの有無を証明する重要な証拠になる。
「えーと、そうだな……食った物を吐いてるとこなんてあんまり見られたくないだろう。相当無防備な姿を晒すことになるからな。誰にも見られず……かつ、安心できる場所となると、あいつの巣以外に考えられないな」
「シエルレクトの巣……ニュアージュの首都、ジェナシティにある巨大なフラウムの木ですね」
「先生、メーアレクト様にお願いしてシエルレクト神に確認してもらいましょう。彼女のバングルが見つかったらほぼ確定ですよ」
「可能性は低いが、万が一ということもある。乾坤一擲……賭けてみるか!!」
「あんたら揃いも揃ってエグい会話平然としやがって。オレちょっと気分悪くなってきたんですけど……」
口元を抑えながらノアはそっぽを向いてしまう。俺たちの会話からグレッグの死に様を想像してしまったらしい。知るか。今はそれどころじゃないんだよ。悪いがノアに配慮する気などさらさら無い。
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