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267話 進展(1)
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ニュアージュの2人との話し合いはうちの別館で行われていると聞いた。もうかなり時間が経ってるけど大丈夫かな……何か事故でも起きていたらどうしよう。
終了時刻が定められていなかったので、いつ頃終わるのか予測がつかない。2時間ほど経過したあたりから、私の心はそわそわと落ち着かなくなる。部屋の時計を数分おきに何度も確認してしまう。そんな私を見かねてか、ミシェルさんが声を掛けてくれた。
「クレハ様。セドリック隊長を始め、王宮の兵士らが厳重に警備にあたっておりますので心配いりませんよ。それに、もし問題が発生したらすぐに報せが来るようになっています。それが無いということは、順調にお話しが進んでいるという証拠ですよ」
「そうですよね。私ったらすぐに嫌な方へ考えてしまって……」
「大切な人たちの身を案じるのは当然です。でもあまり考え過ぎてしまうと、クレハ様のお身体の方が参ってしまいます。今リズちゃんが飲み物を準備してくれていますから、温かいものでも頂きながらのんびり待ちましょう」
「はい」
ミシェルさんの言う通りだ。私がここで悶々としていてもしょうがない。ルーイ様たちが頑張ってくれているのだ。彼らを信じて……慌てず騒がず……どっしりと構えていなくては。不安な気持ちを少しでも取り払うために、私は大きく深呼吸をした。
それから数分後、リズが部屋に戻ってきた。彼女が用意してくれた飲み物はホットミルクココアだった。温かいミルクココア……確かこれもリラックス効果がある飲み物なんだよね。リズにも余計な気を使わせてしまい、申し訳ない。
「リズちゃんの淹れてくれたココア美味しい。さっすがセドリックさんが店の即戦力だって太鼓判捺す腕前だね」
「ありがとうございます。でもそれはセドリックさんのお世辞ですって。私なんてまだまだですよ」
「セドリックさんは飲食に関わることでおべっかは使わないから本心だよ。実際上手に淹れられてるし……クレハ様もそう思いますよね」
「はい。甘さも温度も丁度良くて美味しいです」
褒められて恥ずかしくなったんだろう。リズの頬が赤く染まっていく。彼女はいつの間にかハーブティーも淹れられようになっていた。本人は謙遜しているけど、侍女としてのスキルは確実に上がっている。私も負けていられないな。
「クレハ様。ご気分はいかがですか? 少しは落ち着かれたでしょうか」
「うん、もう平気。リズもミシェルさんも気を遣わせちゃってごめんなさい」
謝る必要はないと2人は笑った。彼女たちのおかげで、浮き足立っていた気持ちがずいぶんと楽になっていた。
「ニュアージュの連中たちとの取引ですが、ルーイ先生の意気込みは相当なものですよ。はっきり言って失敗する気が微塵もしません。なんせアルバビリスまでお召しになってましたからね。あんな先生を前にしたら、どんな罪人でも跪いて許しを乞うてしまいそうです」
「アルバビリス?」
ミシェルさんはルーイ様が別館に行かれる直前に少しだけ会話をしたのだそうだ。その時の彼の服装が『アルバビリス』だったらしい。私とリズは聴き慣れない単語に顔を見合わせてしまう。そんな私たちのためにミシェルさんが説明をしてくれた。
「アルバビリスというのは、神事の際に王族が身に付ける聖なる衣。『崇高なる白』なんて異名まで持っている純白の特別な衣装なのですよ」
「……な、なんだか凄そうな服ですね。アルバビリスって。でもルーイ先生、顔もスタイルも良いからどんな服でも似合っちゃいそうです」
「そうなの、リズちゃん!! アルバビリス自体に露出は全く無くて、どちらかといえば堅苦しいデザインの衣装なんだけど、着てるのがあのルーイ先生でしょ。似合うのは当然として、もうっ……すっごくカッコよくてねー!! 私思わず御礼言っちゃったの。良いもの見せて下さってありがとうございますーって」
ミシェルさん……テンション高い。そんなに衝撃だったんだ。きっとそのアルバビリスを着たルーイ様が、彼女の好みど真ん中だったのだろう。
ミシェルさんの気持ちはとてもよく分かる。だってルーイ様はカッコいいもん。私も見たかったな、アルバビリス。ルーイ様は自分の容姿を褒められるのが好きだから、ミシェルさんみたいな反応は大歓迎だろうな。きっと喜んだに違いない。
「……とにかく先生の醸し出す色気が凄まじかったです。禁欲な服装であるのにエロスを感じてしまうなど逆説的な思考になってしまい……思い出すと鼻血がでそうです」
ミシェルさんは鼻を抑える仕草をしながら、ルーイ様がいかに素敵だったかを熱弁する。そこまで言われると私とリズも興味を引かれてしまうのは当然で……
「ミシェルさんがそこまで絶賛なさるなんて気になります。私たちも見たかったですね。クレハ様」
「うん……そんな特別な服なら、次に着てるとこが見られるのはいつになるか分からないもんね」
「ご安心下さい、クレハ様。このミシェル……そこは抜かりなく。きっとお2人もそう仰るだろうと思って、先生にお願いしておきました。着替える前にクレハ様のお部屋に寄って頂けないかと……先生は心よく承諾して下さいましたよ」
「やったー!! ミシェルさん、ありがとうございます!!」
ミシェルさんの機転のおかげで、私とリズもアルバビリスを着たルーイ様を見ることができそう。ただ……少しだけ気になるのは、ミシェルさんの話の通りであるなら、ルーイ様は自ら神との繋がりの強さを見せつけるような衣装を着たということになる。彼が無意味にそんなことをするはずがないので、ニュアージュの2人組との取引を成功させるために必要な事だったのだろうけど……正体がバレたりしないのだろうか。
アルバビリスの話をきっかけに、私たちは時間が経つのを忘れて会話に夢中になっていた。その結果、部屋の扉をノックしている訪問者の存在に気付くのが遅れてしまったのだった。
終了時刻が定められていなかったので、いつ頃終わるのか予測がつかない。2時間ほど経過したあたりから、私の心はそわそわと落ち着かなくなる。部屋の時計を数分おきに何度も確認してしまう。そんな私を見かねてか、ミシェルさんが声を掛けてくれた。
「クレハ様。セドリック隊長を始め、王宮の兵士らが厳重に警備にあたっておりますので心配いりませんよ。それに、もし問題が発生したらすぐに報せが来るようになっています。それが無いということは、順調にお話しが進んでいるという証拠ですよ」
「そうですよね。私ったらすぐに嫌な方へ考えてしまって……」
「大切な人たちの身を案じるのは当然です。でもあまり考え過ぎてしまうと、クレハ様のお身体の方が参ってしまいます。今リズちゃんが飲み物を準備してくれていますから、温かいものでも頂きながらのんびり待ちましょう」
「はい」
ミシェルさんの言う通りだ。私がここで悶々としていてもしょうがない。ルーイ様たちが頑張ってくれているのだ。彼らを信じて……慌てず騒がず……どっしりと構えていなくては。不安な気持ちを少しでも取り払うために、私は大きく深呼吸をした。
それから数分後、リズが部屋に戻ってきた。彼女が用意してくれた飲み物はホットミルクココアだった。温かいミルクココア……確かこれもリラックス効果がある飲み物なんだよね。リズにも余計な気を使わせてしまい、申し訳ない。
「リズちゃんの淹れてくれたココア美味しい。さっすがセドリックさんが店の即戦力だって太鼓判捺す腕前だね」
「ありがとうございます。でもそれはセドリックさんのお世辞ですって。私なんてまだまだですよ」
「セドリックさんは飲食に関わることでおべっかは使わないから本心だよ。実際上手に淹れられてるし……クレハ様もそう思いますよね」
「はい。甘さも温度も丁度良くて美味しいです」
褒められて恥ずかしくなったんだろう。リズの頬が赤く染まっていく。彼女はいつの間にかハーブティーも淹れられようになっていた。本人は謙遜しているけど、侍女としてのスキルは確実に上がっている。私も負けていられないな。
「クレハ様。ご気分はいかがですか? 少しは落ち着かれたでしょうか」
「うん、もう平気。リズもミシェルさんも気を遣わせちゃってごめんなさい」
謝る必要はないと2人は笑った。彼女たちのおかげで、浮き足立っていた気持ちがずいぶんと楽になっていた。
「ニュアージュの連中たちとの取引ですが、ルーイ先生の意気込みは相当なものですよ。はっきり言って失敗する気が微塵もしません。なんせアルバビリスまでお召しになってましたからね。あんな先生を前にしたら、どんな罪人でも跪いて許しを乞うてしまいそうです」
「アルバビリス?」
ミシェルさんはルーイ様が別館に行かれる直前に少しだけ会話をしたのだそうだ。その時の彼の服装が『アルバビリス』だったらしい。私とリズは聴き慣れない単語に顔を見合わせてしまう。そんな私たちのためにミシェルさんが説明をしてくれた。
「アルバビリスというのは、神事の際に王族が身に付ける聖なる衣。『崇高なる白』なんて異名まで持っている純白の特別な衣装なのですよ」
「……な、なんだか凄そうな服ですね。アルバビリスって。でもルーイ先生、顔もスタイルも良いからどんな服でも似合っちゃいそうです」
「そうなの、リズちゃん!! アルバビリス自体に露出は全く無くて、どちらかといえば堅苦しいデザインの衣装なんだけど、着てるのがあのルーイ先生でしょ。似合うのは当然として、もうっ……すっごくカッコよくてねー!! 私思わず御礼言っちゃったの。良いもの見せて下さってありがとうございますーって」
ミシェルさん……テンション高い。そんなに衝撃だったんだ。きっとそのアルバビリスを着たルーイ様が、彼女の好みど真ん中だったのだろう。
ミシェルさんの気持ちはとてもよく分かる。だってルーイ様はカッコいいもん。私も見たかったな、アルバビリス。ルーイ様は自分の容姿を褒められるのが好きだから、ミシェルさんみたいな反応は大歓迎だろうな。きっと喜んだに違いない。
「……とにかく先生の醸し出す色気が凄まじかったです。禁欲な服装であるのにエロスを感じてしまうなど逆説的な思考になってしまい……思い出すと鼻血がでそうです」
ミシェルさんは鼻を抑える仕草をしながら、ルーイ様がいかに素敵だったかを熱弁する。そこまで言われると私とリズも興味を引かれてしまうのは当然で……
「ミシェルさんがそこまで絶賛なさるなんて気になります。私たちも見たかったですね。クレハ様」
「うん……そんな特別な服なら、次に着てるとこが見られるのはいつになるか分からないもんね」
「ご安心下さい、クレハ様。このミシェル……そこは抜かりなく。きっとお2人もそう仰るだろうと思って、先生にお願いしておきました。着替える前にクレハ様のお部屋に寄って頂けないかと……先生は心よく承諾して下さいましたよ」
「やったー!! ミシェルさん、ありがとうございます!!」
ミシェルさんの機転のおかげで、私とリズもアルバビリスを着たルーイ様を見ることができそう。ただ……少しだけ気になるのは、ミシェルさんの話の通りであるなら、ルーイ様は自ら神との繋がりの強さを見せつけるような衣装を着たということになる。彼が無意味にそんなことをするはずがないので、ニュアージュの2人組との取引を成功させるために必要な事だったのだろうけど……正体がバレたりしないのだろうか。
アルバビリスの話をきっかけに、私たちは時間が経つのを忘れて会話に夢中になっていた。その結果、部屋の扉をノックしている訪問者の存在に気付くのが遅れてしまったのだった。
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