ぼくらは運命の番ではない

高山奥地

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史宇哉(しゅうや)視点

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史宇哉(しゅうや)視点
 一目見て、運命だと思った。
 艶のある真っ黒な髪の毛が、夢のように淡く潤んだ灰色の瞳が、折れそうなほど細くて小さな身体が、堪らなくいとおしかった。
 高校三年生の春、転校してきた八嶋志摩(やしましま)は柔らかく微笑んで挨拶した。
「八嶋志摩です。よろしくお願いしますね」
 声は穏やかで甘い。首もとの保護帯はシンプルな意匠で、彼がオメガであることを端的に示していた。
 世界には男女と組み合わせて第二の性別と呼ばれるものがある。人口の多い順に挙げると、ベータ、アルファ、オメガと分類され、割合は12:2:1。ベータは一般的な性別。アルファは男女ともに優秀で精巣を有する。オメガは男女とも卵巣や子宮を持つ。そして、アルファとオメガは、互いの性別の者と、番という特別な契りを結べる。
 噂によるとアルファとオメガには運命の番という相性が最高のペアになる素質を持つ片割れが存在するらしい。
 八嶋志摩の席は出席番号順で窓側の後ろの方にある。短い休み時間、転校生の物珍しさから何人かに話しかけられ志摩はにこやかに対応している。俺は志摩をチラリと見て自分の席に座った。明らかに運命の番だと思うが、志摩は分かっているのだろうか。
 昼休みには人の波が引けて、志摩は一人で自分の席に座っていた。俺は志摩に声をかけた。
「志摩……くん。一緒にご飯食べないか?」
 志摩はこちらを見てにこやかに笑う。可愛い。心臓が暴れる。苦しい。志摩が口を開いた。
「ありがとう。ぜひ一緒に食べたいな。君の名前は?」
「髙橋史宇哉(たかはししゅうや)だ。史宇哉と呼んでくれ」
「じゃあぼくも呼び捨てで呼んでほしいな」
「わかった」
「あと、購買がどこか教えてくれる? ご飯買ってこないとないんだ……」
 少し照れたように志摩が言う。困ったような笑い方が可愛い。
「じゃあ一緒に買ってこよう」
「ありがとう」
 ホッとしたような志摩の笑顔。顔が熱い。控え目ながらも頼られているという実感が、内心、俺を舞い上がらせる。
 一緒に購買へ向かいながら志摩に聞く。
「志摩は運命の番って信じるか?」
「アルファとオメガの人口比率は2:1だから誰もが一対の運命を持っているとは思わないけれど、何かの研究だと遺伝的に遠いほど運命の番として認識されやすいらしいよ」
「なんか、詳しいな」
「第二性別の遺伝の話、割とよく聞いてた時期があったから」
 そう話す志摩の目にはどんな感情も浮かんでいなかった。俺は志摩が運命の番だと思っているが急にそう言い出しにくくなる。
 購買で志摩と並んでいると、急に志摩に声をかけてきた男子がいた。
「あの! あなた可愛いですね! 転校生の人ですか? あの、好きです! 運命の番だと思います!! 僕、髙橋颯(はやて)って名前で、あの、お名前聞いてもいいですか?!」
 焦りと緊張をない交ぜにした様子で捲し立てるその男子は俺の二歳下の弟だった。
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