ぼくらは運命の番ではない

高山奥地

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颯視点

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颯視点
 幼年部(幼稚園、保育園相当)から大学部までのエスカレータ式のこの学校で外部からの転校生はまあまあ珍しいものです。高校三年生、二番目の兄の学年に転校生がきた話は聞いていました。そんなに注目していなかったのですが、購買でその人を見かけて、ピンときました。彼が転校生で僕の運命の番なんだと。
 そう思ったらどうにかしてこちらを意識してもらわねばとなりふり構っていられませんでした。
「僕、髙橋颯って名前で、あの、お名前聞いてもいいですか?!」
「えっと……ふふ、八嶋志摩です」
 志摩先輩は優しく僕に言いました。先輩の穏やかな笑顔に僕は嬉しくなります。
「待て颯。志摩は俺の運命の番だと思う」
 すぐ隣に兄が居て言いました。僕は兄が居たことに気づかなかった自分に少し驚きましたが、それよりも兄の言い分が聞き捨てなりません。
「志摩先輩は僕の運命です! しゅう兄さんには譲れません!!」
「俺も運命の番をみすみす人には譲れない」
 しゅう兄さんは苛立った様子で僕に言います。僕は言いました。
「そうだ! 志摩先輩はどっちに運命を感じますか?」
 僕と兄は志摩先輩を見ます。先輩は困ったような笑顔で答えました。
「あんまりそういうの分からなくて……オメガで本能に鈍感なタイプは多いらしいのでぼくもそうなのかも……」
 笑みはわずかに苦く、先輩は困り果てて見えます。先輩を困らせていると思ったら急に不安になりました。
「仲良くなっていくうちに分かるんじゃないか?」
 しゅう兄さんが言います。心なしか兄さんも不安げに見えました。
「じゃあ仲良くしましょう。お昼一緒に食べたいです。放課後も一緒に遊びましょうよ」
「昼は俺と食べる約束がある」
「じゃあ放課後は僕と先輩の二人で遊びましょう」
「駄目だ駄目だ」
 僕はしゅう兄さんと生まれてはじめて口論してしまいました。先輩が僕らの口論に割って入ります。
「お昼も放課後も三人で居たらいいんじゃないのかな」
 僕としゅう兄さんは顔を見合わせました。正直な話、兄が想い人に鼻の下を伸ばしているのを見たくないというのが本音でした。しゅう兄さんも僕に対しておそらくそう思っているでしょうし、更に言えば、自分が想い人を口説いているところを弟に見られるのもしゅう兄さんは嫌だと思います。
 でも、先輩と居る時間がより多く取れるのは三人で居るという選択肢を選んだ時です。お互いに苦々しい顔を隠して先輩に言います。
「そうしよう」
「そうしましょう」
 了承しがたいとはいえ耐えられないほどではありません。
 購買で先輩はシャケおにぎりを買って、三人でご飯を食べました。食べるのに選んだ場所は屋上に続く階段のところ。屋上は鍵がかかっているので階段に三人で並んで座ります。
 僕としゅう兄さんはお弁当持参です。先輩はシャケおにぎりを取り出しました。三人でいただきますと挨拶してご飯を食べます。
 ちまちまとおにぎりを食べる先輩は小動物のようです。
 そんな先輩の様子を見て癒されて、ちらりとそのまましゅう兄さんを見ると目が合ってとても気まずい思いがしました。お互いに、先輩を可愛いと思っている自分は見られたくないのです。兄弟のそういう顔を見るのも居心地が悪い気持ちになります。
 兄と僕はやんわりと目をそらしてお弁当を食べました。
 無言の時間が続きますが、ご飯を食べている最中のせいか不思議と気まずくはありません。
 食べ終わって志摩先輩を見ると志摩先輩が視線に気付いてこちらを向きました。志摩先輩はまだおにぎりを食べています。
 小さな口をもごもごと動かす様がなんとも愛らしく悶えそうになりました。
「かわい……!」
「やめろやめろ、俺がいるところで志摩を口説くな」
 しゅう兄さんも食べ終わっていて僕に言います。僕は思わず心の声が出ていたことが恥ずかしくてたまりません。
「わ、声出てました……」
 志摩先輩を見るとキョトンとした顔で僕と兄を交互に見ています。しゅう兄さんが言いました。
「志摩、どうした?」
 今まで見たことない優しい顔です。声も若干甘ったるい気がします。志摩先輩がご飯を飲み込んで言いました。
「そういえば、かわいいって初めて言われたから、そういう感性の人がいるの、意外なんだ」
「志摩はかわいいだろ??!」
 しゅう兄さんが強めに言います。僕は兄が人を口説いているところを見ることに拒否感がありました。出来たら視界にいれたくないです。
 志摩先輩を注視したらその顔がじんわりと赤く見えました。先輩は照れたように笑って言います。
「二人とも、ぼくのことかわいいと思ってるんだ……」
 照れ笑いかわいい!!!
 しゅう兄さんと僕はその愛らしさにひとしきり悶絶しました。
 そんな可愛くてどうするんですかこの人!!
 午後の授業の予鈴が鳴ります。僕は名残惜しい気持ちを抱えながら志摩先輩に言いました。
「志摩先輩、じゃあまた放課後に」
「またね」
「俺はスルーか」
「しゅう兄さんも後で!」
 しゅう兄さんの言葉に若干イラつきながらも返事をして昼休みが終わる前に僕は教室に戻りました。
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