ミステイク・オブ・ゴッド~オネェ男子が迫ってきます~

雪宮凛

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馴れ初め編/第二章 お酒と油断はデンジャラス

22.アルコール警報 その2

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 一旦寝室を出ていった國枝は、数分もしないうちに氷水の入ったグラスを手に戻ってきた。

「はい、お水。まったく……どうしてそんなに飲みたがるの? やっぱり、お酒が好き?」

 渡されたグラスを受け取り、視線を手元へ落とす。すると、すぐ隣に気配を感じた。
 そちらをふり向くと、少しばかり困り顔で自分を見つめる彼と目が合う。
 二人分の体重が、ベッドのスプリングをわずかに揺らした。

「お酒は……好き、ですけど。もっと、飲んで、話していたいんです。國枝さんと話すのが楽しいから……」

 絡みあう視線が妙に恥ずかしくて、千優はひんやりとしたグラスを握る手元へ視線を戻す。
 そのまま、ポツリ、ポツリと、彼女は言葉を紡いだ。
 そんな中、体内を酔いとは違う熱がゆっくりと巡りだすのを感じる。 

 この時間を終わらせたくない。それが、千優の想いだった。

 二人が知り合ってから、約一年と数か月。つい最近まで、その間柄は他の社員と大差無いものだった。
 しかしここ一か月程の間に、関係は目に見えて変わった気がする。
 以前よりも多く言葉を交わす様になり、今日は二人きりで飲みに出かけた。
 後藤や篠原と行く飲み会や、茅乃とのそれとは何かが違う。

 これまで感じたことの無い不思議な居心地の良さが、必死に終わりを拒んでいる。
 明確な理由など知らぬ、衝動にも似た想いが募るばかりだ。

「ふふ。馬鹿ねぇ、もう」

 これ以上、何を言えばいい。
 新たなモヤモヤを抱え手元を見つめると、頭上から降り注ぐ穏やかな声と共に、グラスを持つ手に、己ではない大きな手が重ねられる。

「またいつでも飲みに行けばいいでしょう? アタシも柳ちゃんも、どこか遠くへ行くわけじゃないんだから。その気になれば、いつだって一緒に居られるわ」

「……また?」

「えぇ、また予定を合わせて、あのお店に行きましょう? まだまだ、おすすめの料理もお酒もいっぱいあるんだから」

 耳をくすぐる魅力的な、そして少しだけ熱を孕んだ様子の言葉につられ、ゆっくりと顔をあげる。
 高鳴る心音を胸に感じていると、「だから、そんな泣きそうな顔しないでちょうだい」なんて困り顔の國枝と目が合う。

「……?」

 別に悲しくなどないのに、自分は泣いているのだろうか。
 彼の言わんとする意味がわからず、小首を傾げながら瞬きをする。
 すると、眼差しの先にある表情は、いつの間にか普段と変わらぬ微笑みへ変わっていた。

「ほら、お水飲みなさい」

「はい……あっ」

 國枝の言葉に、再び視線を落とすと、先程までそこにあったはずのぬくもりは消えていた。
 残念に思いながら、言われるがまま千優は手にしたグラスを口元へ近づける。
 すると、どこかぼんやりする意識のせいで、力が抜けた手からすっぽりとそれは抜け落ちていく。

 千優はしばし膝に転がるグラスと氷を見つめたのち、ビチャビチャに濡れひんやりとする胸元へ視線を向けた。



 氷とグラスを拾い、「タオルを取ってくる」と言い残して出ていった國枝の後ろ姿を見送る。
 一人になったせいか、静寂な室内に漂う空気がやけに気になり、どうにも落ち着かない。
 気を紛らわそうと室内を眺めてみたが、情報は一向に頭へ入って来なかった。

「…………」

 中途半端に残る眠気が、重くなった瞼を閉ざそうとする。
 しかし、今ここで寝てはいけないと、本能が騒ぎ出す。
 ここへ来る途中に目覚めてから、一体どれほど時間が経ったのだろう。
 そんなことをぼんやり考えていれば、不意に視界の端で胸元が目についた。

(気持ち悪い……)

 水に濡れ、素肌に張りつくブラウスの感触が、眉間の皺を深くする。
 しっかり視線を下げ確認すると、数年は愛用している安物のブラジャーが透け、申し訳程度にある膨らみを包む姿が露わになっていた。
 何とも言い難い不快感から解放されたくて、千優は着ていた上着を脱ぎ、時折おぼつかぬ手つきでブラウスのボタンを外していく。
 しっとりと濡れた部分はやけに冷たいが、いまだ火照る身体には丁度良い。

「ごめんなさいね、柳ちゃん。なかなか丁度いい大きさのタオルが見つからな……」

 上着とブラウスを脱ぎ、改めてブラジャーへ手をのばす。
 すると、あろうことか下着まで水を含んでいるではないか。
 わかった途端、それすらも取り外そうと、千優は徐に背中へ手を回す。
 その時、ドアが開く音と一緒に國枝の声が聞こえ、胸元へ落としていた視線を顔と共にあげた。

 自発的な行動と言え、あられもない姿をさらす千優の瞳が、大きく目を見開き自分を見つめる彼の姿をとらえる。
 時間にしてたった数分。しかしその間、強烈に感じていたはずの寂しさが、瞬く間に消えていく。
 一人じゃなくなったことが嬉しくて、千優はブラのホックから離した両手を、無邪気に呆然と立ち尽くす男へのばす。

「柳ちゃん、貴方一体何してっ!」

 そんな彼女の姿を目にしたせいか、険しい表情を浮かべた彼が足早にベッドへ近づいて来た。

「くっにえだしゃーん!」

 しかし、彼の事情などお構いなしの千優は、腰を屈め、視線を合わせようとする國枝の首に両腕を絡め抱きつく。
 服を着ていた時より、ダイレクトに感じるぬくもりに、先程まで気にしていたことなど吹き飛んでいった。
 残った水滴が気化する影響か、露出した肌が冷えていく。それを中和しようと、抱きつく腕に意識せず力がこもった。





(え……?)

 気がついた時には、視界から國枝の顔が消え、続いて扉が消え、映し出されるのは天井と照明という無機物なものとなった。
 やけにゆっくりと上半身が後ろへ倒れていく感覚と一緒に、目の前の景色が変わっていく。
 瞬きをすることも忘れて、頭の中が一瞬真っ白になった。

「どうせ無自覚だろうから……何を言っても無駄なことくらいわかってるつもり、だけどさ。柳、お前……流石に俺もそろそろ限界なの、ちゃんと気づいてんの?」

 脳内と視界を覆っていた白が徐々に晴れていく。
 数回瞬きをした先にあるのは、視界のほとんどを占める國枝の顔と、端々に映りこむ天井の二つ。

 背中越しに気づくベッドシーツの感触に、不鮮明だった千優の脳内が徐々に色づき始めた。
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