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イギリス 編
リマインダーとメリーさん
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同じジョン・アルクールの香水でも、フローラル系はちょっと苦手だったりする。
だから匂いの種類の好みも、相性には大事なんだろうな。
食の好みも一緒に生活する上で大事だし、五感、本能に訴えるものって要になる。
「正樹、グルマン系とかフローラルとか苦手だもんな」
慎也が納得したように言い、少し私に顔を寄せてスンッと匂いを嗅いでくる。
うん。好意的に見てくれているのは分かるけど、人前で匂いを嗅ぐのやめようね。
ちなみに、グルマン系というのは、お菓子みたいな甘さの香りの種類だ。
「それなー。しかも利佳が好きだったのがフランス香水でさ。僕、イギリス香水の軽めなのが好きなんだけど、利佳、割と重たくて甘いのが好きで、そこが決定的に合わなかったんだよね」
文香は沢山香水を持っていて、お試しさせてもらう事がある。
それで知ったのは、フランスブランドの香水は割と主張が強い。
逆を言えば、そちらを好む人はイギリス香水は物足りないと思うのかもしれないけど。
ジョン・アルクールで売っている〝クリスタル〟シリーズは、ほとんどがオー・ド・トワレぐらいだ。
もっと匂いが長持ちする、黒いボトルの〝ナイト〟シリーズはもっと匂いがしっかりしている。
さらに、一部の店舗で売っている一瓶数万円する〝パラダイス〟シリーズは、オー・ド・パルファムだ。
香りの存在感や、匂いの重厚さというのも、人の好みなんだろうな、と思う。
私は軽めに匂いを纏って、消えてきたら携帯用のボトルで少し足す、ぐらいの感覚だ。
けれど、利佳さんはラストノートまでしっかり楽しめる系が好きだった。
たったそれだけの話なんだけど、それが正樹には合わず落ち着かなかったという話だ。
「まー、世間的にも破局の理由を聞いて『そんな事で?』っていうのは結構あるけど、それが決定打だったり、どうしても本能的に受け付けなかったとかはあるんだろうな。『味噌汁が不味かった』で離婚した人も知ってるし」
「だねー。私、貧乏揺すりする人は無理かな」
そう言うと、二人は「分かる」という顔で頷いた。
「僕は色んな理由があって、利佳の側では安らげなかった。それだけの話」
「それだけ」と言われたらそれまでなんだけど、まぁ、そうなんだろうな。
誰にだって、些細な事だけど譲れないところってあるだろうし。
**
雑談をしているうちに、搭乗時間が近づいた。
チケットチェックをして、ファーストクラス専用の入り口から機内に乗り込むと、滅多に見られない世界が広がる。
「すご……」
個室のようになった席がゆったりと配置されていて、一席の幅が贅沢だ。
「優美ちゃん、外の景色見たかった?」
「え? あ、どっちでも」
ファーストクラスの席は八席しかなく、そのうち七名が私たちだ。
ほぼ貸し切り。すごい……。
真ん中の席は二つくっついているけれど、完全にプライバシーが守られた状態になっている。
「どこに座りたい? 自由に使っていいよ。座りたい席があったら交換するし」
「あ、いやいや……」
私が持っているチケットの席は、真ん中だ。
隣は一席なのであって……。
そう思って、チラリと二人を見る。
すると、慎也がにんまり笑ってピースしてみせた。
「え?」
「俺がチョキで勝った」
あ、あー。了解です。
三席連結なら、三人で真ん中に……とできたけど、隣り合った席は二つしかない。
それで二人の間で熾烈な争い――じゃんけんがあったんだろう。
大人の男の、真剣なじゃんけんが……。
「いや、でもせっかくだし、希望を言えるなら窓際がいいな!」
「「なるほど」」
私の結論を聞き、二人が頷く。
結局、窓際の席に座った私の隣と前に二人が座る事になった。
「……優美ちゃん、僕の事を忘れないでね……」
正樹が芝居がかった調子で私の手を握ってくる。
「はいはい。ヒースローに着いたら会いましょうね」
「そんなに!? 十分おきに席を確認していい?」
「リマインダーか」
「俺も何かあるごとに報告しようかな」
「いらんわ。メリーさんか」
二人に突っ込みを入れたあと、私は窓際の席に落ち着いた。
エコノミーに座っていると、一席に対して窓が一つの広さだ。
だから匂いの種類の好みも、相性には大事なんだろうな。
食の好みも一緒に生活する上で大事だし、五感、本能に訴えるものって要になる。
「正樹、グルマン系とかフローラルとか苦手だもんな」
慎也が納得したように言い、少し私に顔を寄せてスンッと匂いを嗅いでくる。
うん。好意的に見てくれているのは分かるけど、人前で匂いを嗅ぐのやめようね。
ちなみに、グルマン系というのは、お菓子みたいな甘さの香りの種類だ。
「それなー。しかも利佳が好きだったのがフランス香水でさ。僕、イギリス香水の軽めなのが好きなんだけど、利佳、割と重たくて甘いのが好きで、そこが決定的に合わなかったんだよね」
文香は沢山香水を持っていて、お試しさせてもらう事がある。
それで知ったのは、フランスブランドの香水は割と主張が強い。
逆を言えば、そちらを好む人はイギリス香水は物足りないと思うのかもしれないけど。
ジョン・アルクールで売っている〝クリスタル〟シリーズは、ほとんどがオー・ド・トワレぐらいだ。
もっと匂いが長持ちする、黒いボトルの〝ナイト〟シリーズはもっと匂いがしっかりしている。
さらに、一部の店舗で売っている一瓶数万円する〝パラダイス〟シリーズは、オー・ド・パルファムだ。
香りの存在感や、匂いの重厚さというのも、人の好みなんだろうな、と思う。
私は軽めに匂いを纏って、消えてきたら携帯用のボトルで少し足す、ぐらいの感覚だ。
けれど、利佳さんはラストノートまでしっかり楽しめる系が好きだった。
たったそれだけの話なんだけど、それが正樹には合わず落ち着かなかったという話だ。
「まー、世間的にも破局の理由を聞いて『そんな事で?』っていうのは結構あるけど、それが決定打だったり、どうしても本能的に受け付けなかったとかはあるんだろうな。『味噌汁が不味かった』で離婚した人も知ってるし」
「だねー。私、貧乏揺すりする人は無理かな」
そう言うと、二人は「分かる」という顔で頷いた。
「僕は色んな理由があって、利佳の側では安らげなかった。それだけの話」
「それだけ」と言われたらそれまでなんだけど、まぁ、そうなんだろうな。
誰にだって、些細な事だけど譲れないところってあるだろうし。
**
雑談をしているうちに、搭乗時間が近づいた。
チケットチェックをして、ファーストクラス専用の入り口から機内に乗り込むと、滅多に見られない世界が広がる。
「すご……」
個室のようになった席がゆったりと配置されていて、一席の幅が贅沢だ。
「優美ちゃん、外の景色見たかった?」
「え? あ、どっちでも」
ファーストクラスの席は八席しかなく、そのうち七名が私たちだ。
ほぼ貸し切り。すごい……。
真ん中の席は二つくっついているけれど、完全にプライバシーが守られた状態になっている。
「どこに座りたい? 自由に使っていいよ。座りたい席があったら交換するし」
「あ、いやいや……」
私が持っているチケットの席は、真ん中だ。
隣は一席なのであって……。
そう思って、チラリと二人を見る。
すると、慎也がにんまり笑ってピースしてみせた。
「え?」
「俺がチョキで勝った」
あ、あー。了解です。
三席連結なら、三人で真ん中に……とできたけど、隣り合った席は二つしかない。
それで二人の間で熾烈な争い――じゃんけんがあったんだろう。
大人の男の、真剣なじゃんけんが……。
「いや、でもせっかくだし、希望を言えるなら窓際がいいな!」
「「なるほど」」
私の結論を聞き、二人が頷く。
結局、窓際の席に座った私の隣と前に二人が座る事になった。
「……優美ちゃん、僕の事を忘れないでね……」
正樹が芝居がかった調子で私の手を握ってくる。
「はいはい。ヒースローに着いたら会いましょうね」
「そんなに!? 十分おきに席を確認していい?」
「リマインダーか」
「俺も何かあるごとに報告しようかな」
「いらんわ。メリーさんか」
二人に突っ込みを入れたあと、私は窓際の席に落ち着いた。
エコノミーに座っていると、一席に対して窓が一つの広さだ。
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