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イギリス 編
夜の散歩
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『私はあれほど落ち込んでいた正樹が、こんなにも明るく立ち直ってくれて安心しているよ』
『ありがとう、ビル』
正樹がお礼を言い、にっこり笑う。
そのあとも何気ない会話や、明日の予定などを話したあと、夕食まで自由時間という事になった。
夕食は前菜から始めるコース仕立てだけれど、家庭料理っぽい雰囲気も混じっていた。
何から何まで高度なテクニックを使った高級フレンチではなく、イギリスでお客さんに出す少し豪華な献立が、コース仕立てで出た印象だ。
前菜には旬の野菜を用いた物、スープにサラダ、そしてメインはポークステーキ。
奥さんお手製らしいケーキに紅茶。
美味しい、美味しい、と食べると奥さんも喜んでくれた。
**
食後、空いた時間は自由に敷地内を散歩していいと言われた。
なので私は寝る前にイギリスの星空を見てみようと思い、Tシャツにハーフパンツという姿で外にでた。
締め出しを食らうとアレなので、誰かが外に出ている時は、玄関にある小さな置物をひっくり返すルールになっているらしい。
教えられたのは掌サイズのライオンの置物で、私はそれをコトンと横に倒した。
それから玄関ドアを開け、外に出る。
「おお……、気持ちいい」
城の周りは広々とした敷地なので、隣接する建物などもない。
この湖水地方という場所全体が別荘地なのもあり、煌々とした灯りは少ない。
見えるのは森のシルエットと、どこまでも続く丘陵。
ロンドンなどのある、イギリスの南側――イングランドはほぼ低地だ。
移動している時も風景の中に山はなく、丘がどこまでも続いていた。
あちこちに羊が沢山放牧されているけれど、見張っている人はいないらしく不思議だった。
低地なだけに、雨が降るとしばらく雨水が溜まってしまい大変らしい。
ロンドンから北上して、スコットランドとの間に湖水地方がある。
国立公園の中に山があるけれど、イギリス国内の山といっても一番高くて千五百メートルいかないほど低い。
なので地理的に言えば山間の平野にいるはずなんだけど、周囲を見回しても山! という山はまったく見えなかった。
(あの丘が格好いいんだよなぁ……。海外の歴史ドラマで、馬に乗った騎士がずっと駆けてそう)
そう思うとワクワクして、妄想がはかどってしまう。
私は映画が好きで、ドバーン! としたアクションも好きだけど、ロマンチックな恋愛ものも好きだ。
だからドレスを着たお姫様とか騎士のロマンスの、本場とも言えるイギリスに来て、密かにワクワクしていた。
(はぁー、いいなぁ。空が広い)
城の前はロータリーのようになっていて、その中央に大きな噴水がある。
道路はまっすぐ続き、ずっと遠くにある門に向かっていた。
周囲は芝生と整えられた庭園になっていて、道沿いに木が等間隔に植えられている。
裏手まで行くと、綺麗に整えられたローズガーデンがあった。
アーチをくぐると砂地の小道が続き、低木の生け垣で区切られたブロックごとに、バラが咲き乱れている。
ブロックの中央には神話に出てくる女神なのか、それともニンフとか呼ばれた妖精(?)なのか分からないけれど、女の人の立像があった。
ライトアップされた庭園はとても綺麗で、私はスマホで写真を撮った。
勿論、許可ありだ。
ローズガーデンの他には、いわゆるイングリッシュガーデンというのか、グリーンが多くワイルドフラワーが自然に配置された庭もある。
他にもギリシャ神話の神殿みたいな造りの建物や池、小さな橋に温室などもあるようで、それらは明日クルージングから戻ったら夫人に案内してもらう事になっている。
極めつけは裏手にどーんとある、生け垣によってできた巨大迷路だ。
現代の感覚だと「何のために……」と思ってしまうけれど、聞く話では昔の貴族が鬼ごっことかに使った、遊戯目的のものらしい。
「すごいなぁ……」
ゆっくり歩きながら、空を見上げる。
もうとにかく、視界を遮る高いもの――ビルや山がないので、上は一面の星空だ。
日本ではかなり田舎まで行かないと見えない、天の川まで肉眼で見える。
乳白色のぼんやりとした筋が空に架かり、まだらな中にある黒くぽっかりした所もあり、頭の中で文香と行ったプラネタリウムでの解説を思い出そうとする。
――と、その時、ザリ……と砂地を踏みしめる音がして人の気配がした。
慎也か正樹かな? と思って首を戻すと、こちらに向かってゆっくり歩いてくるのはエディさんだった。
『ありがとう、ビル』
正樹がお礼を言い、にっこり笑う。
そのあとも何気ない会話や、明日の予定などを話したあと、夕食まで自由時間という事になった。
夕食は前菜から始めるコース仕立てだけれど、家庭料理っぽい雰囲気も混じっていた。
何から何まで高度なテクニックを使った高級フレンチではなく、イギリスでお客さんに出す少し豪華な献立が、コース仕立てで出た印象だ。
前菜には旬の野菜を用いた物、スープにサラダ、そしてメインはポークステーキ。
奥さんお手製らしいケーキに紅茶。
美味しい、美味しい、と食べると奥さんも喜んでくれた。
**
食後、空いた時間は自由に敷地内を散歩していいと言われた。
なので私は寝る前にイギリスの星空を見てみようと思い、Tシャツにハーフパンツという姿で外にでた。
締め出しを食らうとアレなので、誰かが外に出ている時は、玄関にある小さな置物をひっくり返すルールになっているらしい。
教えられたのは掌サイズのライオンの置物で、私はそれをコトンと横に倒した。
それから玄関ドアを開け、外に出る。
「おお……、気持ちいい」
城の周りは広々とした敷地なので、隣接する建物などもない。
この湖水地方という場所全体が別荘地なのもあり、煌々とした灯りは少ない。
見えるのは森のシルエットと、どこまでも続く丘陵。
ロンドンなどのある、イギリスの南側――イングランドはほぼ低地だ。
移動している時も風景の中に山はなく、丘がどこまでも続いていた。
あちこちに羊が沢山放牧されているけれど、見張っている人はいないらしく不思議だった。
低地なだけに、雨が降るとしばらく雨水が溜まってしまい大変らしい。
ロンドンから北上して、スコットランドとの間に湖水地方がある。
国立公園の中に山があるけれど、イギリス国内の山といっても一番高くて千五百メートルいかないほど低い。
なので地理的に言えば山間の平野にいるはずなんだけど、周囲を見回しても山! という山はまったく見えなかった。
(あの丘が格好いいんだよなぁ……。海外の歴史ドラマで、馬に乗った騎士がずっと駆けてそう)
そう思うとワクワクして、妄想がはかどってしまう。
私は映画が好きで、ドバーン! としたアクションも好きだけど、ロマンチックな恋愛ものも好きだ。
だからドレスを着たお姫様とか騎士のロマンスの、本場とも言えるイギリスに来て、密かにワクワクしていた。
(はぁー、いいなぁ。空が広い)
城の前はロータリーのようになっていて、その中央に大きな噴水がある。
道路はまっすぐ続き、ずっと遠くにある門に向かっていた。
周囲は芝生と整えられた庭園になっていて、道沿いに木が等間隔に植えられている。
裏手まで行くと、綺麗に整えられたローズガーデンがあった。
アーチをくぐると砂地の小道が続き、低木の生け垣で区切られたブロックごとに、バラが咲き乱れている。
ブロックの中央には神話に出てくる女神なのか、それともニンフとか呼ばれた妖精(?)なのか分からないけれど、女の人の立像があった。
ライトアップされた庭園はとても綺麗で、私はスマホで写真を撮った。
勿論、許可ありだ。
ローズガーデンの他には、いわゆるイングリッシュガーデンというのか、グリーンが多くワイルドフラワーが自然に配置された庭もある。
他にもギリシャ神話の神殿みたいな造りの建物や池、小さな橋に温室などもあるようで、それらは明日クルージングから戻ったら夫人に案内してもらう事になっている。
極めつけは裏手にどーんとある、生け垣によってできた巨大迷路だ。
現代の感覚だと「何のために……」と思ってしまうけれど、聞く話では昔の貴族が鬼ごっことかに使った、遊戯目的のものらしい。
「すごいなぁ……」
ゆっくり歩きながら、空を見上げる。
もうとにかく、視界を遮る高いもの――ビルや山がないので、上は一面の星空だ。
日本ではかなり田舎まで行かないと見えない、天の川まで肉眼で見える。
乳白色のぼんやりとした筋が空に架かり、まだらな中にある黒くぽっかりした所もあり、頭の中で文香と行ったプラネタリウムでの解説を思い出そうとする。
――と、その時、ザリ……と砂地を踏みしめる音がして人の気配がした。
慎也か正樹かな? と思って首を戻すと、こちらに向かってゆっくり歩いてくるのはエディさんだった。
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