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イギリス 編

さあ! 撮るわよ!

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『あー、そっか……。自由に趣味を楽しみたいなら、お嬢様としてきちんと……か。でも、露出度の高いコスチュームとか、怒られません?』

『優美さんが言うほど露出は高くないと思うわ。太腿や腕、ちょっと谷間を見せるぐらい、普通でしょ? 露出が多い衣装でも、キャラに敬意を払っているから恥ずかしくないわ』

『なるほど』

 コスプレの世界は奥が深そうなので、何も知らない私が余計な口出しをしたら駄目だ。

 テレビでもたまにコミフェスの様子や、有名コスプレイヤーさんの映像が流れるけど、あれはあれで、きちんとした産業だもんなぁ。

 グラビアとかもだけど、あまり肌を出し過ぎていると一部の人が良からぬ事を言う。
 多分、日本の「隠す事が美徳」からなんだろうけど。

 でも私はスタイルキープをしているだけで、十分凄い事だと思っている。
 あとは公序良俗とかに反しなければ、自由じゃないかな。

 コミフェスって全員が〝参加者〟で上下はないはずだから、本人が楽しめたら何でもいいのではと思ってしまう。

 そんな事を考えている間にも、シャーロットさんは私の髪を一本に纏めて三つ編みにし、シニョンを作るとリボンのついたシニョンカバーをつけた。

『はい、ヘッドドレスよ』

 そしてフリルのついたカチューシャを頭に被せてきた。

『本当はキャップの方がクラシカルだけど、やっぱりこっちのほうが可愛いもの』

 鏡に映った自分を見て、私はなまぬるーい笑みを浮かべた。

 な、慣れなーーーい!!

『こっちを向いてくれる?』

 言われてドレッサーの椅子に座ったまま後ろを向くと、バンドのついた白い輪と、ソックスを渡された。

『ソックスガーターもきちんとしないとね。靴もサイズを聞いたから、きっと合うと思うわ』

 そう言って彼女がコトンと置いたのは、ラウンドトゥのメリー・ジェーン――ストラップシューズだ。
 何か……あの、お人形さんが履いてそうな……。

『私が履かせてあげるわね』

『えっ、えぇっ!? あのっ』

 慌てる私の前で彼女は跪き、靴を脱がせた私の足を自分の膝の上にのせた。

『すっ、すみません! あの、蒸れてますので!』

 焦って足を引こうとしたが、恍惚とした表情のシャーロットさんに脚を抱きしめられた。

『昔、執事ってこうやってお嬢様の靴紐を結んでいたんですって。良くない!?』

『えぁ、あ、は、はぁ……』

 彼女の熱量にちょっと引いた私は、曖昧な返事をする。

 シャーロットさんは私の靴下を脱がせ、薄くて長めの白ソックスを履かせてきた。
 それをソックスガーターのクリップで挟み、きつすぎない塩梅でベルトを締めてくる。

(そういえば、慎也も正樹も、こういうのしてたっけ)

 二人は靴下がずり落ちないようにと、ソックスガーターを着けていた。

 あと、シャツガーターというのも着けている。
 スラックスを脱いだ時に物凄い破壊力になるんだけど、太腿にベルトをつけてワイシャツの裾にクリップをつけ、シャツに皺が寄らないようにする物だ。

 どちらも「だらしない印象を与えないため」らしいんだけど、私は女性のガーターベルトしか知らなかったので、新しい世界を開いた気持ちになったものだ。

『さあ、できたわ』

 言われて靴を履くと、シャーロットさんが姿見の前に私を導く。

 うっ…………、うわぁあああぁ…………!!

 鏡には、羞恥で唇を震わせている私が映っている。
〝私〟そのままなんだけど、着ているのは上品なメイドの服で……。

 シャーロットさんがサイズにこだわったからか、サイズ感にも違和感がない。
 日本でコスプレしようと思って安い既製品を買ったら、エロ動画に出てくる何かのようになりそう……と思っていたのに、さすが本格派だ。

 恥ずかしいながらも感心していると、シャーロットさんがドアを開いて言った。

『お兄様? 準備はできてる?』

 彼女の声を聞き、現れたのは…………、えぇええっ!?

 ぞろぞろと室内に入ってきた四人――、慎也と正樹、エディさんとクリスさんは、そろいもそろって執事服、そして童話に出てくる王子様みたいな服を着ていた。

 さすがに白タイツにヒラヒラの袖、フリフリのネクタイ……ではない。
 多分、そういうのを用意したら、皆嫌がると分かっているんだろう。

 正樹とクリスさんは執事の格好をしていて、燕尾服をスラリと着こなしていて格好いい。

 慎也は装飾の多いジャケットに揃いのベスト、その下には白いシャツを着て、首元にはアスコットタイを締めている。
 タイトなズボンに膝下丈のブーツを履いていて、恥ずかしいのかムスッとしている。
 でも私を見る目はとても嬉しそうで、不機嫌と上機嫌の間のビッミョー……な顔をしていた。

 エディさんも慎也と似た雰囲気の服を着ていて、貴族組と執事組に分かれたのだろう。

『さあ! 撮るわよ!』

 そこでシャーロットさんが、部屋の奥から取り出した、バズーカみたいな一眼レフを取り出し、生き生きしだす。

『えっ!? シャーロットさんは!?』

『いつものメンツに私が混ざってもつまらないわ。お兄様と撮っても何の旨みも生まれないのよ』

 ハッキリ言うので、私は思わず「ぶふっ」と噴きだしてしまった。
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