聖女ですが運命の相手は魔王のようです

臣桜

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吸血鬼種の王、バルキス

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「お前が聖女となるべく育てられたというのは、俺に奪われないようにだろう」

 確かにガーネット様に『聖女になる素質がある』と言われたけれど、『果たして第二王女が聖女をするものか?』と思った事はある。

 他国では教会のシスターや聖属性の魔法を得意とする魔術師が、選ばれて聖女となる事が多かった。

 私のように、王族でありながら聖女もこなすという例はとても珍しい。

 王族が絶大な力でもって国を守るケースはあるとしても、基本的に王族は公務に執務とやる事が沢山あり忙しい。

 たとえ王族に聖女となる素質があったとしても、他に適任の者がいればその者に任せ、王女としての役割をこなすべきなのだ。

(物心ついた時から『聖女となるために修行を積みなさい』と言われて育ったけれど、確かに言われてみれば……)

 疑問を抱かなかった訳ではないけれど、誰も異を唱えなかったので『そんなものか』と思って深く考えずにいた。

 ……というか、『妻として迎えにくる?』。

 聞き捨てならない言葉を思いだして眉間に皺を寄せた私は、バルキスに尋ねた。

「あなたはいつ、私を妻にすると決めたのです?」

 確かこの人、三百年待っていたと言っていたような……。

 私はピチピチの十八歳で、三百年前には存在していない。

「三百年前からだ。俺はずっとお前が生まれ変わり、成人する時を待っていた」

 バルキスは目に慈愛の光を宿し、私を見つめてくる。

「前世の私が何者だったのかは分かりませんが、三百年も私を待っていたのですか?」

「ああ」

「あなた、相当に歳をお召しと思いますが、こんな小娘を待っていたのですか?」

「……お爺ちゃん扱いするのヤメテ……」

「それに、ハッキリ言いますが暇ですね?」

「酷い!」

 バルキスは私の突っ込みに突っ込みを返し、両手で顔を覆って泣くふりをする。

「魔族と言えば悪逆の限りをつくす存在なのに、私が成人するまで待つとは随分気が長いのですね」

「そこまで悪くないもん」

「あ、すみません」

 彼がいじけてしまったので、とりあえず謝っておく。

 バルキスは咳払いをしたあと、まじめな顔をして説明する。

「魔族とはいえ、この通り感情があるし、俺は訳あってアリシアが転生するのを待っていた。お前を愛しいと思っているし、妻にしたい」

「すみません、大事な儀式を台無しにした人にプロポーズされても、まったく響きません」

「…………ごめんなさい。あれはちょっと注目を浴びたくて……」

 冷ややかな視線を送ると、バルキスは素直に反省する。

 彼を受け入れる訳ではないけれど、こうやって話していると魔族と言っても憎めない感じがする。

 彼はまた咳払いをして気を取り直し、話の続きをする。

「魔族だって誰彼かまわず襲っている訳じゃない。知能の低い下級魔族は人を襲うかもしれないが、高位魔族は必要な時に必要なだけ生命力や血をもらっている。魔族というだけで〝悪〟と決めつけるのはやめてほしい」

 確かに、今まで私は一方的な物の見方をしていたかもしれない。

〝魔族〟は〝人間〟を襲うから、〝魔族〟は〝敵〟であり〝悪〟だと思い込んでいた。

 彼らの中にもヒエラルキーがあり、知性ある高位魔族は下級魔族の本能的な行動を制御できないのかもしれない。

 いや、やろうと思えばできるのだろうけれど、特にメリットはないのだろう。

 恐らく知能の差は人間と家畜ぐらいで、下級魔族を従えたとしてもできる事は限られている。

(……たとえば、街や村を襲わせるとか)

 心の中で呟いた私は、小さく溜め息をつく。

 とりあえず、彼の言う事にも一理あるので謝っておく事にした。

「お気を害したなら謝ります。人間以外の存在への理解が深くないので、誤解していた点もあると思います」

 素直に非を認めると、バルキスは息を吐くように笑い、私の頭をポンポンと撫でてくる。

 ……魔族に頭を撫でられるとは。

「素直さは美徳だ」

 変な感じだけれど、褒められて嫌な気持ちはしない。

 少なくとも、彼は見境なく攻撃してくる獰猛な魔族では……。…………ん? いや、初対面で襲ってきたのは確かだ。

 微妙な表情になった私は、少し乱れたネグリジェと髪を整えて尋ねた。

「もう一度お聞きします。あなたは何者ですか?」

 私の問いに、バルキスは赤い目を細めた。

「俺は吸血鬼種の王、バルキス。魔王と呼ぶ者もいる」

 ニィッと笑った彼の口元には、確かに鋭い牙があった。

「あがっ!」

「これ、人の生き血を吸うには短くありませんか? 有事の時は伸びるのですか? というか口の中をケガしませんか?」

「あがっ、がっ! ひょっ、まっ」

 私は初めて見る吸血鬼の牙に、やや己を見失って質問を重ねる。

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