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イェールン伯爵
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「勿論です」
アネッタは一見あまり目立たない顔立ちで、ドレスなども彼女の趣味を反映しているのか色彩が抑えめだ。
それがさらに他の令嬢たちからからかわれる由縁なのだが、クローディアとしては既に結婚しているアネッタはどれだけ外見について言われようがすでに勝利していると思っている。
二十歳を超えると、令嬢たちは少しずつ〝嫁き遅れ〟と呼ばれるのを恐れるようになっていく。
そんな中、クローディアもアネッタも早々に結婚してしまった。
二年前にクローディアやアネッタに意地悪な事を言っていた令嬢を見かけたが、いまだに舞踏会でより良い結婚相手を探しているようで、苦労しているのだなという感想を抱くのみだ。
無論、本音を言えばそのような年齢の縛りや、既婚か未婚かで女性を判断する価値観が変わればいいと思っている。
ソルのように子が作れない体質だと、結婚しても「役立たず」と言われてしまう残酷な世界だ。
せめてバフェット領だけでも、女性がもっとのびのびと暮らせる土地にできたら……とクローディアは考えていた。
(それはさておき、今はアネッタ様ね)
四人とも飲み物のグラスを持ち、乾杯をする。
爽やかな果実酒を一口飲んでから、クローディアはアネッタに話し掛けた。
「お会いできて良かったです。ご結婚されたのに、お祝いに駆けつけられずにすみません」
「いいえ。私こそバフェット辺境伯が亡くなられたというのに、葬儀にも行けず申し訳ございません」
話した感じでは、アネッタは昔から変わっていない。人が良く、親切な女性そのままだ。
「構いません。冬場の盛りでしたもの。雪深いバフェット領まで来ていただくには、難しい時期でしたわ」
「お気遣いありがとうございます」
一通り挨拶を終えて彼女の夫も紹介してもらったあと、アネッタが気遣わしげな顔をしているのに気付き、クローディアは苦笑いする。
「私が激変して戸惑っていらっしゃる?」
「えっ? いえ、その……」
動揺を隠しきれていないアネッタの素直さに、クローディアはますます笑みを深める。
「わざとですもの、戸惑って当然ですわ」
「わざと……?」
目を瞬かせるアネッタにウィンクをし、クローディアは彼女の夫ともども、秘密を守るようお願いする。
そして自分が自由奔放な未亡人を演じているのは、理由があっての事だと打ち明けた。
「そこで、お話があります。アネッタ様のお父上の、イェールン伯爵を紹介して頂きたいのです」
「構いませんけど……。本日もどこかにいるはずですわ」
アネッタは立ち上がり、ボールルームを見回す。
「一緒に歩いてみましょうか。お父様が見つかったら、ご紹介致します」
「ええ、ご親切にありがとうございます」
クローディアは礼を言い、三人と一緒に歩き始める。
もし自分とアネッタだけなら、通りすがりに令嬢たちに嫌みを言われたかもしれない。
だが今はルシオとアネッタの夫が一緒だからか、棘のある視線はもらうが特に何も言われなかった。
令嬢たちも、ルシオと二人きりなら「悪い噂を聞けばルシオ様もあの毒婦から離れるに違いない」と思っていただろう。
だが同行する人が増えると、注意が分散されて攻撃しづらくなるのかもしれない。
どんな関係であれ、〝仲間〟と一緒にいるのは心強い。
特にミケーラの騎士たちと過ごしていた時のクローディアは、精神的に最強と言っていいほどだった。
あの頃、周囲に愛されたからこそ、クローディアには現在の強さがある。
ボールルームをグルリと回るようにして歩いているうちに、アネッタが「あ、いらっしゃったわ」と声を出す。
「お父様」
先ほどクローディアたちがいた壁際のソファと、フロアを挟んで反対側のソファに、イェールン伯爵は仲間の紳士たちと共にいた。
「おお、アネッタ。どうした?」
伯爵は中肉中背で、温厚そうな顔立ちの人だ。
一目で有力な貴族と感じる外見的迫力はないのだが、周囲にいる貴族たちが彼に向ける目を見れば、頼りにされているとすぐ分かる。
「そちらは……」
イェールン伯爵は、クローディアの姿を見てすぐに〝時の人〟だと気付いたようだ。
「新しくバフェット城の女城主となりました、クローディアと申します」
クローディアは紅を塗った唇で微笑み、その場で優雅にお辞儀をしてみせた。
アネッタは一見あまり目立たない顔立ちで、ドレスなども彼女の趣味を反映しているのか色彩が抑えめだ。
それがさらに他の令嬢たちからからかわれる由縁なのだが、クローディアとしては既に結婚しているアネッタはどれだけ外見について言われようがすでに勝利していると思っている。
二十歳を超えると、令嬢たちは少しずつ〝嫁き遅れ〟と呼ばれるのを恐れるようになっていく。
そんな中、クローディアもアネッタも早々に結婚してしまった。
二年前にクローディアやアネッタに意地悪な事を言っていた令嬢を見かけたが、いまだに舞踏会でより良い結婚相手を探しているようで、苦労しているのだなという感想を抱くのみだ。
無論、本音を言えばそのような年齢の縛りや、既婚か未婚かで女性を判断する価値観が変わればいいと思っている。
ソルのように子が作れない体質だと、結婚しても「役立たず」と言われてしまう残酷な世界だ。
せめてバフェット領だけでも、女性がもっとのびのびと暮らせる土地にできたら……とクローディアは考えていた。
(それはさておき、今はアネッタ様ね)
四人とも飲み物のグラスを持ち、乾杯をする。
爽やかな果実酒を一口飲んでから、クローディアはアネッタに話し掛けた。
「お会いできて良かったです。ご結婚されたのに、お祝いに駆けつけられずにすみません」
「いいえ。私こそバフェット辺境伯が亡くなられたというのに、葬儀にも行けず申し訳ございません」
話した感じでは、アネッタは昔から変わっていない。人が良く、親切な女性そのままだ。
「構いません。冬場の盛りでしたもの。雪深いバフェット領まで来ていただくには、難しい時期でしたわ」
「お気遣いありがとうございます」
一通り挨拶を終えて彼女の夫も紹介してもらったあと、アネッタが気遣わしげな顔をしているのに気付き、クローディアは苦笑いする。
「私が激変して戸惑っていらっしゃる?」
「えっ? いえ、その……」
動揺を隠しきれていないアネッタの素直さに、クローディアはますます笑みを深める。
「わざとですもの、戸惑って当然ですわ」
「わざと……?」
目を瞬かせるアネッタにウィンクをし、クローディアは彼女の夫ともども、秘密を守るようお願いする。
そして自分が自由奔放な未亡人を演じているのは、理由があっての事だと打ち明けた。
「そこで、お話があります。アネッタ様のお父上の、イェールン伯爵を紹介して頂きたいのです」
「構いませんけど……。本日もどこかにいるはずですわ」
アネッタは立ち上がり、ボールルームを見回す。
「一緒に歩いてみましょうか。お父様が見つかったら、ご紹介致します」
「ええ、ご親切にありがとうございます」
クローディアは礼を言い、三人と一緒に歩き始める。
もし自分とアネッタだけなら、通りすがりに令嬢たちに嫌みを言われたかもしれない。
だが今はルシオとアネッタの夫が一緒だからか、棘のある視線はもらうが特に何も言われなかった。
令嬢たちも、ルシオと二人きりなら「悪い噂を聞けばルシオ様もあの毒婦から離れるに違いない」と思っていただろう。
だが同行する人が増えると、注意が分散されて攻撃しづらくなるのかもしれない。
どんな関係であれ、〝仲間〟と一緒にいるのは心強い。
特にミケーラの騎士たちと過ごしていた時のクローディアは、精神的に最強と言っていいほどだった。
あの頃、周囲に愛されたからこそ、クローディアには現在の強さがある。
ボールルームをグルリと回るようにして歩いているうちに、アネッタが「あ、いらっしゃったわ」と声を出す。
「お父様」
先ほどクローディアたちがいた壁際のソファと、フロアを挟んで反対側のソファに、イェールン伯爵は仲間の紳士たちと共にいた。
「おお、アネッタ。どうした?」
伯爵は中肉中背で、温厚そうな顔立ちの人だ。
一目で有力な貴族と感じる外見的迫力はないのだが、周囲にいる貴族たちが彼に向ける目を見れば、頼りにされているとすぐ分かる。
「そちらは……」
イェールン伯爵は、クローディアの姿を見てすぐに〝時の人〟だと気付いたようだ。
「新しくバフェット城の女城主となりました、クローディアと申します」
クローディアは紅を塗った唇で微笑み、その場で優雅にお辞儀をしてみせた。
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