【R-18】やさしい手の記憶

臣桜

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追及

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「叔父さん!」
 走ってきたフリッツが自分の手でドアを開き、駆け込んだ先には何やら不穏な空気のバルトルトとギルベルト親子がいた。
「おう、フリッツおはよ」
 長い脚を組み、その胸中を表しているようにしっかりと腕も組んでいるギルベルトが、従弟に声だけはいつも通りを装って挨拶をする。
「……どうかしたのか?」
「いや? ちょっと親父殿と親子喧嘩をしているだけさ」
 それでも苛立ちを隠せない雰囲気で一口紅茶を飲むギルベルトを見て、フリッツは内心首を傾げてバルトルトの様子を見やる。
 こちらも息子に対面して応接用のソファに座り、疲弊したような面持ちで黙り込んでいた。
「まぁ、座れよ。お前にも関係あることだ」
 ギルベルトが腰を上げてフリッツが座る場所をあけ、普段は親子仲のいい二人に何があったのかと思いながら、フリッツも腰掛ける。
「さて、親父殿。さっきの話の続きだ。浮気してんのか?」
 隣にいるギルベルトからは酒の臭いがした。
 従兄が酒が好きなのは知っているし、騎士団の部下とつるんでよく飲んでは女を抱いているのも知っている。
 けれど、こんな風に翌日までプンプンと臭いをさせて人に絡んでいるのは初めてだ。
「……」
 息子の鋭い視線の先、バルトルトは沈黙を守ったままだった。
 しばらく重たい空気が三人の間を支配し、激しい雨が窓を打つ音だけが耳の裏に嫌になるほどこびりつく。
「親父殿」
 沈黙を破ったのはやはりギルベルトで、重たい溜息をついて脚を組み替えた。
「フリッツの前で言ってやれよ。あの若い世話係と実はデキてて、あの娘に毒を漏らせるつもりだったって」
「!」
 投げやりなギルベルトの言葉にフリッツとバルトルトが息を呑み、互いを探る様に見る。
「叔父さん……?」
「ギル、違う。私とあの子はそういう関係ではない」
「じゃあどういう関係だよ!」
 叩き付けるようにギルベルトが声を荒げ、酒で少し充血している目が父親を睨んだ。
「それは……」
 苦しそうに言いかけて目を逸らしてしまうバルトルトを、フリッツは複雑な思いで見るしかない。
「叔父さん……クロエに俺を暗殺させようとしたんですか?」
 有り得ない。
 クロエがアメリアだとしたら、彼女がそんな事をする訳がない。
 まだお互いの立場も身分も知らない、あの深い森の奥で出会ったあの時間は、誰かに指図されたものではなかった。
 そう信じたい自分がいる。
「私がお前を亡き者にしようとするはずがない」
 バルトルトはそれだけはハッキリ言うものの、それでも表情はスッキリとしていなかった。
「じゃあ、あの薬は何なんだよ! 俺はしっかりこの目で見ていたんだからな。客を待たせる控えの部屋で、親父殿がクロエに薬を渡してフリッツに飲ませろと言っていたのを」
 ギルベルトの猛追にバルトルトは深く息を吸い込み、額に手を当てて長く長く息を吐き出す。
「どう……説明したものか」
「できるものならしてみろよ」
 いつもは女性を意識して綺麗に整えられているギルベルトの茶金髪は、何度もグシャグシャと掻き回された所為か乱れていた。
 フリッツと血縁なだけあって整っている顔も、酒と感情とで荒んでいる。
 大事な従兄が荒れているのに、フリッツは心を痛めていた。
 ギルベルトがここまで混乱しているのは、父がクロエと男女の関係にあるのかという疑い以外に、自分を思いやってあれこれ考えてしまっているだろうからだ。
 頭が悪いという訳ではなく、フリッツと同じ様に高等教育を受けてきたギルベルトだが、その性分は机上であれこれ考えるよりも、実際に体を動かした方が楽というものだ。
 今まで母を喪ったなりにも立ち直って楽しい生活を送ってきて、そこに立て続けに頭を悩ませるできごとが起これば、参ってしまっても仕方がない。
 腕を組んだ先で苛々と指が動き、目は血走って信頼しているはずの父親を睨んでいた。
「あの子を……、クロエのいる場で説明しよう」
「フリッツ、クロエは部屋にいるんだろ?」
 父が観念したのかとギルベルトが荒んだ笑みを浮かべ、フリッツに顎をしゃくる。
「あぁ、いや。それが昨晩は確かにいたんだが、今朝は起こしにすら来なくて……」
「え?」
「昨晩無理をさせすぎたのか、もしかしたらまだ寝ているのかもしれない」
 少し照れて言うフリッツだが、ギルベルトは金色の無精ひげの生えた顎に手をやって思考を巡らせていた。
「しかしもう使用人は全員起きている時間だ。主人が起きて活動している時間なのに、メイドの詰所でクロエ一人だけ寝ているのか? お前の世話係というのは、そこまで特別なのか?」
「……」
 言われてみればその通りだ。
 バルトルトもやや顔色を変え、立ち上がる。
「ハンナを捕まえて訊いてみよう」
「わかった」
 すぐに行動する息ぴったりの二人の後にバルトルトも続き、三人は手近な使用人にハンナを呼ばせるという事すら思いつかないほどに慌てて、使用人が働いている一階へと下りて行った。
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