メリー・クリスマス ミクス・マーダー

臣桜

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「……恐いよ。どうしたの? 悠衣」

「いいから、開けて。…………開けろ」

 低い声で命じられ、私は手を震わせながら〝1〟の引き出しを引く。

 少し大きめの引き出しには、眼鏡が入っていた。

 悠衣は私の目の前で両手を開き、右手で左手の親指をトントンと打って、例の歌を口ずさんだ。

「この指はお父さん指。家を出て行ったお父さん、不倫相手に刺されて死んじゃった」

 歌ったあと、悠衣は爬虫類のようにジッと私を見つめて言った。

「忘れてるみたいだけど、夏樹の父親は不倫してたの。不倫相手に本気になられて、断ったら刺されて死んだ。可哀想だね」

「……私の……、お父さん……?」

 混乱していると、悠衣はコツコツと指の背でテーブルを打った。

「次の引き出しを開けて」

 何が起こっているか分からない私は、笑っているとも泣いているともつかない表情で〝2〟の引き出しを開ける。

 中には――、赤黒い何かが入っている。

 植物のようだと分かって触れてみると、カサッと乾いた音がした。

「この指はお母さん指。私を叩いて髪を引っ張り、罵声を浴びせたお母さん、恐い男の人に殴られて死んじゃった」

 悠衣はまた歌ったあと、私の知らない記憶を教えてくる。

「夏樹の母親は、あんたの存在を受け入れなかった。見るのも耐えがたかったんだろうね。酒に溺れて買い物依存症になって、お金を返せなくなった挙げ句、借金取りと口論になって叩かれて、打ち所が悪くて死んだ。あんたは母の日に送ろうとしたカーネーションも、受け取ってもらえなかった」

「……どうして……、こんな酷い事をするの? 私、なんかした?」

「次、開けて」

 なんとかいつもの悠衣に戻ってほしくて、ぎこちなく笑って訴えたけれど、彼女は冷たく命令してくる。

 縦長の〝3〟の引き出しを開けると、中には8mmビデオのテープが入っていた。

「この指はお兄さん指。引きこもって部屋から出てこないお兄さん、私を犯したお兄さん、ネットで中傷されて頭がおかしくなっちゃった」

 その歌を聴いて、ドクンと胸が嫌な鳴り方をする。

「……『私を犯した』って……」

 まるで、私が――。

 表情を強張らせていると、悠衣は聖母のように笑って言った。

「二つ上の引きこもりのお兄さん、ネットに毒されて頭おかしくなったんでしょ? そんな時に可愛い夏樹が現れて、滅茶苦茶にしてやりたくなったんじゃない? あんたが犯された時、ビデオで撮影されてたから、証拠が残らないようにテープを取り出したんでしょ?」

 そこまで言ったあと、悠衣は私の耳元で囁いた。

「だからあんたは、部屋にあったコードで変態兄貴の首を絞めて殺した」

「――――して、ない……っ。――――殺してないっ!」

 私は悲鳴に似た声で否定し、両手で頭を抱える。

 私はそんな犯罪、犯してない。

 ……なのにどうして?

 脳裏に汚部屋が浮かび上がる。

 室内にはこだわりのブラウン管モニターが沢山あって、グラビアポスターが壁中に貼られてあった。

 足の踏み場もない部屋の床には、脂ぎった髪を顔に張り付かせた男が、口から泡を噴いて倒れている。

「次、開けろよ。人殺し」

 悪魔のような悠衣に命令され、私は泣きじゃくりながら〝4〟の引き出しを引く。

 中には、折りたたまれた紙が入っていた。

 開くと、それは姉――、春菜はるなの卒業文集の一ページだった。

「この指はお姉さん指。みんなから美人だと言われるお姉さん、芸能界に入って枕営業をして、心を病んで首を吊っちゃった」

「もう……っ、やめて……っ!」

 姉の春菜は昔からとても可愛くて、私にも優しくしてくれた。

 お化粧に興味を持っていると言ったら、丁寧に教えてくれたいい人だった。

 小学校の卒業文集に書かれた将来の目標には、アイドルと書かれてある。

 当時から美少女ぶりを認められていた姉は、夢を掲げて邁進していたのだ。

 けれど――、売れるためだと言われて水着になり、言われるままに枕営業をし、優しい彼女はズタボロになっていった。

 ずっと連絡がなかったのは、多忙にしている証拠だと思っていた。

 でも姉は、プロデューサーに連れて行かれた地方の温泉旅館で、浴衣の帯を使って首を吊って死んでしまった。

 私が嗚咽していると、悠衣は最後のフレーズを口にする。

「この指は私。無力で何もできないから、泣くしかできない役立たず」

 しばらく、地下室に私が嗚咽する声が響いていた。

「どうして……っ、こんな……っ」

「あと五つあるでしょ? 最後まで開けなよ。あんたには開ける義務があるの」

 悠衣に蹴られた私は、涙を流しながら〝5〟の引き出しを開けた。
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