5 / 10
アドベントカレンダー
しおりを挟む
「……恐いよ。どうしたの? 悠衣」
「いいから、開けて。…………開けろ」
低い声で命じられ、私は手を震わせながら〝1〟の引き出しを引く。
少し大きめの引き出しには、眼鏡が入っていた。
悠衣は私の目の前で両手を開き、右手で左手の親指をトントンと打って、例の歌を口ずさんだ。
「この指はお父さん指。家を出て行ったお父さん、不倫相手に刺されて死んじゃった」
歌ったあと、悠衣は爬虫類のようにジッと私を見つめて言った。
「忘れてるみたいだけど、夏樹の父親は不倫してたの。不倫相手に本気になられて、断ったら刺されて死んだ。可哀想だね」
「……私の……、お父さん……?」
混乱していると、悠衣はコツコツと指の背でテーブルを打った。
「次の引き出しを開けて」
何が起こっているか分からない私は、笑っているとも泣いているともつかない表情で〝2〟の引き出しを開ける。
中には――、赤黒い何かが入っている。
植物のようだと分かって触れてみると、カサッと乾いた音がした。
「この指はお母さん指。私を叩いて髪を引っ張り、罵声を浴びせたお母さん、恐い男の人に殴られて死んじゃった」
悠衣はまた歌ったあと、私の知らない記憶を教えてくる。
「夏樹の母親は、あんたの存在を受け入れなかった。見るのも耐えがたかったんだろうね。酒に溺れて買い物依存症になって、お金を返せなくなった挙げ句、借金取りと口論になって叩かれて、打ち所が悪くて死んだ。あんたは母の日に送ろうとしたカーネーションも、受け取ってもらえなかった」
「……どうして……、こんな酷い事をするの? 私、なんかした?」
「次、開けて」
なんとかいつもの悠衣に戻ってほしくて、ぎこちなく笑って訴えたけれど、彼女は冷たく命令してくる。
縦長の〝3〟の引き出しを開けると、中には8mmビデオのテープが入っていた。
「この指はお兄さん指。引きこもって部屋から出てこないお兄さん、私を犯したお兄さん、ネットで中傷されて頭がおかしくなっちゃった」
その歌を聴いて、ドクンと胸が嫌な鳴り方をする。
「……『私を犯した』って……」
まるで、私が――。
表情を強張らせていると、悠衣は聖母のように笑って言った。
「二つ上の引きこもりのお兄さん、ネットに毒されて頭おかしくなったんでしょ? そんな時に可愛い夏樹が現れて、滅茶苦茶にしてやりたくなったんじゃない? あんたが犯された時、ビデオで撮影されてたから、証拠が残らないようにテープを取り出したんでしょ?」
そこまで言ったあと、悠衣は私の耳元で囁いた。
「だからあんたは、部屋にあったコードで変態兄貴の首を絞めて殺した」
「――――して、ない……っ。――――殺してないっ!」
私は悲鳴に似た声で否定し、両手で頭を抱える。
私はそんな犯罪、犯してない。
……なのにどうして?
脳裏に知らないはずの汚部屋が浮かび上がる。
室内にはこだわりのブラウン管モニターが沢山あって、グラビアポスターが壁中に貼られてあった。
足の踏み場もない部屋の床には、脂ぎった髪を顔に張り付かせた男が、口から泡を噴いて倒れている。
「次、開けろよ。人殺し」
悪魔のような悠衣に命令され、私は泣きじゃくりながら〝4〟の引き出しを引く。
中には、折りたたまれた紙が入っていた。
開くと、それは姉――、春菜の卒業文集の一ページだった。
「この指はお姉さん指。みんなから美人だと言われるお姉さん、芸能界に入って枕営業をして、心を病んで首を吊っちゃった」
「もう……っ、やめて……っ!」
姉の春菜は昔からとても可愛くて、私にも優しくしてくれた。
お化粧に興味を持っていると言ったら、丁寧に教えてくれたいい人だった。
小学校の卒業文集に書かれた将来の目標には、アイドルと書かれてある。
当時から美少女ぶりを認められていた姉は、夢を掲げて邁進していたのだ。
けれど――、売れるためだと言われて水着になり、言われるままに枕営業をし、優しい彼女はズタボロになっていった。
ずっと連絡がなかったのは、多忙にしている証拠だと思っていた。
でも姉は、プロデューサーに連れて行かれた地方の温泉旅館で、浴衣の帯を使って首を吊って死んでしまった。
私が嗚咽していると、悠衣は最後のフレーズを口にする。
「この指は私。無力で何もできないから、泣くしかできない役立たず」
しばらく、地下室に私が嗚咽する声が響いていた。
「どうして……っ、こんな……っ」
「あと五つあるでしょ? 最後まで開けなよ。あんたには開ける義務があるの」
悠衣に蹴られた私は、涙を流しながら〝5〟の引き出しを開けた。
「いいから、開けて。…………開けろ」
低い声で命じられ、私は手を震わせながら〝1〟の引き出しを引く。
少し大きめの引き出しには、眼鏡が入っていた。
悠衣は私の目の前で両手を開き、右手で左手の親指をトントンと打って、例の歌を口ずさんだ。
「この指はお父さん指。家を出て行ったお父さん、不倫相手に刺されて死んじゃった」
歌ったあと、悠衣は爬虫類のようにジッと私を見つめて言った。
「忘れてるみたいだけど、夏樹の父親は不倫してたの。不倫相手に本気になられて、断ったら刺されて死んだ。可哀想だね」
「……私の……、お父さん……?」
混乱していると、悠衣はコツコツと指の背でテーブルを打った。
「次の引き出しを開けて」
何が起こっているか分からない私は、笑っているとも泣いているともつかない表情で〝2〟の引き出しを開ける。
中には――、赤黒い何かが入っている。
植物のようだと分かって触れてみると、カサッと乾いた音がした。
「この指はお母さん指。私を叩いて髪を引っ張り、罵声を浴びせたお母さん、恐い男の人に殴られて死んじゃった」
悠衣はまた歌ったあと、私の知らない記憶を教えてくる。
「夏樹の母親は、あんたの存在を受け入れなかった。見るのも耐えがたかったんだろうね。酒に溺れて買い物依存症になって、お金を返せなくなった挙げ句、借金取りと口論になって叩かれて、打ち所が悪くて死んだ。あんたは母の日に送ろうとしたカーネーションも、受け取ってもらえなかった」
「……どうして……、こんな酷い事をするの? 私、なんかした?」
「次、開けて」
なんとかいつもの悠衣に戻ってほしくて、ぎこちなく笑って訴えたけれど、彼女は冷たく命令してくる。
縦長の〝3〟の引き出しを開けると、中には8mmビデオのテープが入っていた。
「この指はお兄さん指。引きこもって部屋から出てこないお兄さん、私を犯したお兄さん、ネットで中傷されて頭がおかしくなっちゃった」
その歌を聴いて、ドクンと胸が嫌な鳴り方をする。
「……『私を犯した』って……」
まるで、私が――。
表情を強張らせていると、悠衣は聖母のように笑って言った。
「二つ上の引きこもりのお兄さん、ネットに毒されて頭おかしくなったんでしょ? そんな時に可愛い夏樹が現れて、滅茶苦茶にしてやりたくなったんじゃない? あんたが犯された時、ビデオで撮影されてたから、証拠が残らないようにテープを取り出したんでしょ?」
そこまで言ったあと、悠衣は私の耳元で囁いた。
「だからあんたは、部屋にあったコードで変態兄貴の首を絞めて殺した」
「――――して、ない……っ。――――殺してないっ!」
私は悲鳴に似た声で否定し、両手で頭を抱える。
私はそんな犯罪、犯してない。
……なのにどうして?
脳裏に知らないはずの汚部屋が浮かび上がる。
室内にはこだわりのブラウン管モニターが沢山あって、グラビアポスターが壁中に貼られてあった。
足の踏み場もない部屋の床には、脂ぎった髪を顔に張り付かせた男が、口から泡を噴いて倒れている。
「次、開けろよ。人殺し」
悪魔のような悠衣に命令され、私は泣きじゃくりながら〝4〟の引き出しを引く。
中には、折りたたまれた紙が入っていた。
開くと、それは姉――、春菜の卒業文集の一ページだった。
「この指はお姉さん指。みんなから美人だと言われるお姉さん、芸能界に入って枕営業をして、心を病んで首を吊っちゃった」
「もう……っ、やめて……っ!」
姉の春菜は昔からとても可愛くて、私にも優しくしてくれた。
お化粧に興味を持っていると言ったら、丁寧に教えてくれたいい人だった。
小学校の卒業文集に書かれた将来の目標には、アイドルと書かれてある。
当時から美少女ぶりを認められていた姉は、夢を掲げて邁進していたのだ。
けれど――、売れるためだと言われて水着になり、言われるままに枕営業をし、優しい彼女はズタボロになっていった。
ずっと連絡がなかったのは、多忙にしている証拠だと思っていた。
でも姉は、プロデューサーに連れて行かれた地方の温泉旅館で、浴衣の帯を使って首を吊って死んでしまった。
私が嗚咽していると、悠衣は最後のフレーズを口にする。
「この指は私。無力で何もできないから、泣くしかできない役立たず」
しばらく、地下室に私が嗚咽する声が響いていた。
「どうして……っ、こんな……っ」
「あと五つあるでしょ? 最後まで開けなよ。あんたには開ける義務があるの」
悠衣に蹴られた私は、涙を流しながら〝5〟の引き出しを開けた。
2
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる