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まだ分からないの?
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中には、ネクタイピンが入っている。
悠衣は反対の親指をトントンと打ち、歌う。
「この指はお父さん指。みんなに慕われる心の先生。患者から恨まれて殺されちゃった」
脳裏に、リビングダイニングで見た〝裏ビデオ〟がよぎる。
――そんな。……そんな事はない……。
「はい、次開けて」
もう思考は動いてくれない。
私は悠衣の言いなりになって、〝6〟の引き出しを開けた。
中には、銀色の指輪が入っている。
内側に刻印が刻まれているから、結婚指輪だろう。
「この指はお母さん指。優しくて家庭的な理想のママ。人殺しに襲われて、はらわた出して死んじゃった」
ぐ……っ、と喉の奥から何かがせり上がり、吐きそうになってしまう。
さっき食べたチキンが、精神的なショックを受けて逆流しようとしていた。
「次」
まるで囚人と看守だ。
私は震える指を黒い取っ手に引っかけ、〝7〟の引き出しを引いた。
中には、社会現象にもなったカードゲームアニメの、レアカードが入っていた。
「この指はお兄さん指。明るくてみんなの人気者で、妹たちにも優しい理想のお兄さん。犯罪者にめった刺しにされて目玉がなくなっちゃった」
あと三つ。
私は悠衣に言われる前に〝8〟を開けた。
中には食玩の、キラキラアクセサリーのペンダントが入っている。
「この指はお姉さん指。ピアノが上手で髪の綺麗な可愛い子。お気に入りの白いワンピース、殺人鬼に刺された血で真っ赤になっちゃった」
この場の雰囲気に似つかわしくない、明るいメロディーの歌が終わったあと、私は機械的に〝9〟を開ける。
「う……っ」
中に入っていたのは、歯だ。
戸惑っていると、悠衣が歌い始める。
「この指は子供の私。乳歯が抜けて、『自分の事はどうでもいいから、家族を返してください』とお願いしても、誰も叶えてくれませんでした」
悠衣は、あの殺人事件の生き残りだった?
じゃあ、私は――?
「最後」
短く命じられ、私は覚悟を決めて〝10〟の引き出しを開けた。
細長いそれの中には、手鏡が入っていた。
「自分の顔、見て」
言われて恐る恐る手鏡を覗き込むと、〝私〟が映る。
カチューシャをつけて金髪のウィッグを被った、ロリータ服に身を包んだ私。
スキンケアはきちんとしているし、化粧直しもマメにしているから、夜になった今もメイクはあまり崩れていない。
ウィッグの厚めバングの下からは細めの眉毛が覗き、くっきりとした二重の目に、自然に馴染むダークブルーのカラコン。
サロンに通ってまつエクの施術を受けているので、上睫毛も下睫毛も長く濃い。
唇は少し薄めだけれど、リッププランパーを使ってぷっくり見せている。
悠衣のほうがずっと美人だけれど、私もまぁ悪くはないと思っている。
今は、顔色を悪くしているけれど。
「……まだ気づいてないの?」
彼女は苛立った声で言うと、テーブルの上から下りて私の腕を引いた。
悠衣は私を立たせ、リビングダイニングの隅にあった姿見の前まで私を連れて行くと、鏡に掛かっていた布をとる。
「これを見ても、まだ分からないの?」
鏡に映っているのは、ルームウェア姿の悠衣と、ロリータ服のままの私だ。
身長差はあるけれど、いつもの私たちのはず。
「何が……?」
困惑して尋ねると、悠衣はとうとう怒りを爆発させた。
「〝キョトン〟じゃねぇよ! おっさんがキメェんだよ!」
悠衣は反対の親指をトントンと打ち、歌う。
「この指はお父さん指。みんなに慕われる心の先生。患者から恨まれて殺されちゃった」
脳裏に、リビングダイニングで見た〝裏ビデオ〟がよぎる。
――そんな。……そんな事はない……。
「はい、次開けて」
もう思考は動いてくれない。
私は悠衣の言いなりになって、〝6〟の引き出しを開けた。
中には、銀色の指輪が入っている。
内側に刻印が刻まれているから、結婚指輪だろう。
「この指はお母さん指。優しくて家庭的な理想のママ。人殺しに襲われて、はらわた出して死んじゃった」
ぐ……っ、と喉の奥から何かがせり上がり、吐きそうになってしまう。
さっき食べたチキンが、精神的なショックを受けて逆流しようとしていた。
「次」
まるで囚人と看守だ。
私は震える指を黒い取っ手に引っかけ、〝7〟の引き出しを引いた。
中には、社会現象にもなったカードゲームアニメの、レアカードが入っていた。
「この指はお兄さん指。明るくてみんなの人気者で、妹たちにも優しい理想のお兄さん。犯罪者にめった刺しにされて目玉がなくなっちゃった」
あと三つ。
私は悠衣に言われる前に〝8〟を開けた。
中には食玩の、キラキラアクセサリーのペンダントが入っている。
「この指はお姉さん指。ピアノが上手で髪の綺麗な可愛い子。お気に入りの白いワンピース、殺人鬼に刺された血で真っ赤になっちゃった」
この場の雰囲気に似つかわしくない、明るいメロディーの歌が終わったあと、私は機械的に〝9〟を開ける。
「う……っ」
中に入っていたのは、歯だ。
戸惑っていると、悠衣が歌い始める。
「この指は子供の私。乳歯が抜けて、『自分の事はどうでもいいから、家族を返してください』とお願いしても、誰も叶えてくれませんでした」
悠衣は、あの殺人事件の生き残りだった?
じゃあ、私は――?
「最後」
短く命じられ、私は覚悟を決めて〝10〟の引き出しを開けた。
細長いそれの中には、手鏡が入っていた。
「自分の顔、見て」
言われて恐る恐る手鏡を覗き込むと、〝私〟が映る。
カチューシャをつけて金髪のウィッグを被った、ロリータ服に身を包んだ私。
スキンケアはきちんとしているし、化粧直しもマメにしているから、夜になった今もメイクはあまり崩れていない。
ウィッグの厚めバングの下からは細めの眉毛が覗き、くっきりとした二重の目に、自然に馴染むダークブルーのカラコン。
サロンに通ってまつエクの施術を受けているので、上睫毛も下睫毛も長く濃い。
唇は少し薄めだけれど、リッププランパーを使ってぷっくり見せている。
悠衣のほうがずっと美人だけれど、私もまぁ悪くはないと思っている。
今は、顔色を悪くしているけれど。
「……まだ気づいてないの?」
彼女は苛立った声で言うと、テーブルの上から下りて私の腕を引いた。
悠衣は私を立たせ、リビングダイニングの隅にあった姿見の前まで私を連れて行くと、鏡に掛かっていた布をとる。
「これを見ても、まだ分からないの?」
鏡に映っているのは、ルームウェア姿の悠衣と、ロリータ服のままの私だ。
身長差はあるけれど、いつもの私たちのはず。
「何が……?」
困惑して尋ねると、悠衣はとうとう怒りを爆発させた。
「〝キョトン〟じゃねぇよ! おっさんがキメェんだよ!」
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