メリー・クリスマス ミクス・マーダー

臣桜

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夏樹の記憶

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「…………はい…………?」

 私は悠衣の言葉を聞いて固まり、鏡の中の自分を見つめた。

 彼女は激昂したまま、〝現実〟を叩きつける。

「お前の女装癖のせいで親父は家を出ていったし、母親は最期までお前を受け入れなかった! 姉だけは優しくしてくれて、メイクの仕方を教えてくれただろうが、そのせいでお前は変態兄貴に犯されたんだよ!」

 私が……おじさん?

 そう言われ、ガタガタと全身が震えてくる。

 私の背が高いのは、モデル体型だからじゃなくて、男だから?

 胸に手を当てると、乳房の感触がある。

「それ、ただのシリコンブラだから」

 悠衣に言われ、私の中にある〝リアル〟が音を立てて崩れていく。

「二十二年前、兄貴に犯されたお前は、私たち家族が暮らしていたこの家までやってきて、ささやかなクリスマスパーティーを台無しにした! 精神科医の父は何も悪くなかったし、患者であるお前を否定する事もなかった。なのにお前は些細な事で父を逆恨みして、私の家族を奪ったんだ!」

 悠衣は可愛い顔を歪め、憎しみを迸らせる。

「現場検証をした警察は二十代の男の犯行としたが、その後、お前はずっと女として過ごしていたから、誰も気づく事はなかった。四年前……っ、私がお前に会うまでは……っ!」

 四年前は、私と悠衣の出会いの時だ。

 私は当時の事を思いだした。



**



 私は四年前のクリスマス、新宿に店を構えるママの店で、仕事を手伝いながら常連さんとお酒を飲んでいた。

 そうしたら、すでに数件ハシゴして泥酔した悠衣が店に入ってきたのだ。

『やーねぇ。飲み過ぎよ。どうでもいいけど、吐かないでよ?』

『どうでもいいから、お酒ちょうだい!』

 羨ましくなるほど可愛い見た目をしているのに、彼女は容姿に頓着がないのか、メイクもしていないし、着ている服も気を遣っているとは言えない組み合わせだった。

 ママに愚痴を吐いているのを聞くと、どうやら今日、ご家族の十七回忌があったそうだ。

 そこまで時間が経ったなら、あまり悲しむ事もないんじゃ……と思ったけれど、事情は人それぞれだ。

 ここは色んな事情を抱える人が来る店だし、今日はクリスマスイブ。

 せめて明るい気持ちになってもらおうと、私はカラオケマシーンにクリスマスソングを入れた。

 子供の頃に親から英語を習わされた事もあり、クリスマスソングは英語で歌う事ができる。

 私は【ジングルベル】を選曲すると、店内の客に手拍子を求めながら歌った。

 その時、酔い潰れていたはずの悠衣は顔を上げ、信じられないものを見る目で私を凝視する。

 彼女は目を閉じて私の歌声に耳を澄まし、歌い終わると『お願い、もう一回歌って!』とアンコールをせびった。

 他の客たちも酔っぱらっているから、同じ曲を繰り返し歌ってもある程度付き合ってくれたけれど、三回目を歌い終わった頃には『別なの歌ってよ』と言われてしまった。

『変な子ねぇ』

 ママはカウンターの中に戻った私に、呆れ交じりに言う。

『今日が法事だったなら、クリスマスに悲しい思い出があるんじゃないんですか?』

『かもしれないわね。ま、無礼講といきましょ』

 その日、悠衣は明け方に店が閉まるまで居座り、閉店したあとに私が帰宅しようとすると、待ち伏せして尋ねてきた。

『私、金戸悠衣。フリーライターをやってます。お姉さんは?』

 妙なのに好かれちゃったな。

 私は内心そう思いながら、『御坂夏樹』と名乗る。

『御坂夏樹って本名? 源氏名?』

『本名だよ』

『ふぅん……。ねぇ、お姉さんの事、気になって仕方ないんだ。連絡先交換してくれませんか?』

『いやぁ……、初対面の人とはちょっと……』

 女の子とはいえ、今の世の中どんな人がいるか分からない。

『じゃあ、お店に通うから、私を信頼できるようになったら教えて』

『時間がかかると思うよ』

『構わない! 運命を感じたの!』

 悠衣はやけに高揚した雰囲気で言うと、店名を確認し、外観を写真に収める。

 それからマップアプリで店をピン留めすると、『じゃあね!』とカラスの鳴き声が響く新宿の道路を歩いていった。





 その後、悠衣は予告通りママの店に通うようになった。

 出会った日は荒れていたけれど、そのあとの彼女は飲み過ぎる事のない、けれど金払いのいい良客に変わった。

 数か月経つ頃には、悠衣はママや常連さんからも信頼されるようになっていた。

 それを確認した私は彼女に連絡先を教え、プライベートでも会い始めた。

 昼間に会っても店に通う事はやめず、売り上げが落ちず安心した。

 悠衣は美人だけれど外見に頓着しておらず、多少美容にうるさい私は、彼女にスキンケアやメイクなどを教えていった。

 それが功を奏し、今の悠衣は見る人の目を引く美女になっている。

 もともと、悠衣の服装の好みはあってないようなものだったけれど、私がフェミニンな装いを好む事もあり、レースやフリル、チュール素材の服を着るようになった。

 時には今日みたいにいロリータファッションを二人で楽しむ事もあり、私は悠衣を見て自分が作り上げた〝作品〟のように感じる事もあり、彼女を自慢の恋人と思っていた。

 恋人となったきっかけは、悠衣から告白されたからだけれど、私たちはプラトニックな関係だ。

 悠衣は男性に襲われた過去があり、男性嫌悪気味と言っていて、性的な事にも興味がないと言う。

 私もそういう欲はないので、古き良き清らかな百合、みたいな付き合いを重ねてきた。

 悠衣の事は心の通い合った妹のように感じていたのに、――――どうしてこうなったんだろう。



**
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