690 / 792
花火大会 編
着付け
しおりを挟む
そろそろ準備を……、という時間になる頃、私は先に髪をまとめていた。
すると着付師のマダムが二人部屋を訪れ、挨拶をする。
スイートルームの隅には浴衣の入った箱があり、ドキドキしてそれを開けると紺地に白、水色で朝顔が描かれた浴衣が入っていた。
帯は白で涼しげなターコイズブルーの帯留めもある。
「さあ、着付けますよ」
百戦錬磨っぽいマダムに微笑まれると、尊さんは「二階に行ってます。できたら呼んでください」と言って席を外した。
「お客様はお胸が豊かなので、着物用の下着でボリュームダウンしましょうね」
そう言って渡された白い着物用ブラは、センターにファスナーがついていて着脱しやすい。
事前に尊さんが手配してくれたそれは、丁度……、なんというかサイズもぴったりで、私の胸を見事になかった事にしてくれた。
その上にサラッとした生地のキャミソール、ペチパンツみたいなのを穿いたあと、レースの足袋を穿いて浴衣の着付けが始まった。
素人の私だったら、遠慮して力を込められないところを、グッ、グッと締めてくれ、実に頼もしい。
あっという間に浴衣を着付けられたあと、マダムたちは尊さんを呼ぶ。
すると既に、肌襦袢とステテコを穿いた尊さんが降りてきた。
作務衣の全身白バージョンみたいな感じなので、思わずこんな感想が漏れる。
「修行僧みたい」
「滝行するか」
そんな事を言っている間、尊さんは黒い縦縞の浴衣に、ベージュっぽい献上柄の角帯を締められていた。
「これ、ハンドメイドの一点物」
最後に尊さんはそう言って、花嫁さんがつけるようなゴージャスな白いお花の髪飾りをつけてくれた。
「わぁ……」
鏡の前に立った私は、横を向いたりして浴衣姿を確認し、ニヤニヤする。
「下駄はこれ」
「わぁ……! 綺麗!」
出されたのは小町下駄と呼ばれる形の下駄で、側面には美しい花の彫り物(しかもカラー)が施されている上、鼻緒にもカラフルな花模様が刺繍されている。
「お高かったでしょう~?」
テンションが上がったあまり、テレビショッピングみたいな事を言うと、尊さんは半分笑いながら「今ならなんと!」と乗ってくれた。
マダムたちは微笑んでそのやり取りを見守ってくれていた。
「ありがとうございます」
尊さんは彼女たちにお礼を言い、料金を支払う。
マダムたちが出て行ったあと、私は恵を思って呟いた。
「恵たちももう準備できたのかな」
「彼女たちに順番にやってもらう約束をしてるから、多分もう終わってるんじゃないかな」
「ふーん。ならすぐ会えますね」
そのあと私はニヤニヤして、浴衣姿の尊さんを写真に収め始めた。
**
「恵ちゃん、可愛いねぇ~」
目の前にクネクネがいる。
世にも美麗なクネクネは、古典柄のベージュの浴衣に黒い角帯を締め、シルクの西陣織の段巻のついた、黒いかぎ編みのパナマハットを被っている。胡散臭い。
先ほど着付けのマダムが二名来て、私と涼さんをあっという間に着付けていった。
私の浴衣は向日葵柄で、紺地に華やかな黄色が映えている。
帯はえんじ色で、白っぽいガラスの帯留めもついていた。
涼さんは「仕上げだよ」と言って、ハンドメイドらしい綺麗な向日葵の髪飾りを私につけ、それから一人でテンションをぶち上げて撮影会に入っている。
「早めに行かないと、混雑するんじゃないですか?」
そう言うと、涼さんは「おっと、そうだね」と我に返り、私にアイボリーの巾着袋を渡してきた。
「貴重品だけ入れて」
涼さんは黒地に鳥獣戯画の柄がついた、紐のショルダーバッグをかけると、下駄を履く。
靴擦れしないように、私はレースの足袋を用意してもらっていて、少しホッとした。
ドアトゥドアの移動であっても、靴擦れして迷惑を掛けるのは嫌だったから。
「お嬢さん、お手をどうぞ」
涼さんに手を差し伸べられ、私はおずおずと彼の手をとると、白木に赤い鼻緒がついた下駄を履く。
「朱里、どんなの着てるかな。楽しみだな」
そう呟くと、涼さんは「俺は……?」と困惑した顔をしたのだった。
**
すると着付師のマダムが二人部屋を訪れ、挨拶をする。
スイートルームの隅には浴衣の入った箱があり、ドキドキしてそれを開けると紺地に白、水色で朝顔が描かれた浴衣が入っていた。
帯は白で涼しげなターコイズブルーの帯留めもある。
「さあ、着付けますよ」
百戦錬磨っぽいマダムに微笑まれると、尊さんは「二階に行ってます。できたら呼んでください」と言って席を外した。
「お客様はお胸が豊かなので、着物用の下着でボリュームダウンしましょうね」
そう言って渡された白い着物用ブラは、センターにファスナーがついていて着脱しやすい。
事前に尊さんが手配してくれたそれは、丁度……、なんというかサイズもぴったりで、私の胸を見事になかった事にしてくれた。
その上にサラッとした生地のキャミソール、ペチパンツみたいなのを穿いたあと、レースの足袋を穿いて浴衣の着付けが始まった。
素人の私だったら、遠慮して力を込められないところを、グッ、グッと締めてくれ、実に頼もしい。
あっという間に浴衣を着付けられたあと、マダムたちは尊さんを呼ぶ。
すると既に、肌襦袢とステテコを穿いた尊さんが降りてきた。
作務衣の全身白バージョンみたいな感じなので、思わずこんな感想が漏れる。
「修行僧みたい」
「滝行するか」
そんな事を言っている間、尊さんは黒い縦縞の浴衣に、ベージュっぽい献上柄の角帯を締められていた。
「これ、ハンドメイドの一点物」
最後に尊さんはそう言って、花嫁さんがつけるようなゴージャスな白いお花の髪飾りをつけてくれた。
「わぁ……」
鏡の前に立った私は、横を向いたりして浴衣姿を確認し、ニヤニヤする。
「下駄はこれ」
「わぁ……! 綺麗!」
出されたのは小町下駄と呼ばれる形の下駄で、側面には美しい花の彫り物(しかもカラー)が施されている上、鼻緒にもカラフルな花模様が刺繍されている。
「お高かったでしょう~?」
テンションが上がったあまり、テレビショッピングみたいな事を言うと、尊さんは半分笑いながら「今ならなんと!」と乗ってくれた。
マダムたちは微笑んでそのやり取りを見守ってくれていた。
「ありがとうございます」
尊さんは彼女たちにお礼を言い、料金を支払う。
マダムたちが出て行ったあと、私は恵を思って呟いた。
「恵たちももう準備できたのかな」
「彼女たちに順番にやってもらう約束をしてるから、多分もう終わってるんじゃないかな」
「ふーん。ならすぐ会えますね」
そのあと私はニヤニヤして、浴衣姿の尊さんを写真に収め始めた。
**
「恵ちゃん、可愛いねぇ~」
目の前にクネクネがいる。
世にも美麗なクネクネは、古典柄のベージュの浴衣に黒い角帯を締め、シルクの西陣織の段巻のついた、黒いかぎ編みのパナマハットを被っている。胡散臭い。
先ほど着付けのマダムが二名来て、私と涼さんをあっという間に着付けていった。
私の浴衣は向日葵柄で、紺地に華やかな黄色が映えている。
帯はえんじ色で、白っぽいガラスの帯留めもついていた。
涼さんは「仕上げだよ」と言って、ハンドメイドらしい綺麗な向日葵の髪飾りを私につけ、それから一人でテンションをぶち上げて撮影会に入っている。
「早めに行かないと、混雑するんじゃないですか?」
そう言うと、涼さんは「おっと、そうだね」と我に返り、私にアイボリーの巾着袋を渡してきた。
「貴重品だけ入れて」
涼さんは黒地に鳥獣戯画の柄がついた、紐のショルダーバッグをかけると、下駄を履く。
靴擦れしないように、私はレースの足袋を用意してもらっていて、少しホッとした。
ドアトゥドアの移動であっても、靴擦れして迷惑を掛けるのは嫌だったから。
「お嬢さん、お手をどうぞ」
涼さんに手を差し伸べられ、私はおずおずと彼の手をとると、白木に赤い鼻緒がついた下駄を履く。
「朱里、どんなの着てるかな。楽しみだな」
そう呟くと、涼さんは「俺は……?」と困惑した顔をしたのだった。
**
628
あなたにおすすめの小説
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる