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中村家キャンプ 編
ファースト三日月
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八月九日。
私――、中村恵は三鷹にある家に帰省し、関東近郊にある墓地へ家族でお墓参りに行った。
その帰り道のお蕎麦屋さんで、兄たちからしつこく質問される。
「三日月さんって股下三メートルあるってマジ?」
「孝兄、そんな化け物と付き合ってない。お母さん、勝手な事言わないで」
「だってぇ~。涼さん、それぐらいありそうじゃない?」
「自販機またげるじゃん。都市伝説になるよ」
私はそんな会話をしつつ、とろろ蕎麦を啜る。
「つか、三日月グループの御曹司かよ。緊張するな……。前髪、七三にしたほうがいいかな」
「なんでやねん。形から入ろうとするの、やめなよ恭兄」
この母と兄たちを相手にしていると、ついつい突っ込み体質になってしまう。
「っていうか、マジでどういう人? 俺たちも大企業の御曹司相手に、失礼があったら困るから、何か教えてくれよ」
長男の孝志兄に請われ、私はお水を飲んでから言った。
「だから本当に身構える必要はないんだって。相手はめっちゃポジティブで、陽キャに手足が生えてるようなもん。へりくだる必要はないし、ご機嫌伺いする必要もなし。っていうか、向こうの方からスルッと中村家の懐に入って、一時間もすれば一緒に笑ってるよ。そういう人」
「ぬらりひょんみたいだな。そのうち、うちにスッと上がってお茶でも飲んでたりして」
恭祐兄に言われ、私は「……あながち間違いでもないかも……」と考えた。
「とにかくね、涼さんはとっても素敵な人で、股下三メートルで金髪で、目がキラキラしていて、全身から光を放っていて……」
「佳苗、ステイ」
私は妄想を爆発させる母にストップをかける。
「お父さんはイケメンが婿さんになるなら、嬉しいなぁ……。婿さんからイケメンエキスが流れて、お父さんもイケメンになったらどうしよう」
「あ”ーっ!」
全員ボケ倒してくれるので、突っ込みが追い付かない私は頭を抱える。
「やーねぇ、恵ったら。そんなにカリカリしてたら、痩せちゃうわよ。お蕎麦、お代わりいく?」
「朱里じゃないんだから……」
「朱里ちゃんはよく食べて元気な子よねぇ」
母が頷くと、兄二人が食いつく。
「俺、朱里ちゃん美人だから好きだよ」
「あー、はいはい、ルッキズム」
「そう言うなよ。美人だけど胃袋が異次元に繋がってるところも、可愛いって思ってるんだから」
「そうそう。ギャップ萌え?」
とうとう突っ込む気力も失った私は、頭痛を覚えたままとろろ蕎麦の続きに取りかかった。
そんな状態で、中村家四人の過剰なまでの期待を一身に背負った涼さんが、翌日登場した。
**
「初めまして! 三日月涼です」
中村家の前で白のラウンドクルーザーから下りた涼さんは、太陽のような笑顔で家族に笑いかける。
キャンプだからか、涼さんはカジュアルな格好で、白Tにライトブルーのデニムだ。
シンプルな装いだけど、ブランド物なので質がいいしシルエットもいい。
父、兄二人はモデルみたいな涼さんを見て呆気にとられていたけれど、ハッと我に返ると「すげぇ!」とテンションを上げて握手しだした。
「俺、長男の孝志、三十歳です。スポーツメーカーの営業やってます」
「宜しくお願いします! やり手そうな雰囲気を感じます!」
「俺は次男の恭祐、二十八歳です。ジムのインストラクターをやってます」
「道理で格好いい体してると思いました!」
さすが涼さん、受け答えに迷いがない。
「私、佳苗。しがないモデルで~す!」
「まったまた~。今日もお美しいですね」
「……ぼ、僕は父の達也です」
「若々しい~! 運動されてますね? お元気なのが一番です」
……どんどん涼さんがキャバ嬢に見えてきた。
最後に涼さんは私の前に立ち、ニコニコする。
「……中村恵です」
仕方なく自己紹介をすると、涼さんは今までで一番テンションぶち上げで言った。
私――、中村恵は三鷹にある家に帰省し、関東近郊にある墓地へ家族でお墓参りに行った。
その帰り道のお蕎麦屋さんで、兄たちからしつこく質問される。
「三日月さんって股下三メートルあるってマジ?」
「孝兄、そんな化け物と付き合ってない。お母さん、勝手な事言わないで」
「だってぇ~。涼さん、それぐらいありそうじゃない?」
「自販機またげるじゃん。都市伝説になるよ」
私はそんな会話をしつつ、とろろ蕎麦を啜る。
「つか、三日月グループの御曹司かよ。緊張するな……。前髪、七三にしたほうがいいかな」
「なんでやねん。形から入ろうとするの、やめなよ恭兄」
この母と兄たちを相手にしていると、ついつい突っ込み体質になってしまう。
「っていうか、マジでどういう人? 俺たちも大企業の御曹司相手に、失礼があったら困るから、何か教えてくれよ」
長男の孝志兄に請われ、私はお水を飲んでから言った。
「だから本当に身構える必要はないんだって。相手はめっちゃポジティブで、陽キャに手足が生えてるようなもん。へりくだる必要はないし、ご機嫌伺いする必要もなし。っていうか、向こうの方からスルッと中村家の懐に入って、一時間もすれば一緒に笑ってるよ。そういう人」
「ぬらりひょんみたいだな。そのうち、うちにスッと上がってお茶でも飲んでたりして」
恭祐兄に言われ、私は「……あながち間違いでもないかも……」と考えた。
「とにかくね、涼さんはとっても素敵な人で、股下三メートルで金髪で、目がキラキラしていて、全身から光を放っていて……」
「佳苗、ステイ」
私は妄想を爆発させる母にストップをかける。
「お父さんはイケメンが婿さんになるなら、嬉しいなぁ……。婿さんからイケメンエキスが流れて、お父さんもイケメンになったらどうしよう」
「あ”ーっ!」
全員ボケ倒してくれるので、突っ込みが追い付かない私は頭を抱える。
「やーねぇ、恵ったら。そんなにカリカリしてたら、痩せちゃうわよ。お蕎麦、お代わりいく?」
「朱里じゃないんだから……」
「朱里ちゃんはよく食べて元気な子よねぇ」
母が頷くと、兄二人が食いつく。
「俺、朱里ちゃん美人だから好きだよ」
「あー、はいはい、ルッキズム」
「そう言うなよ。美人だけど胃袋が異次元に繋がってるところも、可愛いって思ってるんだから」
「そうそう。ギャップ萌え?」
とうとう突っ込む気力も失った私は、頭痛を覚えたままとろろ蕎麦の続きに取りかかった。
そんな状態で、中村家四人の過剰なまでの期待を一身に背負った涼さんが、翌日登場した。
**
「初めまして! 三日月涼です」
中村家の前で白のラウンドクルーザーから下りた涼さんは、太陽のような笑顔で家族に笑いかける。
キャンプだからか、涼さんはカジュアルな格好で、白Tにライトブルーのデニムだ。
シンプルな装いだけど、ブランド物なので質がいいしシルエットもいい。
父、兄二人はモデルみたいな涼さんを見て呆気にとられていたけれど、ハッと我に返ると「すげぇ!」とテンションを上げて握手しだした。
「俺、長男の孝志、三十歳です。スポーツメーカーの営業やってます」
「宜しくお願いします! やり手そうな雰囲気を感じます!」
「俺は次男の恭祐、二十八歳です。ジムのインストラクターをやってます」
「道理で格好いい体してると思いました!」
さすが涼さん、受け答えに迷いがない。
「私、佳苗。しがないモデルで~す!」
「まったまた~。今日もお美しいですね」
「……ぼ、僕は父の達也です」
「若々しい~! 運動されてますね? お元気なのが一番です」
……どんどん涼さんがキャバ嬢に見えてきた。
最後に涼さんは私の前に立ち、ニコニコする。
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仕方なく自己紹介をすると、涼さんは今までで一番テンションぶち上げで言った。
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