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白浜温泉へ 編
埋もれるプロポーズ
「ウニでプロポーズする男、いいねぇ~」
「小牧ちゃん、違う」
尊さんはげんなりとして言う。
「あれっ? そういえばお二人さんってちゃんとプロポーズして、婚約指輪買ったの?」
弥生さんに言われ、私たちは顔を見合わせる。
思い出したのは、初めて彼女たちに会いに行く前、銀座でジュエリー巡りをした事だ。
「指輪は買ってもらいました。プロポーズは……」
そこまで言い、私は腕組みをして「うん?」と首を傾げる。
「え……っ? まさか尊くん、プロポーズしてないの?」
「した! ……と思ってる」
尊さんは即答したあと、不安そうに私を見る。
「いや、ちょっと待ってください。毎日たっぷり愛情を注がれてるし、デートするたびにスペシャルな思いをしているので、毎日プロポーズされているように思えるんですよ。日々の愛の密度が高くて、プロポーズの記憶が埋もれてしまっている……」
「マジか……」
尊さんは額を抑え、小さく呻く。
「だからといって、愛情を出し惜しみしたら駄目よ? 恋人と犬猫は、たっぷり愛してなんぼだから」
「小牧ちゃん……、朱里は犬猫じゃ……。いや……、うん……」
いつも私を猫と言っている尊さんは、言葉の後半をゴニョゴニョと不明瞭にさせる。
そんな話をしつつ、全員好きな物をオーダーし終え、私はなおもメニューを捲っている。
「耳が痛いと思うけど、私たち世代はともかく、お母さんやお祖母ちゃん世代は形式的なものも重視するわ。勿論、二人が想い合っているのが一番だけれど、やっぱりちゃんと挨拶した上で食事会をするとか、篠宮ホールディングスの副社長なら、婚約パーティーを開くとか、そういうものも大事だと思う」
小牧さんに言われ、尊さんは「だな」と頷く。
(パーティー!)
私は無言で目を見開き、冷や汗を掻く
今までずっと一般社員で、それなりの覚悟を持って副社長秘書になったつもりだけど、さらに上があった。
まさか自分がパーティーの主役になるなんて思っていなかった。
結婚式を挙げれば、そりゃあ主役になるだろうけど、経営者クラスの人を集めてのパーティーで、副社長としての尊さんに「婚約者です」と紹介される事はあまり考えていなかった。
(そうだよね……。尊さんクラスなら、そういう事もしないといけないんだ)
私がボーッと考えていると、弥生さんが溜め息をつく。
「まぁ、パーティーを開いたとして、篠宮ホールディングス主催のそれに、我が家が親戚として参加したらどうなるか……、だけどね。化学反応バッチーン!」
そう言って彼女は、両手をパーン! と打ち合わせる真似をする。
「それなー……」
尊さんは深い溜め息をつき、レーンを高速で走ってきたサーモンを「ほれ」と私の前に置く。
「話はするが、とりあえず朱里は好きなだけ喰え」
「イエスマム」
「マムじゃねぇよ」
「ミコママ」
そのやり取りを聞き、小牧さんと弥生さんが笑う。
「正直、速水家側としてはどう思う?」
尊さんに聞かれ、小牧さんは中トロを食べてから言う。
「向こうの出方次第かしらね。本当に、尊くんと朱里さんの結婚は手放しで祝福したいと思ってる。でもやっぱり、亘さんがさゆり伯母さんに関わらなければ、速水家は平和でいられた訳でしょ? ……まぁ、彼がいたから尊くんが生まれた訳で、その辺は深く追求しないけど」
「まぁ、もしもの話をしても仕方ないもんな」
尊さんはレーンをシュバーッと走ってきた自分の海老を受け取る。
「亘さんに謝られても、失われた命は戻らない。でも、私たちは……、特にお祖母ちゃんは彼から正式な謝罪を受けていない。お祖母ちゃんが拒否したというのもあるけれど、尊くんたちが結婚するタイミングが、きちんと謝るべき時なんじゃないかな。それですべてが帳消しになる訳じゃないけど、ある程度溜飲を下げたあとは、ちゃんと二人を祝福できると思う」
それに、弥生さんが付け加える。
「さっきの結婚についての話と同じで〝形式〟よ。ちゃんと謝る場を設けて謝罪を受けて、こちらが納得するっていう〝形〟を整えないと、なぁなぁなままじゃ、憎い男と正式に親戚にはなりたくない訳よ」
「それは分かる」
海老のお寿司を食べた尊さんは、尻尾の殻をお皿の端に寄せる。
「小牧ちゃん、違う」
尊さんはげんなりとして言う。
「あれっ? そういえばお二人さんってちゃんとプロポーズして、婚約指輪買ったの?」
弥生さんに言われ、私たちは顔を見合わせる。
思い出したのは、初めて彼女たちに会いに行く前、銀座でジュエリー巡りをした事だ。
「指輪は買ってもらいました。プロポーズは……」
そこまで言い、私は腕組みをして「うん?」と首を傾げる。
「え……っ? まさか尊くん、プロポーズしてないの?」
「した! ……と思ってる」
尊さんは即答したあと、不安そうに私を見る。
「いや、ちょっと待ってください。毎日たっぷり愛情を注がれてるし、デートするたびにスペシャルな思いをしているので、毎日プロポーズされているように思えるんですよ。日々の愛の密度が高くて、プロポーズの記憶が埋もれてしまっている……」
「マジか……」
尊さんは額を抑え、小さく呻く。
「だからといって、愛情を出し惜しみしたら駄目よ? 恋人と犬猫は、たっぷり愛してなんぼだから」
「小牧ちゃん……、朱里は犬猫じゃ……。いや……、うん……」
いつも私を猫と言っている尊さんは、言葉の後半をゴニョゴニョと不明瞭にさせる。
そんな話をしつつ、全員好きな物をオーダーし終え、私はなおもメニューを捲っている。
「耳が痛いと思うけど、私たち世代はともかく、お母さんやお祖母ちゃん世代は形式的なものも重視するわ。勿論、二人が想い合っているのが一番だけれど、やっぱりちゃんと挨拶した上で食事会をするとか、篠宮ホールディングスの副社長なら、婚約パーティーを開くとか、そういうものも大事だと思う」
小牧さんに言われ、尊さんは「だな」と頷く。
(パーティー!)
私は無言で目を見開き、冷や汗を掻く
今までずっと一般社員で、それなりの覚悟を持って副社長秘書になったつもりだけど、さらに上があった。
まさか自分がパーティーの主役になるなんて思っていなかった。
結婚式を挙げれば、そりゃあ主役になるだろうけど、経営者クラスの人を集めてのパーティーで、副社長としての尊さんに「婚約者です」と紹介される事はあまり考えていなかった。
(そうだよね……。尊さんクラスなら、そういう事もしないといけないんだ)
私がボーッと考えていると、弥生さんが溜め息をつく。
「まぁ、パーティーを開いたとして、篠宮ホールディングス主催のそれに、我が家が親戚として参加したらどうなるか……、だけどね。化学反応バッチーン!」
そう言って彼女は、両手をパーン! と打ち合わせる真似をする。
「それなー……」
尊さんは深い溜め息をつき、レーンを高速で走ってきたサーモンを「ほれ」と私の前に置く。
「話はするが、とりあえず朱里は好きなだけ喰え」
「イエスマム」
「マムじゃねぇよ」
「ミコママ」
そのやり取りを聞き、小牧さんと弥生さんが笑う。
「正直、速水家側としてはどう思う?」
尊さんに聞かれ、小牧さんは中トロを食べてから言う。
「向こうの出方次第かしらね。本当に、尊くんと朱里さんの結婚は手放しで祝福したいと思ってる。でもやっぱり、亘さんがさゆり伯母さんに関わらなければ、速水家は平和でいられた訳でしょ? ……まぁ、彼がいたから尊くんが生まれた訳で、その辺は深く追求しないけど」
「まぁ、もしもの話をしても仕方ないもんな」
尊さんはレーンをシュバーッと走ってきた自分の海老を受け取る。
「亘さんに謝られても、失われた命は戻らない。でも、私たちは……、特にお祖母ちゃんは彼から正式な謝罪を受けていない。お祖母ちゃんが拒否したというのもあるけれど、尊くんたちが結婚するタイミングが、きちんと謝るべき時なんじゃないかな。それですべてが帳消しになる訳じゃないけど、ある程度溜飲を下げたあとは、ちゃんと二人を祝福できると思う」
それに、弥生さんが付け加える。
「さっきの結婚についての話と同じで〝形式〟よ。ちゃんと謝る場を設けて謝罪を受けて、こちらが納得するっていう〝形〟を整えないと、なぁなぁなままじゃ、憎い男と正式に親戚にはなりたくない訳よ」
「それは分かる」
海老のお寿司を食べた尊さんは、尻尾の殻をお皿の端に寄せる。
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目の前に立ち塞がる壁のようだけど、ミコアカの幸せな結婚のために一つ一つ乗り越えていけるとよいですよね🥰