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熊野大社へ 編
熊野那智大社へ
「……私、もう八十二歳になったわ。未来を見られるかしら」
寂しげな百合さんの声を聞き、尊さんはしっかりとした声で言った。
「見るんです。……俺が見せます。ひ孫を抱かせて『生きるのが楽しい』『ひ孫の成長を見守れるのが嬉しい』って思わせてみせます」
彼の言葉を聞いて、私は一人でコクンと頷いた。
まだ結婚もしていないし、子供の事は分からない。
誰かのために生む訳じゃないし、私と尊さんの家族を増やし、みんなで幸せに生きていくためだ。
でも、私たちの子供の誕生を喜んでくれる人がいるなら嬉しいし、成長を見守って幸せを感じてくれるなら、頻繁に挨拶に行きたい。
私はグスッと洟を啜り、笑って言った。
「すぐに騒がしくなりますよ。子供の成長ってあっという間ですから」
すると前の席から、同じようにグスッと音が聞こえた。
「……そうね。……歳を取ると弱気になって駄目ね。もっと若い人と接して、未来を見ていかないと」
私は涙を流しながら笑う。
「大丈夫ですよ! 『上手くいく』って思えばそうなります。気持ちで負けたら駄目なんです!」
うっかり「気持ちで負けたら特盛りラーメンなんて完食できません」と言いかけたけど、グッと堪えた。私は空気が読める女だ。
「じゃあ、みんなで熊野大社と伊勢神宮で『いい事ありますように』ってお願いしないとね」
ちえりさんが明るく言い、弥生さんが「神社仏閣だ~い好き!」と喜ぶ。
「二箇所とも、すんごいパワースポットだから、御利益あるといいですね」
尊さんに言うと、彼は表情を和らげて頷く。
「ああ」
そのあと、スマホで熊野大社や那智の滝、伊勢神宮などについて調べつつ、とりとめのない明るい話をして過ごした。
きっとあとでゆっくりと語る時もあるだろうけど、そういうのは夜のほうがいいのかもしれない。
**
途中でおトイレ休憩を挟み、私たちは熊野那智大社の駐車場に着いた。
熊野那智大社は熊野三山の中の一社で、他に熊野本宮大社、熊野速玉大社がある。
三社ともこの付近にあり、熊野古道によって結ばれている。
本当は三社の参拝順序があり、本宮、速玉、那智の順番らしい。
那智大社は全国にある五千以上の熊野神社の総本社で、昔から〝結宮〟と呼ばれ、良縁や願いを結ぶ神社として崇められているとか。
しかしお願い事を聞いてもらうためには、試練を乗り越えなければならない。
駐車場から那智大社までは、実に四百六十七段の階段が待ち受けている。
「お祖母ちゃん、大丈夫?」
小牧さんに心配され、百合さんは微笑む。
「さっきは気弱な事を言ったけれど、まだ介助が必要なつもりはないから平気よ。でも、マイペースにゆっくり行かせてもらうけどね」
階段の上り始めには郵便局があり、右手の道をまっすぐ行くと那智の滝に通じているそうだ。
でも順番としては、階段を上りつつ鳥居をくぐり、参拝したあとに那智の滝へ向かうのがベストらしい。
ふうふう言いながら階段を上っていると、尊さんに声を掛けられる。
「大丈夫か?」
「平気です。体動かしたほうが、あとから食べるご飯が美味しいので」
「ははっ、朱里らしいよ」
「尊さんは疲れてないんですか? あんまり息が上がってない」
「まぁ、鍛え方かな」
「……このぉ……。そのうち階段をムーンウォークで上がり始めたりして。マイケル・ミコ」
「ポウ」
ノッてくれた尊さんの「ポウ」を聞き、私は堪らず笑い出した。
「やめてくださいよ。ただでさえ息が切れてるのに」
「ポウ」
「ひひひひひひひ」
参道は階段を上って少し平らな部分があり、また階段……という作りで、その合間にお店がある。
途中にあったお店には真っ黒な置物があり、どうやら那智黒石という石で作られているらしい。
那智黒と呼ばれるそれは八咫烏を意味し、幸運、成功、勝利にあやかれるんだとか。
そして那智黒の飴もあるらしい。
寂しげな百合さんの声を聞き、尊さんはしっかりとした声で言った。
「見るんです。……俺が見せます。ひ孫を抱かせて『生きるのが楽しい』『ひ孫の成長を見守れるのが嬉しい』って思わせてみせます」
彼の言葉を聞いて、私は一人でコクンと頷いた。
まだ結婚もしていないし、子供の事は分からない。
誰かのために生む訳じゃないし、私と尊さんの家族を増やし、みんなで幸せに生きていくためだ。
でも、私たちの子供の誕生を喜んでくれる人がいるなら嬉しいし、成長を見守って幸せを感じてくれるなら、頻繁に挨拶に行きたい。
私はグスッと洟を啜り、笑って言った。
「すぐに騒がしくなりますよ。子供の成長ってあっという間ですから」
すると前の席から、同じようにグスッと音が聞こえた。
「……そうね。……歳を取ると弱気になって駄目ね。もっと若い人と接して、未来を見ていかないと」
私は涙を流しながら笑う。
「大丈夫ですよ! 『上手くいく』って思えばそうなります。気持ちで負けたら駄目なんです!」
うっかり「気持ちで負けたら特盛りラーメンなんて完食できません」と言いかけたけど、グッと堪えた。私は空気が読める女だ。
「じゃあ、みんなで熊野大社と伊勢神宮で『いい事ありますように』ってお願いしないとね」
ちえりさんが明るく言い、弥生さんが「神社仏閣だ~い好き!」と喜ぶ。
「二箇所とも、すんごいパワースポットだから、御利益あるといいですね」
尊さんに言うと、彼は表情を和らげて頷く。
「ああ」
そのあと、スマホで熊野大社や那智の滝、伊勢神宮などについて調べつつ、とりとめのない明るい話をして過ごした。
きっとあとでゆっくりと語る時もあるだろうけど、そういうのは夜のほうがいいのかもしれない。
**
途中でおトイレ休憩を挟み、私たちは熊野那智大社の駐車場に着いた。
熊野那智大社は熊野三山の中の一社で、他に熊野本宮大社、熊野速玉大社がある。
三社ともこの付近にあり、熊野古道によって結ばれている。
本当は三社の参拝順序があり、本宮、速玉、那智の順番らしい。
那智大社は全国にある五千以上の熊野神社の総本社で、昔から〝結宮〟と呼ばれ、良縁や願いを結ぶ神社として崇められているとか。
しかしお願い事を聞いてもらうためには、試練を乗り越えなければならない。
駐車場から那智大社までは、実に四百六十七段の階段が待ち受けている。
「お祖母ちゃん、大丈夫?」
小牧さんに心配され、百合さんは微笑む。
「さっきは気弱な事を言ったけれど、まだ介助が必要なつもりはないから平気よ。でも、マイペースにゆっくり行かせてもらうけどね」
階段の上り始めには郵便局があり、右手の道をまっすぐ行くと那智の滝に通じているそうだ。
でも順番としては、階段を上りつつ鳥居をくぐり、参拝したあとに那智の滝へ向かうのがベストらしい。
ふうふう言いながら階段を上っていると、尊さんに声を掛けられる。
「大丈夫か?」
「平気です。体動かしたほうが、あとから食べるご飯が美味しいので」
「ははっ、朱里らしいよ」
「尊さんは疲れてないんですか? あんまり息が上がってない」
「まぁ、鍛え方かな」
「……このぉ……。そのうち階段をムーンウォークで上がり始めたりして。マイケル・ミコ」
「ポウ」
ノッてくれた尊さんの「ポウ」を聞き、私は堪らず笑い出した。
「やめてくださいよ。ただでさえ息が切れてるのに」
「ポウ」
「ひひひひひひひ」
参道は階段を上って少し平らな部分があり、また階段……という作りで、その合間にお店がある。
途中にあったお店には真っ黒な置物があり、どうやら那智黒石という石で作られているらしい。
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そして那智黒の飴もあるらしい。
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