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長い一月六日 編
邪悪
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私は混乱し、周囲の人たちも彼の告発を聞いてどよめいていた。
そんな中、私は尊さんの違和感に気づく。
彼は顔色を悪くし、握り締めた拳を震わせていた。額には汗が浮かんでいるように見える。
(大丈夫なの?)
あんな尊さんを見た事はなく、私はつい腰を浮かしかけた。
けれど、彼は一瞬私を見て、視線だけで制してくる。
『これで終わらせるから、黙って見ていてくれ』という声が聞こえてくるようだった。
尊さんの告発は続く。
「あんたは実行犯に声を掛け、借金を肩代わりをし、残される家族を守ると約束した。それと引き換えに、加齢による過失と見せかけて俺の家族を殺させた」
「ど……、どこにその証拠が……っ」
まだ強気な態度を崩さない怜香さんを一瞥したあと、尊さんはまたタブレットを弄った。
その途端、女性のけたたましい笑い声が聞こえた。
大きな音だったので、皆ビクッとする。が、よく聞けばその声は怜香さんのものだった。
『殺したに決まってるじゃない! あんな雌豚、死んで当然よ! 貧乏人のくせに私の夫を寝取って、図々しくも子供まで産んだんだもの。それぐらいの罰が当たっても仕方がないでしょう?』
広い部屋に響き渡った声を聞いて全員が瞠目し、あまりに邪悪な言動に身を震わせた。
「ちょ……っ、ちょっと!」
さすがに怜香さんが立ちあがり、隣に座っている亘さんの前を通って尊さんのもとへ行こうとする。
「待ちなさい。最後まで聞くんだ」
――が、亘さんに腕を掴まれ、阻まれてしまう。
『先が短い貧乏人なら、ちょっとお金を積めば何でもするわよ。尊があの場にいなかったのは誤算だったけど、あの女と娘が死んでスカッとしたわ! 尊もさっさと死ねばいいのに。あの子が家にいた時、毎日のように〝死んだら?〟〝あんたは要らない子なのよ〟って言い続けていたわ。放っておいたら自殺してくれると思ったけど、図太いのよねぇ……。さすがあの女の子供だわ』
「…………っ!」
あまりに悪意に満ちた言葉に、私は涙を零し歯を食いしばった。
――何の権利があって人の命を、人生を簡単に奪おうとするの!?
――そりゃ憎い気持ちは分かる。けど、やっていい事と悪い事がある!
――『死んだら?』『要らない子』? どうしてそんな酷い言葉を子供に言えるの?
風磨さんもエミリさんも、皆顔を青ざめさせていた。
怜香さんはワナワナと震え、凄まじい形相で伊形社長を睨んだ。
「これ……っ、あなたが録音したの!? 裏切り者!!」
……という事は、浮気現場で、伊形社長がボイスレコーダーやスマホなりで録音していた?
でもその音声データがどうして尊さんのもとにあるの?
どうして伊形社長が尊さんに協力するの?
全員が同じ疑問を抱いていた時、尊さんが淡々と説明する。
「伊形社長とは裏で取引をした。彼の甥である宇野彬常務は、他社の社長令嬢と結婚して二年目だ。だが彼はイケイ食品総務部の女性、相良加代さんと不倫していた。それを知った俺は、彼と伊形社長を強請らせてもらった」
「あっ」
まさかそこで、昭人の婚約者が出てくると思わず、私は小さく声を上げた。
――そうだ、六本木で二人に会った時、尊さんは加代さんが勤めている会社を〝イケイ食品〟と特定していた。
――彼女が不倫していた相手まで、よく知ってるなと思ったけど……。
――あれは、私を思って調べた訳ではなかった。
――自分の復讐のために得た情報で、六本木での事は〝ついで〟だったんだ。
「…………っ」
すべてが繋がってショックとも興奮ともつかない衝動を得た私は、自分を落ち着かせるために大きく息を吸った。
尊さんは、私と付き合う前から孤独な戦いを続けていた。
風磨さんにも誰にも教えず、……いや、誰も信じる事ができなかったから、一人でやるしかなかったんだろう。
(もう……っ、これ以上一人で苦しまなくていいから……っ!)
私は彼に駆け寄って抱き締めたい衝動を必死に堪え、ギュッと拳を握る。
「伊形社長は俺に強請られるまま、継母とのピロートークを録音した。ただでさえダブル不倫してるのに、甥の不倫までバラされたら大問題だもんな? ……まぁ、伊形社長も、いい加減その女から逃げたくて堪らなかっただろうから、これで縁を切れると思ったんだろ。よく馴染みの飲み屋で『ババアの相手は嫌だ』と愚痴を言ってたよな?」
まさか、伊形社長が通っているお店にまで手を回していたとは……。
尊さんの抜かりなさに、私は恐ろしさすら覚えた。
怜香さんはギロッと伊形社長を睨んだけれど、亘さんに強く腕を引っ張られて歯を食いしばり黙った。
そんな中、私は尊さんの違和感に気づく。
彼は顔色を悪くし、握り締めた拳を震わせていた。額には汗が浮かんでいるように見える。
(大丈夫なの?)
あんな尊さんを見た事はなく、私はつい腰を浮かしかけた。
けれど、彼は一瞬私を見て、視線だけで制してくる。
『これで終わらせるから、黙って見ていてくれ』という声が聞こえてくるようだった。
尊さんの告発は続く。
「あんたは実行犯に声を掛け、借金を肩代わりをし、残される家族を守ると約束した。それと引き換えに、加齢による過失と見せかけて俺の家族を殺させた」
「ど……、どこにその証拠が……っ」
まだ強気な態度を崩さない怜香さんを一瞥したあと、尊さんはまたタブレットを弄った。
その途端、女性のけたたましい笑い声が聞こえた。
大きな音だったので、皆ビクッとする。が、よく聞けばその声は怜香さんのものだった。
『殺したに決まってるじゃない! あんな雌豚、死んで当然よ! 貧乏人のくせに私の夫を寝取って、図々しくも子供まで産んだんだもの。それぐらいの罰が当たっても仕方がないでしょう?』
広い部屋に響き渡った声を聞いて全員が瞠目し、あまりに邪悪な言動に身を震わせた。
「ちょ……っ、ちょっと!」
さすがに怜香さんが立ちあがり、隣に座っている亘さんの前を通って尊さんのもとへ行こうとする。
「待ちなさい。最後まで聞くんだ」
――が、亘さんに腕を掴まれ、阻まれてしまう。
『先が短い貧乏人なら、ちょっとお金を積めば何でもするわよ。尊があの場にいなかったのは誤算だったけど、あの女と娘が死んでスカッとしたわ! 尊もさっさと死ねばいいのに。あの子が家にいた時、毎日のように〝死んだら?〟〝あんたは要らない子なのよ〟って言い続けていたわ。放っておいたら自殺してくれると思ったけど、図太いのよねぇ……。さすがあの女の子供だわ』
「…………っ!」
あまりに悪意に満ちた言葉に、私は涙を零し歯を食いしばった。
――何の権利があって人の命を、人生を簡単に奪おうとするの!?
――そりゃ憎い気持ちは分かる。けど、やっていい事と悪い事がある!
――『死んだら?』『要らない子』? どうしてそんな酷い言葉を子供に言えるの?
風磨さんもエミリさんも、皆顔を青ざめさせていた。
怜香さんはワナワナと震え、凄まじい形相で伊形社長を睨んだ。
「これ……っ、あなたが録音したの!? 裏切り者!!」
……という事は、浮気現場で、伊形社長がボイスレコーダーやスマホなりで録音していた?
でもその音声データがどうして尊さんのもとにあるの?
どうして伊形社長が尊さんに協力するの?
全員が同じ疑問を抱いていた時、尊さんが淡々と説明する。
「伊形社長とは裏で取引をした。彼の甥である宇野彬常務は、他社の社長令嬢と結婚して二年目だ。だが彼はイケイ食品総務部の女性、相良加代さんと不倫していた。それを知った俺は、彼と伊形社長を強請らせてもらった」
「あっ」
まさかそこで、昭人の婚約者が出てくると思わず、私は小さく声を上げた。
――そうだ、六本木で二人に会った時、尊さんは加代さんが勤めている会社を〝イケイ食品〟と特定していた。
――彼女が不倫していた相手まで、よく知ってるなと思ったけど……。
――あれは、私を思って調べた訳ではなかった。
――自分の復讐のために得た情報で、六本木での事は〝ついで〟だったんだ。
「…………っ」
すべてが繋がってショックとも興奮ともつかない衝動を得た私は、自分を落ち着かせるために大きく息を吸った。
尊さんは、私と付き合う前から孤独な戦いを続けていた。
風磨さんにも誰にも教えず、……いや、誰も信じる事ができなかったから、一人でやるしかなかったんだろう。
(もう……っ、これ以上一人で苦しまなくていいから……っ!)
私は彼に駆け寄って抱き締めたい衝動を必死に堪え、ギュッと拳を握る。
「伊形社長は俺に強請られるまま、継母とのピロートークを録音した。ただでさえダブル不倫してるのに、甥の不倫までバラされたら大問題だもんな? ……まぁ、伊形社長も、いい加減その女から逃げたくて堪らなかっただろうから、これで縁を切れると思ったんだろ。よく馴染みの飲み屋で『ババアの相手は嫌だ』と愚痴を言ってたよな?」
まさか、伊形社長が通っているお店にまで手を回していたとは……。
尊さんの抜かりなさに、私は恐ろしさすら覚えた。
怜香さんはギロッと伊形社長を睨んだけれど、亘さんに強く腕を引っ張られて歯を食いしばり黙った。
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