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加速する絶望 編
宮本凜
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俺たちは新人コンビとして、先輩の力を借りながら様々な案件に取り組んでいった。
意気投合し、何をするにも一緒なので、当たり前に一緒に昼飯を食い、仕事帰りに飲んだ。
だが宮本は酒を飲んで酔っ払った時は正体不明になり、吐くわ絡むわで大変だ。
何度も一緒に飲むうちに、俺は宮本を家まで送るようになっていた。
その日も仕事帰りに焼き肉を食い、シメににんにくがたっぷり入ったラーメンを食べたあと、酔い潰れた宮本を送った。
『……おい、宮本。起きろ』
宮本の部屋の前で、俺はペチペチと彼女の頬を叩く。
『んー……』
いい気分になってウトウトしている宮本は、グフッとげっぷをする。
『お前、くせぇよ。シメだからってにんにく足すなよバカが』
『速水くんだって、にんにく足したくせに……』
宮本は真っ赤な顔で言い返したあと、バッグからキーケースを取りだす。
『速水くん、ちょっと寄ってきなよ。飲み直そ』
『まだ飲むつもりかよ……』
『同期のよしみじゃーん』
家に上がって電気をつけた宮本は、ジャケットを脱いでハンガーに掛け、半袖シャツ姿になると冷蔵庫からビールの缶を出し、俺に向かって放った。
『おっと』
缶ビールを受け取った俺は、鞄を適当に置いて床に座った。
『あっつい』
手でパタパタと顔を仰いだ宮本は、エアコンの電源を入れる。
そのあとも仕事の話やくだらない話をしながら、俺たちはどんどんビールの缶を空けていった。
『もう遅いから泊まってきなよ。雑魚寝になるけど、シャワーは使わせてあげる』
サラリと言われ、俺は宮本を睨む。
床の上に胡座をかいた彼女は、俺を見て含んだ笑みを浮かべた。
『……いいのか?』
俺は熱を孕んだ目で尋ねる。
酔っぱらってるし、二人ともにんにく臭いけど、お互い酒には強い。
あいつが〝分かっていて〟言っているのは理解した。
『……いいよ』
宮本はいつになく女っぽい表情になり、自らシャツのボタンに手を掛けた。
それからしばらくの間、俺と宮本は仕事でどんどん成果を上げながら、プライベートでは恋人として過ごしていた。
――が、別れは突然訪れた。
年明け、宮本が会社を無断欠勤した。
体調が悪いのかと思って連絡を入れたら、あいつからブロックされている事に気づく。
『…………は?』
(……俺、何かやったか?)
宮本の事は信頼していた。今まで俺に近づいては勝手に離れていった女たちとは違い、あいつは思っている事をそのまま言う。
何か俺に非がある時は、真っ向から意見を言うハッキリした性格をしている。
だから笑顔で接しているのに裏では……、という事は絶対にないと思っていたので、いきなりブロックされて混乱した。
その日は一日落ち着かずに過ごし、終業と共に退勤して宮本の家へ向かった。
合鍵を使ってオートロックを開け、あいつの部屋がある階まで上がるとチャイムを鳴らす。だが応じる気配はまったくなく、焦燥感に駆られた俺は何度もチャイムを鳴らし、ドアをノックした。
『宮本! 宮本!』
しばらくそうしていると、『うるさいなぁ……』と隣の部屋のドアが開いた。
顔を出したのは四十代半ばの女性で、彼女は迷惑そうな顔で俺を見ると、酒焼けした声で言った。
『隣の人なら引っ越してったよ』
『…………は? …………いつですか?』
『日付は覚えてないけど、年末に夜逃げするように出てったね』
その単語を聞いて、俺は呆然として立ち尽くした。
女性は、もう用は済んだと言わんばかりに、バタンとドアを閉める。
俺はしばらく、もう宮本が住んでいない部屋のドアを見つめていた。
(夜逃げ? どうしてだ? 借金があった? ……いや、そんな様子はなかった。……なら、どうして……。困ってたなら言えよ! 何で俺に相談しなかったんだよ!)
心も体も、どんどん冷えていくのが分かる。馴染みのあるこの感覚は――、絶望だ。
『……宮本』
俺は彼女を呼び、最後にもう一度、祈るようにドアノブをひねる。
だが願いは叶わず、俺はゆっくり手を下ろしながら溜め息をついた。
『…………凜』
意気投合し、何をするにも一緒なので、当たり前に一緒に昼飯を食い、仕事帰りに飲んだ。
だが宮本は酒を飲んで酔っ払った時は正体不明になり、吐くわ絡むわで大変だ。
何度も一緒に飲むうちに、俺は宮本を家まで送るようになっていた。
その日も仕事帰りに焼き肉を食い、シメににんにくがたっぷり入ったラーメンを食べたあと、酔い潰れた宮本を送った。
『……おい、宮本。起きろ』
宮本の部屋の前で、俺はペチペチと彼女の頬を叩く。
『んー……』
いい気分になってウトウトしている宮本は、グフッとげっぷをする。
『お前、くせぇよ。シメだからってにんにく足すなよバカが』
『速水くんだって、にんにく足したくせに……』
宮本は真っ赤な顔で言い返したあと、バッグからキーケースを取りだす。
『速水くん、ちょっと寄ってきなよ。飲み直そ』
『まだ飲むつもりかよ……』
『同期のよしみじゃーん』
家に上がって電気をつけた宮本は、ジャケットを脱いでハンガーに掛け、半袖シャツ姿になると冷蔵庫からビールの缶を出し、俺に向かって放った。
『おっと』
缶ビールを受け取った俺は、鞄を適当に置いて床に座った。
『あっつい』
手でパタパタと顔を仰いだ宮本は、エアコンの電源を入れる。
そのあとも仕事の話やくだらない話をしながら、俺たちはどんどんビールの缶を空けていった。
『もう遅いから泊まってきなよ。雑魚寝になるけど、シャワーは使わせてあげる』
サラリと言われ、俺は宮本を睨む。
床の上に胡座をかいた彼女は、俺を見て含んだ笑みを浮かべた。
『……いいのか?』
俺は熱を孕んだ目で尋ねる。
酔っぱらってるし、二人ともにんにく臭いけど、お互い酒には強い。
あいつが〝分かっていて〟言っているのは理解した。
『……いいよ』
宮本はいつになく女っぽい表情になり、自らシャツのボタンに手を掛けた。
それからしばらくの間、俺と宮本は仕事でどんどん成果を上げながら、プライベートでは恋人として過ごしていた。
――が、別れは突然訪れた。
年明け、宮本が会社を無断欠勤した。
体調が悪いのかと思って連絡を入れたら、あいつからブロックされている事に気づく。
『…………は?』
(……俺、何かやったか?)
宮本の事は信頼していた。今まで俺に近づいては勝手に離れていった女たちとは違い、あいつは思っている事をそのまま言う。
何か俺に非がある時は、真っ向から意見を言うハッキリした性格をしている。
だから笑顔で接しているのに裏では……、という事は絶対にないと思っていたので、いきなりブロックされて混乱した。
その日は一日落ち着かずに過ごし、終業と共に退勤して宮本の家へ向かった。
合鍵を使ってオートロックを開け、あいつの部屋がある階まで上がるとチャイムを鳴らす。だが応じる気配はまったくなく、焦燥感に駆られた俺は何度もチャイムを鳴らし、ドアをノックした。
『宮本! 宮本!』
しばらくそうしていると、『うるさいなぁ……』と隣の部屋のドアが開いた。
顔を出したのは四十代半ばの女性で、彼女は迷惑そうな顔で俺を見ると、酒焼けした声で言った。
『隣の人なら引っ越してったよ』
『…………は? …………いつですか?』
『日付は覚えてないけど、年末に夜逃げするように出てったね』
その単語を聞いて、俺は呆然として立ち尽くした。
女性は、もう用は済んだと言わんばかりに、バタンとドアを閉める。
俺はしばらく、もう宮本が住んでいない部屋のドアを見つめていた。
(夜逃げ? どうしてだ? 借金があった? ……いや、そんな様子はなかった。……なら、どうして……。困ってたなら言えよ! 何で俺に相談しなかったんだよ!)
心も体も、どんどん冷えていくのが分かる。馴染みのあるこの感覚は――、絶望だ。
『……宮本』
俺は彼女を呼び、最後にもう一度、祈るようにドアノブをひねる。
だが願いは叶わず、俺はゆっくり手を下ろしながら溜め息をついた。
『…………凜』
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