【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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加速する絶望 編

張り巡らせた甘い罠

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 中村さんは少し迷ったあと、決まり悪そうに言う。

『朱里は田村くんを〝好きで堪らない〟感じではないと思います。どっちかというと、孤独にならないための穴埋めっていうか……。あの子、いつもどこか遠くを見ているんですよね。田村くんの事は一応好きで彼氏として扱ってるけど、彼を通して誰かを見ている気がします。……田村くんは朱里を好きみたいだけど、あいつは口を開けば〝可愛い〟〝胸が大きい〟ばっかり。外見しか目に入ってないのかっつーの』

 そう言って中村さんは不機嫌そうに唇を尖らせた。

『俺はどう?』

『え?』

 いきなりそう言われた中村さんは、目を丸くする。

『恋愛感情を持つかは置いといて、俺なら包容力があると思うし、彼女の痛みを理解できる』

『……結局、朱里と付き合いたいんじゃないですか』

 中村さんは呆れたように溜め息をついた。

『今は特に付き合いたいと思ってない。本当に学生は範囲外だ。今は〝もしも〟の話をしている。仮にこの先、朱里が田村クンと別れたとして、俺なら任せられる?』

 尋ねられ、彼女はうさんくさそうに俺を見た。

『……確かに財力は文句なしですね』

『給料以上の資産は持ってるし、ある程度の贅沢は約束できる』

『あの子、特に贅沢したい訳じゃないと思いますけど。求めているのは、一緒にいて心が満たされる人じゃないですか?』

『命を助けた男だって言ったら、グッとくるかな?』

 試しに言ってみると、中村さんは嫌そうな顔をする。

『最低な男の言い分じゃないですか。弱みにつけこむなんて……』

『冗談だよ』

 ――朱里を側に置けるなら、どんな口実だっていいけどな。

 軽く笑いながら、俺は心の底で狂気めいた笑みを浮かべた。

『だが俺は田村クンより親を喪った痛みが分かる。孤独感も、空しさも、どうしようもない思いも、……中村さんよりも朱里と気持ちをシェアできると思ってるよ』

 真面目な表情で言うと、彼女は俺を睨んだ。

『自分の孤独を慰めるために、朱里を利用しないでください』

 正論だ。君は正しい。

 だが俺だって譲りたくないものはある。そのためなら何だってするさ。

『言わせてもらうけど、彼女は普通の人では満足できないと思うよ』

『朱里はそこそこ、田村くんの事を好きだと思いますけど』

『……彼と幸せになれるといいけどなぁ……』

 俺はわざとらしく言う。

 中村さんは親友で朱里を好きだからこそ、いずれ二人がうまくいかなくなるのを予想しているんだろう。

 彼女は悔しげな表情をしたあと、さらに尋ねてくる。

『篠宮フーズに入社したら、立場を利用して朱里に迫るんですか?』

『それは絶対しない。そうできない理由がある。ちゃんと上司として朱里と君を見守って、適切な距離を保つ』

 のらりくらりと躱し、煽ったかと思えば近寄らないと断言したので、中村さんは面食らったようだ。

 彼女は疲れたように溜め息をつき、髪を掻き上げる。

『……篠宮さんが何を考えているのか分かりません』

『朱里に幸せになってほしいと望む気持ちだけは、ブレていないつもりだ』

 中村さんはしばらく難しい顔をして考えていたが、やがて溜め息をついた。

『一旦持ち帰らせてください。……でも、第三者的に見ればいい話なのかもしれませんね。普通に就職活動をしたとして、二人で同じ会社に入れる確率はほぼゼロです。……もしも篠宮フーズに入ったら、朱里と同じ部署になれます?』

『勿論』

『……今はまだ高校生ですし、就職活動はまだ先です。とりあえず今は、朱里が目指している四年制の大学に入れるように頑張ります。……あの子、頭がいいから大変なんですよ』

 そう言って、中村さんは初めて素の笑顔を見せた。

『それだけは俺も手を貸せないから、応援してるとしか言えない』

『ひとまず大学に入ってキャンパスライフをエンジョイしてから、またお話しましょう』

『君の言う通りだ』

 そのあと、俺たちはカフェを出た。

 今日話したのは、約束というより遠い日の予約みたいなものだ。

 ――少しずつ種を撒いていけばいい。

 自分に言い聞かせ、俺は車を停めてある地下駐車場へ向かった。



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