145 / 779
亮平 編
なんで私に構うの?
しおりを挟む
「返して!」
「危ないからやめろ」
手を伸ばそうとしたけれど、リーチの長い左腕で防がれ、今は運転中なのだと思いだして諦めた。
「…………最悪」
私は吐き捨てるように言い、また横を向くと悔し涙を乱暴に拭う。
しばらく、二人とも無言になった。
「……結婚する相手、尊っていうのか?」
尋ねられたけど、私は亮平の言葉を無視する。
話しているうちに車は進み、多摩川を越えて川崎市に入っていた。
「……乱暴な真似をしたのは悪かったって」
「ならスマホ返して」
「……今は俺と話をしてるんだろ?」
「……うっざ」
「子供みたいな反応、やめろよ。二十六歳だろ」
「申し訳ございませんでした。以後気をつけます。ところで、一方的に貴重品を取り上げておきながら、会話を強要するのは如何なものかと思います。ご自分のしている事がパワハラだと気づいていらっしゃいますか?」
「……あのなぁ……」
亮平は疲れたように溜め息をつき、髪を掻き上げる。
またしばらくしたあと、私は心から疑問に思っている事を言った。
「……なんで私に構うの? 今まで無関心だったなら、それを貫いてよ。結婚するって知ったからって、ちょっかい掛けてこないで」
まじめなトーンで言ったからか、亮平も本音で返してくる。
「……びっくりしたんだよ。……去年フラれたって言ってずっと引きずってたのに、急に付き合ったと思ったら結婚する? ……俺の知らないところで何があったのか、ついていけなかった」
「私がどう過ごしてるかなんて、亮平に報告する義務はないと思う。〝家族〟としてなら、今日これから家でちゃんと伝えるつもりだった。それじゃ駄目なの? なんでいきなり行き先を変えたの?」
亮平はしばらく黙ったあと、深い溜め息をついた。
「……このままじゃ駄目だと思った。朱里と中途半端な関係のまま、結婚されてずっと話せなくなるのは嫌だった」
「こんな強引な事をして私が好意を持つとでも思った? 中途半端な関係ってなに? 兄妹でしょう? 元彼みたいな言い方するのやめてよ」
冷たく言うと、亮平はドリンクホルダーに置いていたコーヒーを飲んだ。
「……俺には朱里みたいなまっすぐな強さがない。朱里は逆境においても凜と咲く花みたいな魅力がある。そういうところに惹かれて、強さの源は何なのか、もっと深く知りたかった」
「……ならそう言えばいいじゃない。私はエスパーじゃないから察する事はできない。兄妹として話したいって言ってくれたなら、いつでも応じたのに」
これで、ようやく本音で話せるんだろうか。長かったし、疲れた。
「……お前は強くて綺麗だから、正面から話したくなかったのかもしれない。俺がほの暗い劣情を抱いているのを見透かされて、否定され、拒絶されるのが怖かった」
「……今さらでしょ」
ボソッと突っ込むと、亮平は小さく笑った。
「真剣に『好きだ』と言ったら、どう答えていた?」
尋ねられ、私は視線を落として応える。
「どこが好きなのか分からない。亮平は自分が思っているより私を知らないと思う。私も亮平に自分の事を話してない。なのに『好き』って言われても、それは本当の恋じゃない」
「……確かに、そうだな。『好き』ではなかったのかもしれない」
亮平は疲れたように溜め息をつき、自嘲する。
「……憧れ、なのかな。初めて会った時、まだ十六歳なのにどこか達観したような雰囲気があって、ただの高校一年生じゃないと感じた。初対面の〝新しい家族〟を前にしても動じず、ヘラヘラせずに大人びた対応をしていた」
「……十六歳が大人びてるって言っても、たかが知れてるでしょ。あの時、私は緊張してただけ。それ以外は何もないよ」
「家に帰って『可愛い子だったな』って親父と話してたら、美奈歩が不機嫌になったな」
そりゃそうだ。
美奈歩なりに、実母を喪ったあと『自分が母の代わりに頑張らないと』と思っていたんだろう。
『あの子は食事の支度やお弁当作りを頑張ってくれていた』って、継父が言っていた。
なのにいきなり知らない〝母〟と〝姉〟が現れて、『家事は私がやるからね』と美奈歩のやりがいを奪っていった。
きっと実母から教わったレシピがあっただろうに、家庭の味は新しい母の味になっていった。
さらに自慢の兄は、愛想のない〝姉〟を一人の女として気にしている。
気に食わない女が実母との思い出が詰まった大切な家に上がり込み、土足で思い出を穢したように感じたんだろう。
申し訳ないなとは思う。でも、私たちだってどうしようもなかった。
「危ないからやめろ」
手を伸ばそうとしたけれど、リーチの長い左腕で防がれ、今は運転中なのだと思いだして諦めた。
「…………最悪」
私は吐き捨てるように言い、また横を向くと悔し涙を乱暴に拭う。
しばらく、二人とも無言になった。
「……結婚する相手、尊っていうのか?」
尋ねられたけど、私は亮平の言葉を無視する。
話しているうちに車は進み、多摩川を越えて川崎市に入っていた。
「……乱暴な真似をしたのは悪かったって」
「ならスマホ返して」
「……今は俺と話をしてるんだろ?」
「……うっざ」
「子供みたいな反応、やめろよ。二十六歳だろ」
「申し訳ございませんでした。以後気をつけます。ところで、一方的に貴重品を取り上げておきながら、会話を強要するのは如何なものかと思います。ご自分のしている事がパワハラだと気づいていらっしゃいますか?」
「……あのなぁ……」
亮平は疲れたように溜め息をつき、髪を掻き上げる。
またしばらくしたあと、私は心から疑問に思っている事を言った。
「……なんで私に構うの? 今まで無関心だったなら、それを貫いてよ。結婚するって知ったからって、ちょっかい掛けてこないで」
まじめなトーンで言ったからか、亮平も本音で返してくる。
「……びっくりしたんだよ。……去年フラれたって言ってずっと引きずってたのに、急に付き合ったと思ったら結婚する? ……俺の知らないところで何があったのか、ついていけなかった」
「私がどう過ごしてるかなんて、亮平に報告する義務はないと思う。〝家族〟としてなら、今日これから家でちゃんと伝えるつもりだった。それじゃ駄目なの? なんでいきなり行き先を変えたの?」
亮平はしばらく黙ったあと、深い溜め息をついた。
「……このままじゃ駄目だと思った。朱里と中途半端な関係のまま、結婚されてずっと話せなくなるのは嫌だった」
「こんな強引な事をして私が好意を持つとでも思った? 中途半端な関係ってなに? 兄妹でしょう? 元彼みたいな言い方するのやめてよ」
冷たく言うと、亮平はドリンクホルダーに置いていたコーヒーを飲んだ。
「……俺には朱里みたいなまっすぐな強さがない。朱里は逆境においても凜と咲く花みたいな魅力がある。そういうところに惹かれて、強さの源は何なのか、もっと深く知りたかった」
「……ならそう言えばいいじゃない。私はエスパーじゃないから察する事はできない。兄妹として話したいって言ってくれたなら、いつでも応じたのに」
これで、ようやく本音で話せるんだろうか。長かったし、疲れた。
「……お前は強くて綺麗だから、正面から話したくなかったのかもしれない。俺がほの暗い劣情を抱いているのを見透かされて、否定され、拒絶されるのが怖かった」
「……今さらでしょ」
ボソッと突っ込むと、亮平は小さく笑った。
「真剣に『好きだ』と言ったら、どう答えていた?」
尋ねられ、私は視線を落として応える。
「どこが好きなのか分からない。亮平は自分が思っているより私を知らないと思う。私も亮平に自分の事を話してない。なのに『好き』って言われても、それは本当の恋じゃない」
「……確かに、そうだな。『好き』ではなかったのかもしれない」
亮平は疲れたように溜め息をつき、自嘲する。
「……憧れ、なのかな。初めて会った時、まだ十六歳なのにどこか達観したような雰囲気があって、ただの高校一年生じゃないと感じた。初対面の〝新しい家族〟を前にしても動じず、ヘラヘラせずに大人びた対応をしていた」
「……十六歳が大人びてるって言っても、たかが知れてるでしょ。あの時、私は緊張してただけ。それ以外は何もないよ」
「家に帰って『可愛い子だったな』って親父と話してたら、美奈歩が不機嫌になったな」
そりゃそうだ。
美奈歩なりに、実母を喪ったあと『自分が母の代わりに頑張らないと』と思っていたんだろう。
『あの子は食事の支度やお弁当作りを頑張ってくれていた』って、継父が言っていた。
なのにいきなり知らない〝母〟と〝姉〟が現れて、『家事は私がやるからね』と美奈歩のやりがいを奪っていった。
きっと実母から教わったレシピがあっただろうに、家庭の味は新しい母の味になっていった。
さらに自慢の兄は、愛想のない〝姉〟を一人の女として気にしている。
気に食わない女が実母との思い出が詰まった大切な家に上がり込み、土足で思い出を穢したように感じたんだろう。
申し訳ないなとは思う。でも、私たちだってどうしようもなかった。
120
あなたにおすすめの小説
3歳児にも劣る淑女(笑)
章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。
男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。
その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。
カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^)
ほんの思い付きの1場面的な小噺。
王女以外の固有名詞を無くしました。
元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。
完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。
音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。
見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。
だが、それではいけないと奮闘するのだが……
病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末
黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※いずれ他サイトにも転載予定。
※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる