【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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亮平 編

カウンセラーですか?

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 最初、尊さんは敵対心バチバチだったのに、今は亮平に真剣に向き合っている。

 私の継兄だからといって、事なかれ主義な言い方で誤魔化さない。

 思った事をストレートに言うけど、〝敵〟としてやっつけようとしていない。

 きっと亮平を〝話の通じる相手〟だと信頼して、ちゃんと話し合い、分かり合おうとしているんだと思う。

(私の継兄だから、今後のためにも、きちんと関係を構築しようとしているのかな)

 そう思うと自分が恥ずかしくなってきた。

 亮平は私を拉致したし、今まで継兄の立場を利用してセクハラ……ともなんとも言えない事をしていた。

 尊さんは恋人として亮平に怒りを抱いているだろうし、ビシッと言ってやりたい気持ちがあると思う。

 でも結婚すれば、尊さんと亮平は義兄弟になる。

 だから私と亮平の微妙な関係を、第三者として丁寧に解きほぐし、わだかまりをなくそうとしてくれているんだと思う。

 ここで亮平を言い負かすのは簡単だけど、そうすれば結婚したあとに仲良くやっていくなんて、夢のまた夢になる。

 彼は前にこう言っていた。

『自分の家族仲が壊滅的な分、朱里のご家族とは仲良くやっていきたいな』

(……大人だな……)

 こう言えば、いつものように皮肉っぽく笑って『怜香に鍛えられたから』と言うんだろう。

(人の痛みが分かる優しい人だから、私は尊さんを好きになった。……だから私も、彼に似合う大人の女性にならなきゃ)

 ちょっと前まで車の中で、子供みたいにプンプン怒って駄々をこねていた自分が恥ずかしい。尊さんといると、そう思わされる事が多くある。

 私が一人反省している間にも、亮平は思いだすように自分の気持ちを打ち明けていた。

「……確かに実家に住んでいた時も、朱里の気を引きたくて彼女ばかり見ていた気がします。でも美奈歩と差を付けてはいけないと思って、プレゼントする時とかは気を遣っていたつもりでした。……それでも分かるもんなんですね、きっと」

「女性は何歳でも〝女〟ですからね。血の繋がった兄妹であろうと、〝お気に入り〟を他者に譲りたくない気持ちはあるんですよ。むしろ、他に替えがいない唯一無二の〝兄〟だから〝他の女〟に近づけたくないんでしょう」

 尊さんの言葉を聞き、亮平は溜め息をつく。

「……美奈歩とちゃんと話し合わないと」

「そうする事をお勧めしますよ。……彼女さんは?」

 尊さんに尋ねられ、亮平は溜め息をつくと髪を掻き上げる。

「秋に別れました。……それも、朱里の事ばかり考えていたのを見透かされて、『気持ちが私にない』と言われてフラれました」

「その他の面では、いいお付き合いができていましたか?」

「……そうですね。穏やかでいい女性ひとでした。趣味も似ていて、笑うところも同じ、たまに刺激がほしくなるけど、……いい付き合いはできていたと思います」

「復縁できないですか? 掛け違えたところを直せばやり直せる気がしますけど」

 いつの間にか、彼らは険悪だった空気はどこかへ、真剣に話し合っている。

「結婚するなら、些細な事で一緒に笑える人が一番だと思いますよ」

「そう……、かな」

 亮平は自信なさげに言い、ポケットに手を突っ込んで溜め息をつく。

「朱里はつらい事があった分、『一人でも生き抜いてやる』という気概があります。亮平さんは多分、彼女のそういう強さに惹かれたのではありませんか? あなたは模範的な長男で、大した非行もせず、周囲が期待する通りに生きてきたのでは、と思います。特にお母さんが亡くなられたあと、お父さんに負担を掛けないよう努力されたんじゃないですか? ……そんなあなただから、お父さんが再婚されて環境が落ち着いたあと、継妹という珍しい存在に惹かれて〝火遊び〟をしたいと願ってしまった」

 尊さんの言葉を聞いて、私は「それかも」と感じた。

 同時に、尊さんが亮平という王将の前で、パチリと王手をかけたのを感じる。

 亮平はしばらく軽く瞠目したまま黙っている。……こりゃ図星かな。

 多分亮平は、私を気にし続ける理由を自分で理解していなかったんだと思う。

 だから核心を突かれ、驚きを感じているんだろう。

「……あなた、凄いですね。カウンセラーですか?」

 やがて亮平はそう言い、私は思わず「ぶふっ」と笑って横を向く。

「カウンセラーじゃないですよ。ちょっと人生の荒波に揉まれただけの、普通の男です」

 尊さんはとても柔らかな表情で笑っている。

 私たちが纏う空気が穏やかなものになったからか、亮平も肩の力を抜いたようだった。

「……綺麗で可愛い継妹と、もっと仲よくなりたかっただけなのかもしれません。沢山話して、恋人みたいにデートして、『お兄ちゃん』って甘えられて、周りから羨望の目で見られたかった。……それに〝夢〟を見てしまったのかな。継妹と親密になったら、自分の代わり映えのない生活に〝何か〟が起こるかも……って」

 尊さんがいない時だったら『気持ち悪い!』って言っていたかもしれない。

 でも今は尊さんがいるし、彼のお陰で私も亮平の本心を知る事ができた。

(……そうか、亮平は刺激がほしかっただけなのかもしれない)

 納得はしたけれど、その気持ちに応えるなんてできない。

 尊さんが優しく尋ねた。

「仮に朱里と男女の仲になったとして、ご家族を説得し、周囲の好奇の目をはね除け、二人の幸せを掴む自信はありましたか?」

 尊さんの問いに、亮平は痛みを伴った笑みを浮かべ、首を横に振った。

「……いや。……そんな強さはない。俺はただの凡人だ」

 亮平にそう認めさせ、尊さんの穏やかな戦いが終わった。
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