【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
159 / 778
家デート 編

二人のリズム

しおりを挟む
「や、そっちじゃない。んー、長期休みの時にフラフラ海外に行く癖があるんだ。スペインのタブラオに行ってフラメンコ見て、その辺のおっさんやマダムと一緒に踊ったり。南米行ってアルゼンチンタンゴ、イギリスついでにアイルランド行ってアイリッシュダンス。あとは適当にどこの国でもミュージックバーに入ったら、その辺の人と踊ってたな。そのツテでこっちの教室の先生と知り合ったりとか。最初からうまく踊れる訳はねぇから、滞在しつつ習うんだよ。……ま、俺がやってるのはストレス発散の真似事だけど」

「へええ……」

 あまりに意外すぎて、私は目をまん丸にして、ついでに口まで開いてしまう。

「あとは、エレクトロスウィング、なかなかクールだぜ」

 尊さんはそういうと、スマホの検索欄で〝スヴェン・オッテン〟と打ち、動画を見せてくれる。

 すると軽快なリズムに乗って、スーツにハット姿の男性が軽やかなステップで踊っている動画が流れ始めた。

「なにこれ~! めっちゃカッコイイ!」

 私はスマホの画面を覗き込んで興奮する。

「えー? 重さがないみたい。魔法のステップ! 尊さんできるの?」

「ん? だから真似事な」

「見たい見たい! お願い!」

 私はパンッと両手を合わせてお願いする。

「しゃーねぇなぁ……。下に響いたらアレだから、フワッとな」

「やった!」

 喜ぶ私を見て尊さんはクスッと笑い、スマホを操作してブルートゥースで音楽を流し始めた。

 曲調としては昔に流行ったダンスミュージックを、今風にアレンジした感じだ。

 リビングの広いところに立った尊さんは、音楽を聴きながら目を閉じて体を揺らし、タイミングのいいところで足を動かし始めた。

「わあ……」

 階下に響かないように力を入れないようにしているけれど、つま先と踵とを軸にうまく動かし、滑らかなステップを踏んでいる。

 彼の表情を見るととてもリラックスしていて、音楽を聴いて楽しみ、自然に体を動かしている。

 その姿を見て、シンプルに「格好いい」と思うと同時に、自分の知らない尊さんがいると思った。

(まだまだ、私の知らない面があるのかな。海外に行ってた時、誰とどんなふうに過ごしていたんだろう)

 尊さんがとても遠いところにいるように思えて、寂しさと置いてかれそうな感覚を得た私は、思わず立ちあがって心細そうに彼を見てしまった。

 すると尊さんは微笑んで私に手を伸ばしてきた。

「来いよ、朱里。一緒に踊ろうぜ」

「え……。わ、私、踊れないです……」

 踊りなんて、小学生の時にソーラン節を踊った事があるだけだ。それももう、ほぼ忘れている。

「いいから、おいで」

 うう……、優しく笑っての『おいで』の破壊力が……凄い……。

 歩み寄っていくと、尊さんは私を後ろから抱き締めるようにして、目元を手で覆ってきた。

「余計な事は考えないで、音を聴いて体をゆだねて。気持ちよく感じてきたら、音に合わせて体を揺らすだけ」

 まるで催眠術のような声を聞き、彼の温もりに包まれてそのリズムを感じているうちに、私も自然と体を動かしていた。

 目元が解放されたかと思うと、正面に立った尊さんが私の手をとる。

「さっきのステップは忘れていい。朱里の好きなように動いて。俺が合わせて踊らせる」

『踊らせる』って、も~!

 私は内心、彼の何気ない言葉に悶えた。

 忘れていいと言われたけれど、まな裏には尊さんの綺麗なステップが刻まれていた。

(こう……だっけ)

 キュッキュッとつま先を軸に足をハの字に動かすと、尊さんがニヤッと笑い同じように動く。

(彼は失敗しても笑わない)

 その信頼感があるから、私はリラックスして踊る事ができた。

 やがて私たちは笑い合いながら自然にステップを踏み、時にハイタッチし、体をドンとぶつけ合う。

 尊さんに片手をとられた私は、気取ったステップを踏みながらゆっくりと彼の周りを一周する。

 両手を繋いで大きく体を揺らすように動いたかと思うと、グッと腕を引かれて彼に抱き締められ、「あはは!」と笑ってフィニッシュした。

「OK! いいステップだった。お前に〝神の踊り手〟の称号をつかわそう」

「やだ、それゲームのやつだ!」

「バレたか!」

 私たちは屈託なく笑い、抱き締め合う。
しおりを挟む
感想 2,452

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末

黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。 ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※いずれ他サイトにも転載予定。 ※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。

完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。

音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。 見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。 だが、それではいけないと奮闘するのだが……

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

リリー・フラレンシア男爵令嬢について

碧井 汐桜香
恋愛
王太子と出会ったピンク髪の男爵令嬢のお話

処理中です...