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元彼に会う前に 編
空白の記憶
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「そうですね。人生何事も修行」
両手でギュッと拳を握ると、尊さんが優しい声で言った。
「結婚生活で躓いた時こそ、お義母さんと話して、人生の先輩の意見を聞くチャンスなんじゃないか?」
「……そうですね」
実父が生きていた頃は、私は甘えん坊な子供だった。
父は勿論、母の事も大好きで、何かあれば『お母さん、お母さん』と言っていた。
でも父の死を経て大きな喪失感を得て、どうやって〝普通〟に生きていけばいいのか分からなくなった。
母に甘えて寂しさを紛らわせたくても、母は一生懸命働いてそれどころではないように見え、遠慮してしまった。
再婚したあとは余計に気を遣い、そうしているうちに『どうやって人に甘えるんだっけ?』と分からなくなり、今に至る。
でも尊さんの愛情を受けてすべての感覚が〝普通〟に戻りつつある今、照れくさいけどもう一度母と娘として向き合えるのかもしれない。
(全部、尊さんのお陰だな)
微笑んで彼の腕をまた抱き締めた時、尊さんが遠慮がちに尋ねてきた。
「……その。……今まであまり触れないようにしていたけど、亡くなったお父さんの事、聞いてもいいか?」
「……え? …………はい」
父の事を尋ねられ、私は少しぼんやりして返事をする。
すっかりもう話したような気持ちでいたから、今になって何を……と思ったけれど、すぐに考えを打ち消した。
(そうだ、私、お父さんの事を何も話してない……?)
気づいて「どうして話さなかったんだろう」と思ったけれど、すぐに明確な答えは浮かんでこなかった。
「トラウマに触れるようだったら申し訳ないけど、どうして亡くなったんだ? 話したくないならいいんだけど」
質問され、私は答えようとして小さく口を開き、少し息を吸って――――、出すべき言葉を失ってしまった。
…………どうして死んじゃったんだっけ。
お父さんの笑顔や、楽しかった思い出なら沢山出てくる。
なのに、あれだけ大好きだったお父さんが、どうしていなくなってしまったのか、そこだけ記憶がごっそりなくなっていた。
「…………その…………」
私は間をつなげるために呟き、そのあとも沈黙し続ける。
それを尊さんは〝否定〟ととったのだろうか。
彼は優しい声で「ごめん」と謝る。
「無理に聞きたい訳じゃない。いつか話してくれる気持ちになったら、その時に聞くよ」
「そ、そうじゃない!」
私はザバッと水音を立て、体ごと彼を振り向く。
「違うの! 話したくない訳じゃない! 私……っ」
必死な顔をしていたのか、尊さんは私をギュッと抱き締めてきた。
「いいんだ。ごめん」
「~~~~っ、そうじゃない! ……そうじゃないの。…………私、……その、待って」
私は必死に説明しようとし、尊さんの腕の中で少し荒くなった呼吸を繰り返す。
「父の死に傷付いていて、話したくないとかじゃないんです。尊さんになら、どんな事だって話したいと思ってます」
「うん」
尊さんは私を見つめ、何でも受け入れるという目をして頷いた。
「……分からないんです。……父がどうして亡くなったのか思いだそうとしたら、そこだけ記憶がぽっかりと白くなっていて……。思いだしたくても思いだせないんです」
説明すると、尊さんの表情に微かに憐憫が混じる。
そして彼は視線を落とし、痛みの籠もった笑みを浮かべた。
「……俺も、母と妹を亡くしたあと、しばらくそういう状態だった。だから焦らなくていいし、無理をしなくていい」
「ん……」
呆然としつつ返事をしてから、一気に不安になってきた。
「……どうしてだろう……。なんで……」
訳が分からなくて呟くと、尊さんは私の背中をトントンと叩く。
「今は一旦置いておこう。〝お父さんの死因が分からない〟という事が分かっただけでも、一歩前進としよう。記憶にない事を一気に知るのは不可能だし、少しずつ段階を追って考え、行動していくんだ」
「……はい」
不安をそのままにせず、ちゃんと安心できるよう着地させてくれた尊さんに、私は内心感謝する。
その時、私はハッと思いついた。
両手でギュッと拳を握ると、尊さんが優しい声で言った。
「結婚生活で躓いた時こそ、お義母さんと話して、人生の先輩の意見を聞くチャンスなんじゃないか?」
「……そうですね」
実父が生きていた頃は、私は甘えん坊な子供だった。
父は勿論、母の事も大好きで、何かあれば『お母さん、お母さん』と言っていた。
でも父の死を経て大きな喪失感を得て、どうやって〝普通〟に生きていけばいいのか分からなくなった。
母に甘えて寂しさを紛らわせたくても、母は一生懸命働いてそれどころではないように見え、遠慮してしまった。
再婚したあとは余計に気を遣い、そうしているうちに『どうやって人に甘えるんだっけ?』と分からなくなり、今に至る。
でも尊さんの愛情を受けてすべての感覚が〝普通〟に戻りつつある今、照れくさいけどもう一度母と娘として向き合えるのかもしれない。
(全部、尊さんのお陰だな)
微笑んで彼の腕をまた抱き締めた時、尊さんが遠慮がちに尋ねてきた。
「……その。……今まであまり触れないようにしていたけど、亡くなったお父さんの事、聞いてもいいか?」
「……え? …………はい」
父の事を尋ねられ、私は少しぼんやりして返事をする。
すっかりもう話したような気持ちでいたから、今になって何を……と思ったけれど、すぐに考えを打ち消した。
(そうだ、私、お父さんの事を何も話してない……?)
気づいて「どうして話さなかったんだろう」と思ったけれど、すぐに明確な答えは浮かんでこなかった。
「トラウマに触れるようだったら申し訳ないけど、どうして亡くなったんだ? 話したくないならいいんだけど」
質問され、私は答えようとして小さく口を開き、少し息を吸って――――、出すべき言葉を失ってしまった。
…………どうして死んじゃったんだっけ。
お父さんの笑顔や、楽しかった思い出なら沢山出てくる。
なのに、あれだけ大好きだったお父さんが、どうしていなくなってしまったのか、そこだけ記憶がごっそりなくなっていた。
「…………その…………」
私は間をつなげるために呟き、そのあとも沈黙し続ける。
それを尊さんは〝否定〟ととったのだろうか。
彼は優しい声で「ごめん」と謝る。
「無理に聞きたい訳じゃない。いつか話してくれる気持ちになったら、その時に聞くよ」
「そ、そうじゃない!」
私はザバッと水音を立て、体ごと彼を振り向く。
「違うの! 話したくない訳じゃない! 私……っ」
必死な顔をしていたのか、尊さんは私をギュッと抱き締めてきた。
「いいんだ。ごめん」
「~~~~っ、そうじゃない! ……そうじゃないの。…………私、……その、待って」
私は必死に説明しようとし、尊さんの腕の中で少し荒くなった呼吸を繰り返す。
「父の死に傷付いていて、話したくないとかじゃないんです。尊さんになら、どんな事だって話したいと思ってます」
「うん」
尊さんは私を見つめ、何でも受け入れるという目をして頷いた。
「……分からないんです。……父がどうして亡くなったのか思いだそうとしたら、そこだけ記憶がぽっかりと白くなっていて……。思いだしたくても思いだせないんです」
説明すると、尊さんの表情に微かに憐憫が混じる。
そして彼は視線を落とし、痛みの籠もった笑みを浮かべた。
「……俺も、母と妹を亡くしたあと、しばらくそういう状態だった。だから焦らなくていいし、無理をしなくていい」
「ん……」
呆然としつつ返事をしてから、一気に不安になってきた。
「……どうしてだろう……。なんで……」
訳が分からなくて呟くと、尊さんは私の背中をトントンと叩く。
「今は一旦置いておこう。〝お父さんの死因が分からない〟という事が分かっただけでも、一歩前進としよう。記憶にない事を一気に知るのは不可能だし、少しずつ段階を追って考え、行動していくんだ」
「……はい」
不安をそのままにせず、ちゃんと安心できるよう着地させてくれた尊さんに、私は内心感謝する。
その時、私はハッと思いついた。
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