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元彼との決着 編
『女の恋愛は上書き保存』
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昭人とは十二時に現地集合になっていて、私たちは尊さんの車で移動し、十一時半にはカフェ近くの駐車場に着いていた。
三十分前には尊さんがカフェに入り、遅れて私が入店する手はずだ。
それはそうと〝変装〟した彼は髪を下ろしたまま、黒縁の伊達眼鏡を掛けている。
いつもはシュッとしたきれいめの服装をなのに、今日はストレートデニムにシャツとグレーのトレーナーを重ね着し、モッズコートにスニーカー、ニット帽という服装だ。
それがまた……! いつもと違ってめちゃくちゃ格好いいので、昭人との約束さえなかったら、撮影会をして腕を組んでデートしたいぐらいだった。
私はといえば、少しでも奴に「可愛い」と思われるのが嫌で、思いっきりカジュアルな格好をした。
胸元にロゴマークのついた紫のパーカーに、ライトグレーのジャージ素材のタックパンツ、その上にショート丈の黒いダウンジャケットを着て、足元はスニーカーだ。
簡単な纏め髪にして、耳にアクセサリーはなし。
でも、お守りだと思って、尊さんからもらった馬鹿高いネックレスは、服の下に隠してつけておいた。
私は二十分ぐらいブラブラと大学付近の懐かしい町並みを散策してから、千駄木駅近くにあるカフェに入った。
カフェに入ってキョロキョロすると、すぐ入り口に背を向けて座っている尊さんを見つけた。
「朱里、こっち」
名前を呼ばれてそちらを見れば、昭人が手を振っている。
彼はいつもと変わらないモノトーンを基調にした服装で、感情表現が薄そうな顔も記憶にある通り。
「ども」
昭人が座っている席は尊さんの席から二つ隣で、会話を聞くのに丁度いい距離かもしれないけれど、その気になってよく見れば顔バレしそうな距離でもある。
私は少しドキドキしながら席に向かい、ダウンジャケットを脱いで席に着いた。
私はカフェオレ、昭人はコーヒーを頼み、なんとなく気まずくなってお水を飲む。
「元気だったか? ……ていうか、先日顔を見たばっかりだけど」
「うん、元気」
素っ気ない返事だったからか、昭人は少し焦った表情で嫌な事を尋ねてきた。
「俺と別れてから、凄く落ち込んでたって聞いたけど」
うわぁ……、それを聞くんだ……。
「そんな嫌な顔するなよ」
しまった。気持ちが顔に出てしまったみたいだ。
「……先に言っておくけど、私はもう昭人の事、なんとも思ってないからね?」
私は先制攻撃に右ストレートを出す。
昭人はぐっ、と言葉に詰まった表情をしたあと、視線をさまよわせて言う。
「……あの性格悪い男と、うまくいってるのか?」
「確かに見方によっては性格悪いけど、凄く優しい人だよ。でも私が彼を大切にする理由を、いちいち昭人に紹介する義理はない」
スパッと言うと、今度はボディブローが効いたのか、また昭人は黙り込んだ。
「……九年付き合った男に言う言葉がそれか?」
やがて彼は絞り出すように言ったけれど、私は淀みなく返事をする。
「『女の恋愛は上書き保存』って言葉、知らない? 男の恋愛は『名前を付けて保存』で、いつでも懐かしがる事ができるかもしれない。でも私は嫌な別れ方をした恋愛を振り返りたくないの。昭人が言ったように、私はフラれたあと一年近く未練を抱いたし、あんたが別れてすぐ相良さんと付き合ってスピード結婚って聞いて、再起不能になった。……そんな私が、やっと前向きになって今の彼氏と幸せになれてるんだよ? 自分を捨てた男に未練を抱いてる訳がないじゃない」
「……俺は朱里と付き合っていた時、楽しかったけど」
「私も当時は楽しかったよ。水族館とか美術館とか、行きたい場所が被ってたし、昭人っていう〝彼氏〟がいて安心した」
でも、それだけだ。
私の言葉はすべて過去形で、『あの時は楽しかった』とは感じていても、『あの時に戻りたい』という感情はない。
「傷つけるかもしれない事を言うけど、多分、当時の私は空虚感を満たしてくれる人なら、誰でも良かったのかもしれない」
「誰でも良かった?」
彼は眉間に皺を寄せ、困惑した顔で私を見てくる。
「昭人とは『気が合いそうかも』と思ったから付き合ったし、まあまあ相性は良かったから九年続いたんだと思う。……でも『この人以外愛せない』っていうほど、昭人に夢中ではなかった」
昭人は難しい顔をして溜め息をつき、テーブルの下で脚を組む。
「そういう反応するけど、昭人だって私にベタ惚れじゃなかったでしょ。フッたって事は私に魅力を感じなくなったんだろうし、別れてすぐ新しい人に鞍替えできたなら、その程度の気持ちだったって事でしょ」
「いや……、それは……」
昭人はうろたえて言葉を濁し、落ち着かなく視線を泳がせる。
「言いたい事があるなら言えば? 多分、もう会う事はないと思うから、お互いスッキリしとこ?」
昭人は私を見て、怖い物でも見たような顔をしていた。
「……朱里って、前から物事をスパッと切り捨てるところがあったけど、今日は冴え渡ってるな」
「傷つけたならごめん。でも最初に言ったように、私は今、昭人とよりを戻したいって、まったく思ってないから、自分を良く見せようと思う気持ちもないんだよね」
左アッパーが効いたらしく、昭人はしばらく黙っていた。
三十分前には尊さんがカフェに入り、遅れて私が入店する手はずだ。
それはそうと〝変装〟した彼は髪を下ろしたまま、黒縁の伊達眼鏡を掛けている。
いつもはシュッとしたきれいめの服装をなのに、今日はストレートデニムにシャツとグレーのトレーナーを重ね着し、モッズコートにスニーカー、ニット帽という服装だ。
それがまた……! いつもと違ってめちゃくちゃ格好いいので、昭人との約束さえなかったら、撮影会をして腕を組んでデートしたいぐらいだった。
私はといえば、少しでも奴に「可愛い」と思われるのが嫌で、思いっきりカジュアルな格好をした。
胸元にロゴマークのついた紫のパーカーに、ライトグレーのジャージ素材のタックパンツ、その上にショート丈の黒いダウンジャケットを着て、足元はスニーカーだ。
簡単な纏め髪にして、耳にアクセサリーはなし。
でも、お守りだと思って、尊さんからもらった馬鹿高いネックレスは、服の下に隠してつけておいた。
私は二十分ぐらいブラブラと大学付近の懐かしい町並みを散策してから、千駄木駅近くにあるカフェに入った。
カフェに入ってキョロキョロすると、すぐ入り口に背を向けて座っている尊さんを見つけた。
「朱里、こっち」
名前を呼ばれてそちらを見れば、昭人が手を振っている。
彼はいつもと変わらないモノトーンを基調にした服装で、感情表現が薄そうな顔も記憶にある通り。
「ども」
昭人が座っている席は尊さんの席から二つ隣で、会話を聞くのに丁度いい距離かもしれないけれど、その気になってよく見れば顔バレしそうな距離でもある。
私は少しドキドキしながら席に向かい、ダウンジャケットを脱いで席に着いた。
私はカフェオレ、昭人はコーヒーを頼み、なんとなく気まずくなってお水を飲む。
「元気だったか? ……ていうか、先日顔を見たばっかりだけど」
「うん、元気」
素っ気ない返事だったからか、昭人は少し焦った表情で嫌な事を尋ねてきた。
「俺と別れてから、凄く落ち込んでたって聞いたけど」
うわぁ……、それを聞くんだ……。
「そんな嫌な顔するなよ」
しまった。気持ちが顔に出てしまったみたいだ。
「……先に言っておくけど、私はもう昭人の事、なんとも思ってないからね?」
私は先制攻撃に右ストレートを出す。
昭人はぐっ、と言葉に詰まった表情をしたあと、視線をさまよわせて言う。
「……あの性格悪い男と、うまくいってるのか?」
「確かに見方によっては性格悪いけど、凄く優しい人だよ。でも私が彼を大切にする理由を、いちいち昭人に紹介する義理はない」
スパッと言うと、今度はボディブローが効いたのか、また昭人は黙り込んだ。
「……九年付き合った男に言う言葉がそれか?」
やがて彼は絞り出すように言ったけれど、私は淀みなく返事をする。
「『女の恋愛は上書き保存』って言葉、知らない? 男の恋愛は『名前を付けて保存』で、いつでも懐かしがる事ができるかもしれない。でも私は嫌な別れ方をした恋愛を振り返りたくないの。昭人が言ったように、私はフラれたあと一年近く未練を抱いたし、あんたが別れてすぐ相良さんと付き合ってスピード結婚って聞いて、再起不能になった。……そんな私が、やっと前向きになって今の彼氏と幸せになれてるんだよ? 自分を捨てた男に未練を抱いてる訳がないじゃない」
「……俺は朱里と付き合っていた時、楽しかったけど」
「私も当時は楽しかったよ。水族館とか美術館とか、行きたい場所が被ってたし、昭人っていう〝彼氏〟がいて安心した」
でも、それだけだ。
私の言葉はすべて過去形で、『あの時は楽しかった』とは感じていても、『あの時に戻りたい』という感情はない。
「傷つけるかもしれない事を言うけど、多分、当時の私は空虚感を満たしてくれる人なら、誰でも良かったのかもしれない」
「誰でも良かった?」
彼は眉間に皺を寄せ、困惑した顔で私を見てくる。
「昭人とは『気が合いそうかも』と思ったから付き合ったし、まあまあ相性は良かったから九年続いたんだと思う。……でも『この人以外愛せない』っていうほど、昭人に夢中ではなかった」
昭人は難しい顔をして溜め息をつき、テーブルの下で脚を組む。
「そういう反応するけど、昭人だって私にベタ惚れじゃなかったでしょ。フッたって事は私に魅力を感じなくなったんだろうし、別れてすぐ新しい人に鞍替えできたなら、その程度の気持ちだったって事でしょ」
「いや……、それは……」
昭人はうろたえて言葉を濁し、落ち着かなく視線を泳がせる。
「言いたい事があるなら言えば? 多分、もう会う事はないと思うから、お互いスッキリしとこ?」
昭人は私を見て、怖い物でも見たような顔をしていた。
「……朱里って、前から物事をスパッと切り捨てるところがあったけど、今日は冴え渡ってるな」
「傷つけたならごめん。でも最初に言ったように、私は今、昭人とよりを戻したいって、まったく思ってないから、自分を良く見せようと思う気持ちもないんだよね」
左アッパーが効いたらしく、昭人はしばらく黙っていた。
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