【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
342 / 810
洗礼 編

応援してますから!

しおりを挟む
 とりあえず、昼休みにトイレに入った時、尊さんに連絡しておいた。

【今日、綾子さんたちにご飯に誘われました。辞令の発表後なので嫌な予感しかしないのですが、ちょっくら行ってきます。恵が一緒に行くと立候補してくれたので、リンチにはならないはずです】

 昼休みとはいえ尊さんも忙しいので、すぐに返事があるとは思っていない。

 メッセージを打ったあと私はすぐに個室から出て何気なく手を洗い、ハンカチで手を拭く前にちょっちょっと前髪を整える。

 ――と、鏡の前で歯磨きをしていた他部署の女性社員二人が、わざとらしく会話し始めた。

「速水部長って御曹司だったんでしょ? それが副社長になるって、あるべき姿になったって感じだよねー」

「そうそう。風磨さまもイケメンだけど、速水部長もタイプの違うイケメンだしね。あぁ~、うちの会社は顔面偏差値だけで株価爆上がりだわ」

「っていうか、丸木さんも誰かさんも大出世だよね~」

 うわっ。

 思わず鏡越しに彼女たちを見てしまったけれど、こちらをチラリとも見ていないのが怖い。

(……はよ退散しよ)

 私はハンカチで手を拭き、リップを塗り直す。

「ぶっちゃけ、大して可愛くもないのに二人ともよく選ばれたよね」

「ベッドで凄いんじゃない? ほら、胸が……」

「あはは!」

 …………うわぁ…………。

 ドン引きした私はリップをウォレットポシェットにしまったあと、立ち去り際に彼女たちに一言言った。

「トイレであっても、あんまりそういう事をおおぴらに言ってると、自分の首を絞める結果になりますよ。居酒屋でならともかく、社内で会社の人の事を悪く言うのはやめたほうがいいと思います」

 すると、そこで初めて彼女たちは私を見て、「ぷっ」と噴き出した。

「やだ、自分の事だと思ってるの? 自意識過剰えっぐ」

「っていうか、私たち脅されてる? こっわぁ……。これって脅迫じゃないの?」

 あーあ、こりゃもう話が通じないやつだ。

 ペコリと会釈してトイレから出ようとした時、後ろから容赦のない言葉が突き刺さった。

「死ねばいいのに。ブス」

 廊下に出た私は、なるべく何も考えないようにしてスタスタと歩き、呟く。

「なるほど」

 あまり深く考えたらめちゃくちゃダメージを受けそうで、私は一生懸命別の事を考えようとする。

(スマホに何か面白いもんでもあるかな)

 写真でも見ようと思ってスマホを出した時、「あの……っ」と声を掛けられて振り向く。

 あとを追うように小走りに近寄ってきたのは、やはり他部署の若い女の子だ。

(また何か言われるのかな)

 ちょっと警戒して「はい?」と尋ねると、彼女はトイレのほうをチラッと振り向いてから、スッと息を吸って早口に言った。

「私、上村さんと速水部長の事、応援してますから!」

「ええあっ!?」

 何やら思い詰めた雰囲気の彼女を前に、私は上ずった声を漏らして周囲を見る。

 一応、誰にも聞かれていないみたいで安心したけれど、彼女は一体どうしたんだろう。

「……私、さっきトイレの個室にいて、出ようとしたんですけど変な会話が始まっちゃって、出られなくて……」

「ああ、被弾しちゃったんだね。ごめんね、なんか……」

 あのあとなら、物凄く出づらかっただろう。

「……『大きいほうじゃね?』って言われました……」

「あああ……! ご、ごめん。ホントに」

 不名誉な勘違いをされ、よりいっそう申し訳なくなる。

「いえ。……それはそうと、私、総務部なんですが速水部長ってやっぱり人気があるんです。で、上村さんが秘書になる事でみんな殺気立ってる感じで……。でも私、前から上村さんのファンでもあるんです。……キャーッ、言っちゃった!」

「えっ、えええっ?」

 まさかこうくるとは思わなかった。

「上村さんって芸能人顔負けに美人だし、めちゃくちゃスタイルいいし、ずっと陰から拝んでいたんです」

「いや、拝むって……」

「さっきの人たちは総務部の先輩なんですが、ただの性格ブスなんで相手にしなくていいです!」

 そう言って、彼女はビシッとサムズアップした。……はい。
しおりを挟む
感想 2,607

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...