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洗礼 編
目覚め
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「婚約者だし、とても大切にしている」
普段の速水部長からは想像できないセリフを聞き、綾子さんたちは両手で顔を覆ってもんどり打っている。
「……っ、ふ、普段恋愛系の話をしない方がそういう事を言うと、威力ありますね……っ」
綾子さんは赤面してハァハァし、瑠美さんも美智香さんも照れまくっている。
かくいう私はニヤついてしまいそうになるのを必死に堪え、菩薩みたいなアルカイックスマイルを浮かべていた。
「う、上村さん、部長ってどんな彼氏?」
好奇心を隠しきれない綾子さんに尋ねられ、私はチラッと尊さんを見て慌てる。
「え、えっと……。尊敬できる人です。優しくて、大人で、ちょっと面白い所があって」
「部長が〝面白い〟!?」
その単語に、三人がざわつく。
「あっ、イメージ崩しちゃったらすみません!」
慌ててフォローしようとすると、綾子さんはニヤニヤしながら首を横に振る。
「いえ、いいの。妄想が捗るわ。ありがとう」
尊さんは口を挟むのを諦めたのか、スタッフに飲み物と単品メニューを追加オーダーしていた。
「朱里は食いたいもんあるか? 俺が奢るし好きな物食っておけよ」
「あ、はい」
尊さんに言われ、私は差しだされたメニューを見る。
「あ、……〝朱里〟ですって……! 部長が上村さんの名前を呼び捨てに……!」
「生々しい……!」
三人は限界オタクみたいになりつつ、私たちのやり取りを見守ってくれている。
「上村さんは部長の事をなんて呼んでるの?」
美智香さんに尋ねられ、私は赤面しつつ言う。
「み……、尊さん……」
「「「はぁああぁ……っ!」」」
そう言った途端、三人は両手で顔を覆ってプルプル打ち震えた。
「いい……、いいわね……。憧れの男性とその彼女という、完成されたカップルを観察するのも、思っていた以上にいいものだわ……」
いかん。綾子さんが何かに目覚めつつある。
そのあと私と尊さんが新たにオーダーしたフードを食べている間、好き放題萌えまくった綾子さんたちは、ようやく落ち着きを取り戻した。
「……聞こえてくる話なんですが、他部署の速水部長ファンが上村さんを妬んでいるという情報が入っていまして。これから上村さんは秘書課所属になる訳ですけど、あそこはあそこで、上昇志向の強い人がいるのも事実で……。まぁ、全員ではないんですけどね。今まで彼女たちは、丸木さんを蹴落として副社長秘書になろうとして、裏でえげつない事をしていたみたいですけど……」
「わぁ……、そういうのあるんですね」
今までエミリさんはそういう弱音を吐かなかったから、知らなかった。
そういうのあるのかな? という妄想はした事はあるけれど、実際に皆の王子様である風磨さんを巡って、陰険な嫌がらせがあったとは……。
「でも、丸木さんはしっかりしてるから、やり過ぎたら逆に自分たちの立場が危うくなると弁えているみたいで、ギリギリのラインで嫌がらせをしていたみたい。なんだか、主犯の友人は法学部出身とかで、さり気なく何をしたらアウトなのかを教えてもらってるとか」
「げぇ……。最悪な友達の使い方」
綾子さんの話を聞き、恵は顔をしかめる。
「そういうの、先に教えてくれてありがとうな。朱里は普段、副社長秘書室での仕事になるから、秘書課に在籍するとはいえ、そいつらとの接点は大してないと思うが、気をつけておく」
尊さんにお礼を言われ、綾子さんは嬉しそうに微笑む。
「どこに行っても女の戦いはあるんですね」
溜め息混じりに笑うと、彼女たちはビシッとサムズアップしてきた。
「これからは密かに上村さんをバックアップするから、任せて」
「あ、あの……。はい。ありがたいです。お手柔らかに……」
何事もほどほどには大切だ。
「分かってるわ。でも、喧嘩を売ろうとしている相手が誰なのか、身の程を弁えない人は上からお灸を据えてもらうぐらいで丁度いいと思うけどね。そうじゃないと自分が悪い事をしたって自覚が芽生えないでしょうし」
「それについては綾子さんに賛成」
恵も言い、尊さんも「一理あるな」と頷く。
そんな感じで一瞬ドキッとした綾子さんたちとのご飯会は終わり、私たちは尊さんに「ごちそうさまでした」を言って帰路についたのだった。
**
普段の速水部長からは想像できないセリフを聞き、綾子さんたちは両手で顔を覆ってもんどり打っている。
「……っ、ふ、普段恋愛系の話をしない方がそういう事を言うと、威力ありますね……っ」
綾子さんは赤面してハァハァし、瑠美さんも美智香さんも照れまくっている。
かくいう私はニヤついてしまいそうになるのを必死に堪え、菩薩みたいなアルカイックスマイルを浮かべていた。
「う、上村さん、部長ってどんな彼氏?」
好奇心を隠しきれない綾子さんに尋ねられ、私はチラッと尊さんを見て慌てる。
「え、えっと……。尊敬できる人です。優しくて、大人で、ちょっと面白い所があって」
「部長が〝面白い〟!?」
その単語に、三人がざわつく。
「あっ、イメージ崩しちゃったらすみません!」
慌ててフォローしようとすると、綾子さんはニヤニヤしながら首を横に振る。
「いえ、いいの。妄想が捗るわ。ありがとう」
尊さんは口を挟むのを諦めたのか、スタッフに飲み物と単品メニューを追加オーダーしていた。
「朱里は食いたいもんあるか? 俺が奢るし好きな物食っておけよ」
「あ、はい」
尊さんに言われ、私は差しだされたメニューを見る。
「あ、……〝朱里〟ですって……! 部長が上村さんの名前を呼び捨てに……!」
「生々しい……!」
三人は限界オタクみたいになりつつ、私たちのやり取りを見守ってくれている。
「上村さんは部長の事をなんて呼んでるの?」
美智香さんに尋ねられ、私は赤面しつつ言う。
「み……、尊さん……」
「「「はぁああぁ……っ!」」」
そう言った途端、三人は両手で顔を覆ってプルプル打ち震えた。
「いい……、いいわね……。憧れの男性とその彼女という、完成されたカップルを観察するのも、思っていた以上にいいものだわ……」
いかん。綾子さんが何かに目覚めつつある。
そのあと私と尊さんが新たにオーダーしたフードを食べている間、好き放題萌えまくった綾子さんたちは、ようやく落ち着きを取り戻した。
「……聞こえてくる話なんですが、他部署の速水部長ファンが上村さんを妬んでいるという情報が入っていまして。これから上村さんは秘書課所属になる訳ですけど、あそこはあそこで、上昇志向の強い人がいるのも事実で……。まぁ、全員ではないんですけどね。今まで彼女たちは、丸木さんを蹴落として副社長秘書になろうとして、裏でえげつない事をしていたみたいですけど……」
「わぁ……、そういうのあるんですね」
今までエミリさんはそういう弱音を吐かなかったから、知らなかった。
そういうのあるのかな? という妄想はした事はあるけれど、実際に皆の王子様である風磨さんを巡って、陰険な嫌がらせがあったとは……。
「でも、丸木さんはしっかりしてるから、やり過ぎたら逆に自分たちの立場が危うくなると弁えているみたいで、ギリギリのラインで嫌がらせをしていたみたい。なんだか、主犯の友人は法学部出身とかで、さり気なく何をしたらアウトなのかを教えてもらってるとか」
「げぇ……。最悪な友達の使い方」
綾子さんの話を聞き、恵は顔をしかめる。
「そういうの、先に教えてくれてありがとうな。朱里は普段、副社長秘書室での仕事になるから、秘書課に在籍するとはいえ、そいつらとの接点は大してないと思うが、気をつけておく」
尊さんにお礼を言われ、綾子さんは嬉しそうに微笑む。
「どこに行っても女の戦いはあるんですね」
溜め息混じりに笑うと、彼女たちはビシッとサムズアップしてきた。
「これからは密かに上村さんをバックアップするから、任せて」
「あ、あの……。はい。ありがたいです。お手柔らかに……」
何事もほどほどには大切だ。
「分かってるわ。でも、喧嘩を売ろうとしている相手が誰なのか、身の程を弁えない人は上からお灸を据えてもらうぐらいで丁度いいと思うけどね。そうじゃないと自分が悪い事をしたって自覚が芽生えないでしょうし」
「それについては綾子さんに賛成」
恵も言い、尊さんも「一理あるな」と頷く。
そんな感じで一瞬ドキッとした綾子さんたちとのご飯会は終わり、私たちは尊さんに「ごちそうさまでした」を言って帰路についたのだった。
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