【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
372 / 779
彼女の実父について 編

彼女の実父について

しおりを挟む
「じゃあ、私たちはお暇しましょうか」

 エミリさんが立ちあがり、伝票を確認しようとする。

 と、それを神くんが手で制し、ニコッと笑って言った。

「ここは僕が持ちますからいいですよ」

「いいの?」

 目を瞬かせて尋ねると、彼は「はい」と微笑む。

「春日さんと引き合わせてくださったお礼です」

 神くんがこちらを向いて爽やかに言った向こうで、春日さんはまた真っ赤になってクネクネしている。

「じゃあ、ありがとう。ごちそうさまです! 仲良くね!」

 ペコリとお辞儀をすると、恵も「ごちそうさま」とお礼を言う。

「神くん、ありがとう。春日さん、あとから報告してくださいね」

 エミリさんも言い、私たちはカフェをあとにした。





「しかし、神くんが御曹司だったなんてね……」

 恵が言い、私は苦笑いする。

「本人は隠しているつもりはないけど、『聞かれてないから答えてない』みたいなスタンスっぽいよ」

「お兄さんがいるなら、きっと会社を継ぐのはお兄さんなんでしょうね。神くんは次男だから篠宮フーズにいても許されるというか……。もしくはいずれアンド・ジンに戻るとして、その前に一般社員の経験を積んでおくつもりなのか」

 エミリさんが言い、私たちは「そうですねぇ……」と頷く。

「でもどっちにしろ、大企業の跡継ぎ兄弟がいると、ちょっと複雑そうですよね」

「そうね。風磨さんは前社長の息子でエリート街道を進んできた人だけど、そうなって当然とは思っていないし、彼なりに悩みはあるわ。……恵まれた環境にいると傲慢になりがちだけど、私は謙虚な彼が好きだわ。……と言っても、怜香さんが反面教師になったがゆえに……だと思うけれど」

 歩きながらエミリさんが言い、私はニヤニヤして彼女をつつく。

「ラブラブで何よりです」

「確かにちょっと頼りないところはあるけれど、仕事はしっかりするし、プライベートでなら甘えられても『どんとこい』と思えるしね。公私両方の姿を見ているから、『私だけが風磨さんを理解できる』って思えるのかも」

「今度はエミリさんの惚気話を聞きたいなぁ~……」

 恵がニヤニヤして言い、私も「賛成!」と笑う。

 そして私たちは二軒目のカフェ代が浮いたのをいい事に、もう一軒のカフェに入ったのだった。

 というか、一軒目のレストランも春日さんが持ってくれてるので、ありがたいやら申し訳ないやら……。



**



 先方に指定を受け、俺は十一時半に吉祥寺にある上村家を訪れた。

 車で向かうと家の前には若菜さんが出ていて、家の前のスペースに駐車していいと言われてそうする。

「お久しぶりです」

 挨拶をすると、どことなく朱里に面差しが似ている彼女はニッコリ笑う。

「前回にお会いした時より暖かくなりましたね。月日が経つのは早いわ。……じゃあ、中にお入りください」

 若菜さんに先導されてお宅にお邪魔し、ジャケットを脱いでからリビングダイニングに入る。

「速水さん、よくお越しになられました」

 ソファに座っていた貴志さんが立ちあがると、お互い頭を下げて挨拶し、手土産を渡す。

「お茶の用意をしますね。今日は亮平も美奈穂もいませんから、ご安心ください」

 若菜さんはそう言って台所に向かい、準備ができるまでの間、俺は貴志さんと朱里の様子を話したり、今は婚約指輪を決めている最中だという事を伝えた。

 やがてお茶とお茶菓子が出され、しばしたわいのない話をしたあと、若菜さんが切りだした。

「今日お越しいただいたのは、朱里と実父……、私の前の夫の事についてお話するべきと思ったからです」

 先日、若菜さんから連絡が入り【六月になる前に朱里と彼女の父についてお話したい事があります】とあり、重大な話だと思った俺は覚悟を決めて今日上村家を訪れた。

「六月に何かあったのですか?」

 尋ねると、若菜さんは視線を落として言う。

「前の夫……、今野澄哉すみやは六月十五日、梅雨のさなかに当時暮らしていた賃貸マンションのベランダで、首を吊って亡くなりました」

 それを聞き、腹に重たい一撃を食らったような感覚に陥った。

 同時に、中学生頃の朱里が、なぜあそこまで父親の死に動揺していたのかも理解する。
しおりを挟む
感想 2,457

あなたにおすすめの小説

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

リリー・フラレンシア男爵令嬢について

碧井 汐桜香
恋愛
王太子と出会ったピンク髪の男爵令嬢のお話

完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。

音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。 見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。 だが、それではいけないと奮闘するのだが……

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末

黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。 ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※いずれ他サイトにも転載予定。 ※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

処理中です...