【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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不穏 編

責任

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「大丈夫。涼が保護した。今は病院に向かってるはずだ。気絶していたが、命に別状はないし基本的に元気らしい」

「良かった……」

 安堵のあまり脱力した私は、大きな溜め息をつく。

 建物の外に出ると、思っていた以上のパトカーが停まっていた。

 そんな光景を見ると他人事に思えてしまうけれど、私はこの騒ぎの当事者なのだ。

 集まってきた野次馬が私たちにスマホを向けてきたので、尊さんは「顔を伏せて」と言うと、私を庇うようにコートを広げ、足早に車に向かう。

「はぁ……」

 助手席に落ち着くと、尊さんは「お疲れさん」と言って私の肩を叩く。

「抱き締めたいけど、先にここを離れる」

「はい」

 そのあと、尊さんは車を走らせ始めた。どうやら病院に向かっているようだ。

 あまりにバタバタと事が運んだのでいまだに実感がないけど、頬の痛みが夢ではない事を知らしめている。

「……物、食えそうか?」

 尊さんに尋ねられ、私は舌で口内を探る。

「口の中は切っていないみたいで、多分外側の問題だと思います。噛んだら頬も動くから、ちょっと痛むかもしれませんが」

「……朱里から食う事を取り上げたら、ショボショボのショボリンになるもんな」

「もお! なんですかそれ。アカリンが原型を留めてないじゃないですか」

 私は怒ったふりをし、ペチンと尊さんの二の腕を叩いてから笑った。

 多少無理をしてでもいつもの雰囲気になれたからか、少し気持ちが楽になった。

「……助けてくれてありがとうございます」

 しばらく沈黙が降りたあと、私は尊さんにお礼を言う。

「縛られてたからよく見えなかったですけど、強いんですね。昭人に回し蹴りをしたのはバッチリ見えました」

 彼みたいにハイクラスの環境に身を置く人は、喧嘩とは縁遠いと思っていた。

 でも悪党をあっという間にのしてしまった尊さんは、いよいよ欠点のない人なのでは……と感じ初めている。

 私は褒めたつもりだったけど、尊さんはしばらく返答に迷うように黙っていた。

 やがて彼は小さく溜め息をついてから言う。

「……朱里を攫われた時点で俺の負けだ。どんだけセキュリティの強いマンションに住んでいようが、外でやられたらおしまいだ」

 そう言われ、私は自分があっさり罠に嵌まった事を猛省し、「すみません」と謝る。

「違う。朱里を責めたいわけじゃない。不意を突かれた中村さんのせいでもない。……俺が無理に田村を煽ったから、結局こうなってしまったんだ」

 彼が自分を責め始めたので、私は強い口調で否定した。

「違います。昭人があんな蛮行に及んだのは、昭人自身の問題です。彼が仕事を辞めなければならなくなったのは、不幸な事だと思います。でも昭人は多分私と付き合っていた頃から、会社の女性複数人と関係していました。相良加代さんは不倫を暴露され、昭人から婚約破棄された事を恨んで会社の人に暴露した。でも結局は二人の問題ですし、昭人の下半身が緩くなかったら仕事を辞めなくても済んだかもしれません」

 そこまで言った時、グッと罪悪感がこみ上げた。

「……私が昭人の誘いに応えて、ちゃんとセックスできていたなら、彼は他の人を抱こうと思わなかったかもしれません。……でも、私が『悪い』と思うのも多分違う。だって尊さんはエッチを断っても不機嫌にならないし、浮気なんてしない。そもそも、尊さんとのエッチはとても気持ちいいから、またしたいと思えます。……だから結局は昭人の問題なんですよ」

 自分と尊さんを励ますためとはいえ、すべてを「昭人のせい」と言い続け、良心が痛む。

 客観的に見て、今回の出来事は昭人の逆恨み、ストーカー行為が原因で、多分私たちに落ち度はない。

 そうであっても、何かの責任を他人になすりつける言葉は、口にしていて気分のいいものじゃない。

 でも、尊さんが自分を責めるのは絶対に違うと思ったので、今はこう言った。

「……そうだな。……でも、守れなくてごめん」

 尊さんはハンドルを握ったまま、静かに謝った。

 多分、私がどれだけ励ましても、尊さんは責任を感じてしまうんだろう。

 それに対し、「私こそホイホイと罠に掛かってごめんなさい」と謝り続けたら、いつまでも終わらない。

 だから無理に彼の気持ちを変えようとせず、代わりに話題を変えた。

「変に焦ってストレス抱えたら、お腹空いちゃった。家に帰ったら時間を気にしないでチートタイム作ろっと」

「ははっ、そうしたほうがいい。俺も付き合うよ」

「なんか甘い物あったっけ」

 言いながら時計を確認すると、二十二時半過ぎだ。

 マンションから出たのが二十一時過ぎだったから、誘拐にしては異例のスピード解決だ。

「恵にメッセージしたいところだけど、スマホはここにあるもんな」

 溜め息をつくと、尊さんが言った。

「涼に連絡したら?」

「あっ、そうだ!」

 ポンと手を打った私は、涼さんに向けてメッセージを打ち始めた。
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