【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
512 / 778
四人でのお泊まり会 編

長い一日の終わり

しおりを挟む
 やがて恵は電話を終え、こちらに戻りつつもブスッとした顔で涼さんを睨む。

「母がものすっごい期待してるんですけど……」

「期待されたら応えたくなるな」

「もおおお……」

 恵はソファにボスッと倒れ込み、ジタバタする。

 でも、ここで「やめてください」と言わないのは、成長した証だ。

「……ん、……ふぁあ……」

 私は眠気を覚え、後ろを向いて欠伸をする。

 それを見た尊さんは、ポンと背中を叩いてきた。

「そろそろ寝ようか。中村さんのご家族に引っ越しの話をしたし、明日は業者さんに動いてもらって、荷物がこっちに運ばれてきたら、自分の部屋に片づける……でOK?」

 最後に涼さんに向かって指さし確認すると、彼は「OK」と頷く。

 それから彼は私を見て微笑んだ。

「近いうちに吉祥寺のお宅にお邪魔して、事情を説明しよう。これだけの事があったのに、報告せず『何もなかったです』はまかり通らないから」

 家族に報告すると聞き、私はハッと息を呑む。

 目の前で涼さんが佳苗さんに報告していたのに、自分には関係ないと思い込んでいた。

「……そうですね」

「俺も、守り切れなかった事をきちんと詫びたいし」

「そんな! 尊さんは……」

 否定しようとしたけれど、彼の痛みを含んだ笑みを見て言葉を失う。

(これから結婚しようとしているのに、『大丈夫』で済ませたら駄目だよね。何も言わなかったら尊さんへの信頼問題に関わる)

「……分かりました」

 頷くと、尊さんは「ん」と頭をポンポンしてくる。

「気まずいだろうけど、側にいるから」

「……はい」

 その言葉一つで、フワッと気持ちが軽くなった。

 今まで両親には大切な事をあまり言えずにいた。

 学生時代は父を喪って不安な気持ち、母子家庭で母が不在で寂しい気持ちを押し込み、母が再婚したあとも亮平や美奈歩への気持ちを打ち明けられなかった。

 すべて、自分の我が儘で母を困らせたくないという気持ちからだ。

 けれどこれからは尊さんが隣にいてくれるから、なかなか言い出せない事があっても、勇気をもらえる。

 それを察してか、恵がポンと私の背中を叩いてニッと笑った。

「寝よ! 今日は疲れすぎた!」

「うん」

 お城みたいな豪邸で、大好きな尊さんと、恵と、涼さんと一緒にいる。

 こんなに守られた場所はないし、安心できる所はない。

 私のお城は三田のあのマンションだけれど、今日はここでゆっくり休もう。

「おやすみなさい」

 ペコリと涼さんに頭を下げると、彼は「おやすみ」と微笑み書斎に向かう。

 私と恵、尊さんは廊下を進み、途中で尊さんに「おやすみなさい」を言って、恵の部屋に向かった。

「この家の中でも歩数を稼げそうだね」

「あはは! 確かに」

 部屋に入ると、恵のベッドの横には敷き布団がセットされてあった。

 しかも旅館みたいにピシッとしている。さすが涼さんクオリティ。

 歯磨きはお風呂上がりにしたので、私たちはそれぞれ布団に潜り込み、恵がおずおずと言う。

「……フェ、フェリシア。……で、電気を……けし……」

《すみません。何と言っているのか分かりません》

 不慣れな恵が不明瞭に言うものだから、フェリシアが言葉を理解しなかったらしい。

 私は布団の中で声もなく笑い、恵は「もぉ……。手動のほうがいいじゃん」と真っ赤になってうなっている。

「恵、ワンモア!」

「んンっ! フェリシア、電気を消して」

《分かりました》

 今度はパッと部屋のライトが消え、私は恵に「良かったね」と笑い混じりに言う。

「……これ、結構心が折れそうだわ」

「分かる。私も最初そうだった」

 そのあと、どちらからともなく溜め息をついた。

「疲れたね」

「うん。なんか、一週間分の疲れがドドッときた感じ」

「事情聴取とか、めんどくせー」

 恵が溜め息をつく。

「私たちは被害者なわけだし、きっと事情聴取が終わったらもうそんなに関わらずに済むんじゃないかな」

 今頃、昭人の家族にも連絡がいって、田村家は大騒ぎになっているだろう。

 彼のご両親には会った事があるから、なんとも気持ちが暗くなる。

(でも、もう一年前に縁が切れた人なんだし、これで終わらせないと)

 私は自分に言い聞かせ、目を閉じる。
しおりを挟む
感想 2,452

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末

黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。 ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※いずれ他サイトにも転載予定。 ※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。

完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。

音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。 見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。 だが、それではいけないと奮闘するのだが……

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

リリー・フラレンシア男爵令嬢について

碧井 汐桜香
恋愛
王太子と出会ったピンク髪の男爵令嬢のお話

処理中です...