【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
559 / 790
窮猫、犬に甘噛みされる 編

想像してたよりずっと残念な人

しおりを挟む
「でも親が言ったように、いつも穏やかに過ごしていたら、人と衝突しなくなった。勿論、僻む人はいたけど、悩んでネットを調べたり、親に相談したら『どの年代、どんな職業、どんな立場であっても、人から嫉妬心を切り離す事はできない』と言われたから、『そういうものだ』って言い聞かせるようになったかな」

 涼さんでも嫉妬される事を気にしていた時期があったのは、ちょっと意外だ。

「祖父や父は経営者なのもあり、金言を沢山教えてくれた。子供の頃は何を言っているのか理解しなかったけど、成長するにつれて『こういう事だったのか』と実感するようになった。親の教えの通りに……って言ったら、癪だと思う気持ちがあるのは確かだけど、俺より人生の酸いも甘いも噛み分けた大人が、自分も似たような体験をして後悔したから、同じ轍を踏まないように忠告してくれてるんだよね。……『親の事を素直にハイハイ聞き入れる奴はファザコン、マザコン』と馬鹿にしていた節はあったけど、理解したあとは『うまく利用していこう』って気持ちを切り替えられたかな」

 彼の話を聞き、私は小さく息を吐く。

「……私、いまだに親に反抗している面があるので、涼さんの話を聞いていると自分が子供っぽく思えます」

 すると、涼さんはクスッと笑う。

「誰だって親の前では子供になる。そして親って生き物は口うるさいものだ。説教されて嬉しいと思う子供はいないだろうし、色々言われて『面倒臭い』と思うのは自然な事だと思うよ」

 それに私はコクンと頷いた。

「ただ、俺は特殊な家に生まれたから、馬鹿な真似をすれば家庭だけの問題じゃなく、会社が関わったり、少しでも心配をかけたら警察沙汰にもなる。連絡なしに二日外泊しただけで、警察が俺を探していた事もあったよ……」

 遠い目になった涼さんを見て、私は「あぁ……」とうめく。

「そういう失敗を重ねて、今に至る。……まぁ、一般家庭の生まれだったら、怒られてもなお反抗したかもしれないけど、警察まで出てきたら早々に降参するしかなかったかな。……祖父が警察のトップと親友だった関係もあって、父も俺も色々お世話になってるからね……」

 また涼さんは遠い目になり、私を見て「しー」と唇の前に人差し指を立てる。

「あ、『お世話になった』って、悪い事をもみ消したとかはないから安心して」

「よ、良かったです」

「そういう感じで、俺は精神的に成熟するのが同年代の子より早かったかな。感情のままに行動したり、瞬間的な言葉がどんな結末を生むか分かったし、面倒な事は避けて生きるようになった。周囲から嫌われても、俺に利用価値があると思う人は離れないだろうし、純粋に好意を持ってくれている人も離れない。……なら、こちらから関わりたくない人から離れて嫌われたなら、それは別れるべくして別れたと割り切れたし、どんどん付き合う人を選ぶようになっていった」

 そこで彼は私の頭を撫で、サラリと毛先を弄ぶ。

「友人は落ち着いた性格の人ばかりで、嫌な事を言う人はいない。〝三日月涼〟と関わりを持ちたいと望む人は、元々はそうでなくても、俺が望む友達像になろうと努力してくれた。結果的にその人のレベルアップにも繋がったし、そうやって変わる事のできる人がいると知れた俺も嬉しかったし、Win-Winだ。……そんな中で、恵ちゃんはまた変わったタイプの子だった」

 話が私に戻り、少し緊張した私は不安げに彼を見つめる。

「媚びないし、とても自然体で自由。悪く言えば俗っぽくて普通なのに、どこか一本通った芯があって、見ていて惹きつけられる。……それに、俺を嫌がる女の子って本当に珍しくてね。……恵ちゃんの塩対応は、俺にとってご褒美みたいなものだし、君まで俺の周りにいる女性みたいに、顔色を窺ってほしくないんだ」

 涼さんは甘やかな目で私を見つめ、もう一度やわらかなキスをする。

「……室内飼いの猫みたいな感じかな。俺の腕の中でなら、どれだけ暴れてもいい。引っ掻いてもいいし、その辺の物をひっくり返して『あーあ』って片づけさせてもいい。気の向いた時だけ撫でさせてくれて、あとは手の届かない高い場所で毛繕いしていてもいい。……でも、外に出て他の男に撫でられたら駄目だよ?」

 目の奥に微かな嫉妬を交えて囁かれ、私はゾクッとする。

「最初の話に戻るけど、こんなに可愛くて綺麗なんだから、絶対に他の男にも見られてる。……それを想像しただけで、切り落としたくなるんだけどね……」

 ふ……と、遠くを見て呟いた涼さんが……、…………怖い…………。

 彼は私に視線を戻すと、息を吐いて笑った。

「俺がこんな考えを持つようになったのも、恵ちゃんと出会ってからだよ? ……責任持ってね? 大切にするし、嫌な事があったら絶対にしない。いい彼氏でいられるよう努めるから、……俺を捨てないで」

「…………重い」

 思わず素直な感想を漏らすと、彼は「やっぱり重たいかー……」と溜め息をつき、またドサッと覆い被さってきた。

 そのあともう一度溜め息をついて顔を上げると、私の横に寝転んでムニムニと頬を摘まんでくる。

「だって恵ちゃんは可愛い。可愛すぎる! こんな子見た事ないんだよ。今だってドキドキしてるし、何を話したらいいか分からなくて、これで合ってるのか分からなくなる」

 涼さんはせわしなく言ったあと、ギューッと私を抱き締めてきた。

「……なんか、想像してたよりずっと残念な人で、逆に人間味があっていいのかも」

 ボソッと呟くと、涼さんは愛しさ一杯に微笑んだ。
しおりを挟む
感想 2,510

あなたにおすすめの小説

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...