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広島へ 編
敵わないかもしれない
「……俺の知ってる宮本は以前に話した通りだけど、十年も経てば人って変わるからな。二十二歳当時は本当に若造で、俺も世間を知らないただのガキだった。無茶な働き方をして、朝まで飲んで……。宮本も同じような感じだったけど、今もそのままだったらお互いヤバイだろ」
「まぁ、確かに」
私は二十二歳っていったら四年前だけど、尊さんにとっては十年も前なんだ。
そう思うと、改めて自分と彼の年齢差を感じた。
「宮本は結婚して母親になったし、俺以上に変わってる気がする。もともと良識的な人だったし、朱里が不安がる事は言わないし、しないと思うぜ」
「うん、そうですね」
返事をしながら、私はモヤモヤする自分の心をグッと抑える。
(尊さんが私より先に宮本さんに出会ったのは仕方のない事。付き合っていたから、彼女をよく知っているのも当たり前。……そんなどうしようもない事で悩むなんてどうかしてる)
割り切ったつもりでいて、私の胸の奥には〝尊さんの元カノ〟という存在が絡み、深く根を張っていた。
宮本さんは悪い人じゃないと分かっている。
むしろ怜香さんの被害に遭った可哀想な人で、同情すべき人だ。
尊さんが言う通り、彼女は竹を割ったような性格で、尊さんと関わったから酷い目に遭ったと知っても決して彼を攻めなかった、本当に心の清らかな人だ。
だからこそ、「敵わないのでは」と思ってしまう自分がいる。
尊さんは私を裏切らない。結婚しようって言ってくれているのに、元カノに再会したからといって、私を捨てる人じゃない。
宮本さんも結婚して旦那さんとお子さんがいるし、やっと掴んだ平穏な幸せを手放す愚かな人じゃない。
なのに――。
尊さんが宮本さんを信頼し、「あいつはいい奴だ」と褒めるほどに、私はお腹の底をギュッと掴まれたような心地になる。
だからといって、尊さんに宮本さんの悪口を言ってほしい訳でもない。
そんなの、私が好きになった尊さんのする事じゃない。
でも――。
「朱里」
名前を呼ばれ、私はハッと我に返る。
思考に没頭するあまり、私は途中で歩みを止めてしまっていたみたいだ。
「……悪かった。朱里の前であまり宮本の話をすべきじゃなかったな」
尊さんは申し訳なさそうな顔をしていて、私は彼にそんな表情をさせた自分が嫌で堪らず、泣いてしまいそうになる。
「ううん。……違うの」
「……いや。恋人の目の前で元カノの話をした俺が馬鹿だった」
「違うの。私、尊さんにはちゃんと十年前の出来事に向き合って、乗り越えてほしい」
「……ああ」
尊さんは切なげに微笑み、私を抱き寄せた。
通行人が好奇の目で見ようが彼は構わず、むしろその視線から私を守るようにギュッと抱き締める。
「今の俺は朱里一筋だ。お前しか見てないし、朱里しかほしくない。こんな言葉しか言えない自分が不甲斐ないが、信じてほしい」
「……信じてます」
今まで尊さんが私を裏切った事などない。
彼は常に全力で私を守り、支え、入社して〝速水部長〟として会う前からも私を見守ってくれていた。
私はこんなに大きな愛で包み込んでくれる人を、他に知らない。
――だから大丈夫。
自分に言い聞かせるも、宮本さんという大きな存在を前にして、私の心はグラグラと揺れ続けていた。
尊さんは色んな事に対して絶望し、モテる要素は沢山あるのに、誰にも本気にならなかった。
そんな彼が唯一心を許した女性というだけで、ただの元カノ以上にハードルが上がる。
加えて絶対に美人だし、性格もいいし、嫌な所のない人だ。
これで少しでも分かりやすい短所のある人なら、多少安心できるかもしれないけど、尊さんが好きになった女性なら、ほぼ完璧に近いだろう。
(短所があったなら『見下せる』と思うなんて……)
自分の考えの浅ましさに落ち込んだ私は、涙を流しズッと洟を啜る。
「泣くなよ……」
尊さんは困ったように言い、私の頭を撫でる。
そのあと彼は溜め息をつき、「しゃーねぇな」と呟いてポケットからスマホを出した。
尊さんはトントンと液晶画面をタップしたあと、「怒るなよ」と前置きして画面を見せてきた。
「まぁ、確かに」
私は二十二歳っていったら四年前だけど、尊さんにとっては十年も前なんだ。
そう思うと、改めて自分と彼の年齢差を感じた。
「宮本は結婚して母親になったし、俺以上に変わってる気がする。もともと良識的な人だったし、朱里が不安がる事は言わないし、しないと思うぜ」
「うん、そうですね」
返事をしながら、私はモヤモヤする自分の心をグッと抑える。
(尊さんが私より先に宮本さんに出会ったのは仕方のない事。付き合っていたから、彼女をよく知っているのも当たり前。……そんなどうしようもない事で悩むなんてどうかしてる)
割り切ったつもりでいて、私の胸の奥には〝尊さんの元カノ〟という存在が絡み、深く根を張っていた。
宮本さんは悪い人じゃないと分かっている。
むしろ怜香さんの被害に遭った可哀想な人で、同情すべき人だ。
尊さんが言う通り、彼女は竹を割ったような性格で、尊さんと関わったから酷い目に遭ったと知っても決して彼を攻めなかった、本当に心の清らかな人だ。
だからこそ、「敵わないのでは」と思ってしまう自分がいる。
尊さんは私を裏切らない。結婚しようって言ってくれているのに、元カノに再会したからといって、私を捨てる人じゃない。
宮本さんも結婚して旦那さんとお子さんがいるし、やっと掴んだ平穏な幸せを手放す愚かな人じゃない。
なのに――。
尊さんが宮本さんを信頼し、「あいつはいい奴だ」と褒めるほどに、私はお腹の底をギュッと掴まれたような心地になる。
だからといって、尊さんに宮本さんの悪口を言ってほしい訳でもない。
そんなの、私が好きになった尊さんのする事じゃない。
でも――。
「朱里」
名前を呼ばれ、私はハッと我に返る。
思考に没頭するあまり、私は途中で歩みを止めてしまっていたみたいだ。
「……悪かった。朱里の前であまり宮本の話をすべきじゃなかったな」
尊さんは申し訳なさそうな顔をしていて、私は彼にそんな表情をさせた自分が嫌で堪らず、泣いてしまいそうになる。
「ううん。……違うの」
「……いや。恋人の目の前で元カノの話をした俺が馬鹿だった」
「違うの。私、尊さんにはちゃんと十年前の出来事に向き合って、乗り越えてほしい」
「……ああ」
尊さんは切なげに微笑み、私を抱き寄せた。
通行人が好奇の目で見ようが彼は構わず、むしろその視線から私を守るようにギュッと抱き締める。
「今の俺は朱里一筋だ。お前しか見てないし、朱里しかほしくない。こんな言葉しか言えない自分が不甲斐ないが、信じてほしい」
「……信じてます」
今まで尊さんが私を裏切った事などない。
彼は常に全力で私を守り、支え、入社して〝速水部長〟として会う前からも私を見守ってくれていた。
私はこんなに大きな愛で包み込んでくれる人を、他に知らない。
――だから大丈夫。
自分に言い聞かせるも、宮本さんという大きな存在を前にして、私の心はグラグラと揺れ続けていた。
尊さんは色んな事に対して絶望し、モテる要素は沢山あるのに、誰にも本気にならなかった。
そんな彼が唯一心を許した女性というだけで、ただの元カノ以上にハードルが上がる。
加えて絶対に美人だし、性格もいいし、嫌な所のない人だ。
これで少しでも分かりやすい短所のある人なら、多少安心できるかもしれないけど、尊さんが好きになった女性なら、ほぼ完璧に近いだろう。
(短所があったなら『見下せる』と思うなんて……)
自分の考えの浅ましさに落ち込んだ私は、涙を流しズッと洟を啜る。
「泣くなよ……」
尊さんは困ったように言い、私の頭を撫でる。
そのあと彼は溜め息をつき、「しゃーねぇな」と呟いてポケットからスマホを出した。
尊さんはトントンと液晶画面をタップしたあと、「怒るなよ」と前置きして画面を見せてきた。
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