【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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ケリをつける 編

処分を終えて

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 そのあと、三人はタイミングを計るように顔を見合わせ、頭を下げた。

「申し訳ございませんでした」

 その様子を見ても、私の胸はまったく晴れない。

 睨まれた直後だからだというのもあるし、改心しての謝罪と、仕方なく謝罪するのとでは、された側だって気分が違う。

 でもこれ以上、できる事はない。

 私たちがどれぐらい「反省して」と言っても、彼女たちは不当な目に遭った自分たちのほうが被害者だと思い、私に対して悪い事をしたなんて思わないだろう。

「どうして自分が反省しないとならないの?」と思っている人相手に、別の正義を理解させる事は不可能だ。

 考え方そのものが違うから、第三者が「君たちは非常識な事をした」と言っても、彼女たちは自分たちの行動には正義があり、まっとうな理由があると思い込んでいる。

 まったく交わらない平行線の状態で議論しあっても仕方ないし、いつか尊さんが言っていたように、「他人を変えようと思うのは無理」なんだろう。

 一応の謝罪が終わったあと、尊さんが尋ねてくる。

「上村さんから何かあるか?」

 尋ねられ、私は「いいえ」と首を横に振った。

 今考えていた事を口にしたとしても、余計に彼女たちを煽るだけだし、尊さんたちもきっと私と同じ事を思っている。

 すぐに改善できない事を求めても無駄だし、懲戒解雇になるなら今後私たちの人生に関わってくる事はない。

「どこかでお幸せに」と思って気持ちを切り替えるしかないんだろう。

 だから、この場で言う事は本当にない。

 最後に風磨さんが社長として場をまとめた。

「君たちは過去に上村さんに『死ねばいいのに』とも言ったし、根拠のない噂を流して彼女の社会的信用を落とした。加えて掲示板の情報開示請求等をして、書き込みをしたのが君たちだと判明したなら、罪を犯したと断定できる。……今まで何度も指導を行い、反省文を書く事を繰り返していたのに、改善できないなら会社としても解雇せざるを得なくなる。……だが自主退職してくれるなら〝解雇された〟という履歴書の傷はつかなくなる。……どうだ?」

 彼にそう言われ、三人は渋々と頷く。

「社会人になれば、自分の言動が自分の人生を作る。それを忘れればいつか自分の行いが仇になるだろう。その時になって傷つけた人に助けを求めても、誰も手を差し伸べてくれない。今回の事を君たちがどう捉えるかは自由だが、なぜこうなったのか胸に手を当てて考えてみなさい」

 社長自ら言われ、三人は項垂れる。

「情報開示請求の結果が出たあと、こちらとしては正式に解雇に向けて動くつもりだが、その前に君たちから自主退職したいと願い出るなら受け入れる。……話は以上だ。退室してどうぞ」

 言われたあと、三人は力なく肩を落とし、足を引きずるように会議室から出て行った。

「はぁ……」

 私は溜め息をつき、椅子の背もたれに身を預ける。

「上村さん、お疲れ様」

 尊さんに声を掛けられ、私は小さく会釈をする。

田辺たなべ部長、あなたは自分の部署の社員を信じ、守ろうとしたのでしょうけれど、結果的にこうなってしまいました。以前から再三似たような事例を聞いて注意したにも関わらず、同じ行動をとるなら厳重注意をし、最悪の出来事が起こるのを防ぐべきでした。『分かってくれるはず』が通じない人もいるんです。……今後は二度と同じ事がないように注意してください」

 風磨さんに言われ、総務部部長は「申し訳ございませんでした」と頭を下げた。

 それで話し合いは終わりになり、総務部の部長、課長が出て行ったあと、エミリさんが声を掛けてきた。

「上村さん、お疲れ様」

「ありがとうございます」

 室内には私と尊さん、風磨さん、エミリさんだけになり、なんだかホッとする。

「私も副社長秘書になった時、色々言われたから、気持ちが分かるわ~。ホント、いつでもどこでも、ああいう手合いはいるのよね。ま、気にするだけこっちの人生が減るから、処分が決まったあとは楽しい事を考えたほうがいいわよ。『嫉妬されるぐらいのいい女』って思っておけばOK!」

「はい!」

 私は今晩の焼き肉を思い出し、いい笑顔になる。

 尊さんはそんな私を見て、「何を考えているのか分かるぞ……」という笑みを浮かべていた。

「春日さんみたいに重役になったら、こういうやっかみとは別の世界が広がってるでしょうね。だから彼女がジムでファイターになるのが分かるわ……。一回付き合いで彼女とジムに行ったけど、まぁ凄い。燃える闘魂春日だったわ……。サンドバッグを蹴る脚が鞭みたいにしなってね、すっごい音が立つのよ。それで腹筋が凄い。スタイルいいと思ってたけど、細身で引き締まってて、女戦士みたいな体つきなのよね」

「女戦士……」

 私はブランド服に身を包んだ華やかな春日さんしか知らないので、その単語が似合う彼女を想像できず、うーん……と悩む。

「……色々、溜まってるんでしょうね……」

「ねぇ……」

 私とエミリさんが生ぬるく笑い合ったあと、風磨さんが咳払いをした。
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