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自立するための準備
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母親は異常なほど感情に起伏がある人で、あんなモノに俺の春佳が虐待されているのを見るのは忍びない。
けれど春佳はまだ子供で、俺が何を言っても『両親は自分を愛している』と信じていた。
『俺は高校を卒業したら家を出ていくけど、春佳も一緒に来ないか?』
何回か、親のいない時に尋ねた事があったけれど、妹の答えはいつも同じだった。
『お兄ちゃんの事は好きだけど、両親がいるのに子供だけで生活していく必要があるか分からない』
彼女の言う事は筋が通っている。世間的に考えれば春佳の言う事のほうが合っているのだろう。
だが俺には俺の真実がある。
そこで本当の事を教えられれば良かったのだが、春佳にまで汚物扱いされるのは耐えられないし、両親を純粋に愛している彼女が俺の主張を受け入れるとは思えなかった。
春佳は母親に何をされても、あのどうしようもない女を愛していた。
母親が酒を飲んでだらしなく寝ていれば、春佳は静かに酒瓶や空き缶を片づける。
怒鳴られて『お前なんて産まなければ良かった!』と言われても、彼女は悲しげに黙っているだけだ。
春佳は自分の親が毒親だと知らず、『すべて自分が悪いから』と思い込んでいる。
いわば、洗脳だ。
どれだけ傷つけられても、打たれても、春佳は敬虔な信者のように両親を信じ、崇めている。
その信仰から外れたところにいる俺が、幾ら真実を伝えたとしても彼女の耳には届かないだろう。
だから春佳がもう少し成長して世間を知るまで、実家に住まわせる事もやむなしとした。
俺は財力をつけると共にキックボクシングを習い始め、父親にフィジカルで抵抗できるよう努力していった。
今までの自分が扶養される〝弱者〟なら、自ら〝強者〟となって抗うしかない。
高校二、三年生になると、毎日が父親との格闘の連続だった。
こちらは就職を見据えて難関大学に合格しなければならないのに、いつまでもショタコンジジイに構っていられない。
殴り、蹴って抵抗すれば『親に向かってなんだその態度は!』と怒鳴られ、殴られた。
――じゃあ、お前が今までやっていた事は〝親〟らしい事なのかよ!
――俺が今までどれだけ、周囲と〝違う〟事に悩み続けてきたか、お前には分からないだろう!
自立心を持ち、しっかりとした自我を持った当時の俺は、怒りに荒れ狂っていた。
家にいる時間を減らしたいから、学校が終わったあとは塾や図書館、ファミレスで猛勉強していた。
相変わらず女子からは頻繁に告白されていたが、付き合うつもりはまったくなかった。
当時の俺の目標は『家から出て人間らしく生きる』事なのに、優しい両親のもとで育ち、ほんの些細な事をさも重大な事のように捉える彼女たちと、価値観が合うと思わなかった。
親に加害されず、学費もスマホ代も払ってもらって小遣いももらっている身で、門限に間に合わなかっただの、スマホの使用時間を制限されただの、実にくだらない事で『親ムカつく。死ねばいいのに』と言っている。
片腹痛いぐらいのガキを信頼するなんて不可能だ。
――どいつもこいつもくだらない。
そう思ううちに、俺は自分こそが世界で一番不幸な存在だと思うようになり、友人の悩み事を聞いて『それで?』と内心でせせら笑う性悪になっていた。
こんな俺の本性を知って愛する人などいないだろうし、俺だって誰の事も受け入れるつもりはない。
自分の体に、あの変態の血が流れていると思うだけでおぞましいし、遺伝子を後世に残したくもない。
だから俺は絶対に女性と付き合わないし、結婚もしない。
固く決意した俺は受験勉強に身を入れ、無事に目標大学に合格した時は、喜びのあまり泣いてしまった。
――これでやっと、〝人〟になれる!
――あの家で飼われていた豚は、〝外〟の世界に出て自分の人生を歩んでいくんだ!
解放感に浸って家を出る俺は、春佳の寂しがる顔を見ても『もうここには二度と戻らない』としか思えずにいた。
だが一人暮らしをするにはハードルがあった。
けれど春佳はまだ子供で、俺が何を言っても『両親は自分を愛している』と信じていた。
『俺は高校を卒業したら家を出ていくけど、春佳も一緒に来ないか?』
何回か、親のいない時に尋ねた事があったけれど、妹の答えはいつも同じだった。
『お兄ちゃんの事は好きだけど、両親がいるのに子供だけで生活していく必要があるか分からない』
彼女の言う事は筋が通っている。世間的に考えれば春佳の言う事のほうが合っているのだろう。
だが俺には俺の真実がある。
そこで本当の事を教えられれば良かったのだが、春佳にまで汚物扱いされるのは耐えられないし、両親を純粋に愛している彼女が俺の主張を受け入れるとは思えなかった。
春佳は母親に何をされても、あのどうしようもない女を愛していた。
母親が酒を飲んでだらしなく寝ていれば、春佳は静かに酒瓶や空き缶を片づける。
怒鳴られて『お前なんて産まなければ良かった!』と言われても、彼女は悲しげに黙っているだけだ。
春佳は自分の親が毒親だと知らず、『すべて自分が悪いから』と思い込んでいる。
いわば、洗脳だ。
どれだけ傷つけられても、打たれても、春佳は敬虔な信者のように両親を信じ、崇めている。
その信仰から外れたところにいる俺が、幾ら真実を伝えたとしても彼女の耳には届かないだろう。
だから春佳がもう少し成長して世間を知るまで、実家に住まわせる事もやむなしとした。
俺は財力をつけると共にキックボクシングを習い始め、父親にフィジカルで抵抗できるよう努力していった。
今までの自分が扶養される〝弱者〟なら、自ら〝強者〟となって抗うしかない。
高校二、三年生になると、毎日が父親との格闘の連続だった。
こちらは就職を見据えて難関大学に合格しなければならないのに、いつまでもショタコンジジイに構っていられない。
殴り、蹴って抵抗すれば『親に向かってなんだその態度は!』と怒鳴られ、殴られた。
――じゃあ、お前が今までやっていた事は〝親〟らしい事なのかよ!
――俺が今までどれだけ、周囲と〝違う〟事に悩み続けてきたか、お前には分からないだろう!
自立心を持ち、しっかりとした自我を持った当時の俺は、怒りに荒れ狂っていた。
家にいる時間を減らしたいから、学校が終わったあとは塾や図書館、ファミレスで猛勉強していた。
相変わらず女子からは頻繁に告白されていたが、付き合うつもりはまったくなかった。
当時の俺の目標は『家から出て人間らしく生きる』事なのに、優しい両親のもとで育ち、ほんの些細な事をさも重大な事のように捉える彼女たちと、価値観が合うと思わなかった。
親に加害されず、学費もスマホ代も払ってもらって小遣いももらっている身で、門限に間に合わなかっただの、スマホの使用時間を制限されただの、実にくだらない事で『親ムカつく。死ねばいいのに』と言っている。
片腹痛いぐらいのガキを信頼するなんて不可能だ。
――どいつもこいつもくだらない。
そう思ううちに、俺は自分こそが世界で一番不幸な存在だと思うようになり、友人の悩み事を聞いて『それで?』と内心でせせら笑う性悪になっていた。
こんな俺の本性を知って愛する人などいないだろうし、俺だって誰の事も受け入れるつもりはない。
自分の体に、あの変態の血が流れていると思うだけでおぞましいし、遺伝子を後世に残したくもない。
だから俺は絶対に女性と付き合わないし、結婚もしない。
固く決意した俺は受験勉強に身を入れ、無事に目標大学に合格した時は、喜びのあまり泣いてしまった。
――これでやっと、〝人〟になれる!
――あの家で飼われていた豚は、〝外〟の世界に出て自分の人生を歩んでいくんだ!
解放感に浸って家を出る俺は、春佳の寂しがる顔を見ても『もうここには二度と戻らない』としか思えずにいた。
だが一人暮らしをするにはハードルがあった。
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