【R-18】犬を拾ったら躾けられて飼われました

臣桜

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拾った彼VSイマカレ

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 準備をしてシャンと気持ちを入れ替えようにも、昨晩飲み過ぎて、沢山セックスして、体がだるい。

 それでもシャワーを浴びようと思って、ポチくんを振り向く。

「シャワーを浴びるけど、帰るなら帰っていいよ」

 私は床に落ちていたパンティを穿き、衣装ケースから被るだけのスウェットワンピースを出して着る。

「なんで? 俺が彼氏に喧嘩売ったんだから、俺が買わないと筋が通らないだろ」

 なのにカラリと言われ、何と答えたらいいか分からなくなる。

「……好きにして」

 溜め息混じりに言ったあと、私は着替えを持ってバスルームに向かった。

(……シャワー、入ったんだ)

 バスルームの電気をつけると、スクイージーで水気をとったものの、床が濡れているのが分かった。

「……まぁ、いいけど」

 呟いて私は服を脱ぎ、歯磨きをしてメイクを落としてから、バスルームに入った。





 ドライヤーで髪を乾かしてバスルームを出ると、服を着たポチくんがソファに座っていた。

「彼氏、どれぐらいで着く?」

「……そろそろかも。三十分ぐらいだから」

「ふーん。なんか飲んで待ってようか」

「そうだね」

 もう逆らう気力もなく、私は頷く。

 とりあえずお湯を沸かして、紅茶を淹れ始める。

「……ねぇ、本名は?」

 キッチン台に寄りかかり、私は彼にそもそもの質問をする。

「名前なんてどうでもいいじゃん」

「……でも〝ポチ〟なんてあからさまな偽名を名乗られたら、どう捉えたらいいか分からないよ」

「そりゃそーだけどさ。じゃあ、山田太郎とかにしておく?」

「もー……」

 答える気のない彼に、私は溜め息をつく。

「あんた、みゆきって言うんでしょ? トークルームで見た。何みゆき?」

「……自分は名乗らないのに……」

 文句を言っても、彼はケラケラと笑うだけだ。

 ……というか、どうせポストを見たらすぐバレるから仕方ない。

「……橋本美幸。美しい、幸せ」

 自己紹介しながら、皮肉だなぁ、と唇を歪める。

 母が亡くなってから、私の人生は人を支える事に徹底してきた。

 その中で、個人の幸せを感じた事はほぼないと思ったからだ。



『私がやらないと』



 その想いに駆られて家事をしたけれど、父と弟は家族だからか、あまり「ありがとう」と言わない人だった。

 勿論、お礼を言ってほしくてやった訳じゃない。

 私がやらないと家族が崩壊する気がしたから、〝私の役目〟と割り切って家事をしていた。

 お礼の言葉は、必ずしも言わなければならないものじゃない。

 でも、言わない事によって少しずつ相手の不満が増していく。

『ご飯作ったのに、美味しくなかったのかな』

『誕生日プレゼントあげたけど、嬉しいのか嬉しくないのか分からない。要らないならそのお金で自分の物を買いたかったな』

『私は家政婦なんだろうか』

 そういう思いがこみ上げてくる。

 会話だって、向こうから言葉を返してもらえないとつまらないし、空しくなる。
 私はずっと一人で空回り続け、誰にも反応をもらえない事に疲弊していた。

 ……だから、私が〝してあげる〟事で甘えてくる孝夫くんに、依存したのかもしれない。

「いいじゃん。美幸。いい名前だよ」

「……ありがとう」

 紅茶のティーバッグを二つ開け、マグカップを二つ用意する。

「昨日、どうしてあんな所にいたの?」

「どうしてだろ?」

 分かっていたけど、ポチくんはまともに答えてくれない。

「もー……」

 私は二度目の嘆息をする。

 マグカップにお湯を注いで三分待つ間、とうとう〝その時〟がきた。

 ピンポーンとチャイム音が鳴り、私は溜め息をついてインターフォンの液晶を見る。
 画面には孝夫くんが映っていた。

 私は無言でオートロックを開け、彼を中に入れる。

「はぁー……」

 そして盛大な溜め息をついた。

 小さな液晶越しに、彼が激怒しているのが分かるからだ。

「ま、心配するなって。俺が守るから」

 気軽に言うポチくんを、私は「どの口が言う」という目で睨んだ。






「お前、俺がいながら男とヤッたのかよ! 誰だよそいつ!」

 玄関のドアを開けるなり、そう怒鳴られた。

 私はもう弁解する元気もなく、彼の怒りが収まるまで怒鳴られる事にした。
 こうなった孝夫くんを止めるのは無理だと、経験上分かっている。

「おー……、予想以上のモラだな。返ってすげーわ。モラコンテストで上位狙えるんじゃね?」

 でもポチくんの失礼すぎる言葉に、さすがの孝夫くんも一瞬言葉を失った。

「何……、お前……」

 人は自分の常識を越える存在に会うと、一瞬固まってしまうのかもしれない。

 自分の頭の中に照らし合わせる〝サンプル〟がないから、どう判断したらいいか困ってしまうのだ。

『学校で習ってないから、分からない』という考え方に似ている。

 そして、孝夫くんのようなプライドの高い人は、分からない事を認めたくないから、自分の知っている一番近い答えで判断しようとする。

 戸惑ったのも一瞬の事で、孝夫くんはすぐ嘲った表情になった。

「ハッ、こんな金髪の頭悪そうなガキとよくヤッたもんだな。頭の中身が似た者同士だから、惹かれ合ったのか?」

 馬鹿にされたけれど、ポチくんは逆上せずニヤリと笑う。

「見栄を張るために、時計は十万ぐらい。でもシャツはヨレヨレでアイロンも掛けてない。人にやってもらわないと、自分ではできないのかな? 家ではママにやってもらってた?」

 揶揄され、孝夫くんは顔を赤くして怒る。

「安物のTシャツジーンズのお前に言われたくないね!」

「あれぇ? 外見で判断されたくないの?」

「それはお前だろう!」

「美幸には『外見がすべてだから、俺の隣にいる時は常に綺麗でいろ』なんて言ってたんだって? やだなぁ、モラって」

 そう言って、ポチくんはフゥーッと煙草の匂いがする息を吹きかけた。
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