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第二十四部・最後の清算 編
焼き肉、クレープ
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そのあと、恵比寿ガーデンプレイスタワーまで向かうと、ランチの時間だったので、少し奮発して焼き肉を食べる事にした。
「ここは俺が奢るから、好きに食べるといい」
「マジ?」
「マジだ」
マティアスに言われ、ちょっと申し訳なさを感じた香澄は首を横に振る。
「いざとなったらカードもありますし、大丈夫ですよ」
「いや、俺はランチコースだけだったら足りない自信があるし、どうせなら東京で暮らす記念にみんなで好きなだけ食べればいい。だから奢る」
何が「だから」なのか分からないが、香澄は困って親友を見る。
「本人がこう言うなら、いいと思うよ。……多分だけど、マティアスさんも同行してるのに、私たちが払う事になったら、あとから御劔さんが何か言いそう」
「あ、それはありそう……」
佑は「男は女性に奢るべき」という信条の持ち主ではないが、自分が金に困っていない限り、ご馳走する側に回るべきと考えている。
そして彼はマティアスの財力もよく分かっていて、働いているとはいえ香澄や麻衣に出させたと知ったら、絶対に彼に何か言うだろう。
「カイからは特に何も言われていないが、女性二人の胃の面倒ぐらい、見させてくれ。俺はそれ以上に食うが」
最後は少し自慢そうに言うマティアスを見て、香澄たちはクスクス笑う。
「じゃあ、ごちそうさまです」
少しお値段の張る焼き肉屋だが、美味しく食べる事を誓い、まずドリンクオーダーをする。
香澄はゆずサイダーにし、麻衣とマティアスはビールだ。
それからタン塩、壷漬けの肉、すだれ焼きにカルビ、ロース、ハラミにホルモン、豚トロ、海老に貝も、サラダにユッケを頼む。
香澄は大きな椎茸――どんこを見て目を輝かせ、それも頼んだ。
「うまーい!」
「他人のお金で食べる肉、うまー!」
香澄たちは肉を焼きつつ、白米と共にモリモリ食べていく。
「日本の焼き肉は美味いな」
マティアスは律儀に先にサラダを食べてから、肉を平らげていく。
酒が入った麻衣は饒舌になり、ビールを飲みきってお代わりを注文したあとに言った。
「本当に夢みたいだよね。香澄と東京でこうしてるなんて。しかもマティアスさんも一緒」
「だね~。東京で仲良くしてくれる人がいない……とは言わないけど、麻衣がいるのと、いないのとでは全然違う。……嬉しいなぁ」
そう言ったあと、二人は「かんぱーい」とグラスを合わせる。
たっぷりと上等な肉を食べたあと、仕上げに冷麺を食べ、マティアスに「ごちそうさまでした」を言って店を出る事となった。
そのあとは恵比寿駅から渋谷駅まで電車に乗り、渋谷観光をした。
「私もあまり、渋谷とか原宿、新宿には詳しくないんだよね……」
香澄は麻衣と一緒にスクランブル交差点を渡る人の量に驚きつつ言う。
「香澄って、本屋とか美術館とか、目的地を作ったらそれ以外はブラブラしないタイプだからじゃない?」
「かもね~。確実に札幌にいる時より歩いてるのに、今だ街歩きに慣れていない感じ。普段は佑さんと一緒に行動する事が多いから、車移動が多いっていうのもあるし」
「〝色々〟あって、あんまり一人で出歩くの、快く思ってなさそうだよね」
「うん……。過保護とは思うんだけど、〝色々〟な目に遭って心配させてしまった以上、何も言えなくて……」
ハチ公前で記念写真を撮った二人は、センター街や井の頭通りなど、聞いた事のある場所を通ってみる。
有名なファッションビルにも入ってみたが、何となく場違いな気がして、一通りフロアを見たあと、そそくさと出た。
そのあと原宿まで移動し、ベタ中のベタかもしれないが、一度は〝竹下通りのクレープ〟を食べてみたく、二人でチャレンジした。
香澄も今まで気にはしていたのだが、一人で来る勇気はなく、佑を連れてくる事もできない。
だから親友と二人で勇気を出し、あちこち行けるのはとても嬉しかった。
行列に並んでいる間、店のショーウィンドウにズラリとクレープの見本があり、二人でそれを見てキャッキャと喜ぶ。
さんざん悩んだ挙げ句、香澄はホットのカスタードチョコにバナナをトッピングし、麻衣はカスタードストロベリーチョコにした。
マティアスは興味津々でマルゲリータのクレープにし、「美味い」とサムズアップしていた。
「ここは俺が奢るから、好きに食べるといい」
「マジ?」
「マジだ」
マティアスに言われ、ちょっと申し訳なさを感じた香澄は首を横に振る。
「いざとなったらカードもありますし、大丈夫ですよ」
「いや、俺はランチコースだけだったら足りない自信があるし、どうせなら東京で暮らす記念にみんなで好きなだけ食べればいい。だから奢る」
何が「だから」なのか分からないが、香澄は困って親友を見る。
「本人がこう言うなら、いいと思うよ。……多分だけど、マティアスさんも同行してるのに、私たちが払う事になったら、あとから御劔さんが何か言いそう」
「あ、それはありそう……」
佑は「男は女性に奢るべき」という信条の持ち主ではないが、自分が金に困っていない限り、ご馳走する側に回るべきと考えている。
そして彼はマティアスの財力もよく分かっていて、働いているとはいえ香澄や麻衣に出させたと知ったら、絶対に彼に何か言うだろう。
「カイからは特に何も言われていないが、女性二人の胃の面倒ぐらい、見させてくれ。俺はそれ以上に食うが」
最後は少し自慢そうに言うマティアスを見て、香澄たちはクスクス笑う。
「じゃあ、ごちそうさまです」
少しお値段の張る焼き肉屋だが、美味しく食べる事を誓い、まずドリンクオーダーをする。
香澄はゆずサイダーにし、麻衣とマティアスはビールだ。
それからタン塩、壷漬けの肉、すだれ焼きにカルビ、ロース、ハラミにホルモン、豚トロ、海老に貝も、サラダにユッケを頼む。
香澄は大きな椎茸――どんこを見て目を輝かせ、それも頼んだ。
「うまーい!」
「他人のお金で食べる肉、うまー!」
香澄たちは肉を焼きつつ、白米と共にモリモリ食べていく。
「日本の焼き肉は美味いな」
マティアスは律儀に先にサラダを食べてから、肉を平らげていく。
酒が入った麻衣は饒舌になり、ビールを飲みきってお代わりを注文したあとに言った。
「本当に夢みたいだよね。香澄と東京でこうしてるなんて。しかもマティアスさんも一緒」
「だね~。東京で仲良くしてくれる人がいない……とは言わないけど、麻衣がいるのと、いないのとでは全然違う。……嬉しいなぁ」
そう言ったあと、二人は「かんぱーい」とグラスを合わせる。
たっぷりと上等な肉を食べたあと、仕上げに冷麺を食べ、マティアスに「ごちそうさまでした」を言って店を出る事となった。
そのあとは恵比寿駅から渋谷駅まで電車に乗り、渋谷観光をした。
「私もあまり、渋谷とか原宿、新宿には詳しくないんだよね……」
香澄は麻衣と一緒にスクランブル交差点を渡る人の量に驚きつつ言う。
「香澄って、本屋とか美術館とか、目的地を作ったらそれ以外はブラブラしないタイプだからじゃない?」
「かもね~。確実に札幌にいる時より歩いてるのに、今だ街歩きに慣れていない感じ。普段は佑さんと一緒に行動する事が多いから、車移動が多いっていうのもあるし」
「〝色々〟あって、あんまり一人で出歩くの、快く思ってなさそうだよね」
「うん……。過保護とは思うんだけど、〝色々〟な目に遭って心配させてしまった以上、何も言えなくて……」
ハチ公前で記念写真を撮った二人は、センター街や井の頭通りなど、聞いた事のある場所を通ってみる。
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香澄も今まで気にはしていたのだが、一人で来る勇気はなく、佑を連れてくる事もできない。
だから親友と二人で勇気を出し、あちこち行けるのはとても嬉しかった。
行列に並んでいる間、店のショーウィンドウにズラリとクレープの見本があり、二人でそれを見てキャッキャと喜ぶ。
さんざん悩んだ挙げ句、香澄はホットのカスタードチョコにバナナをトッピングし、麻衣はカスタードストロベリーチョコにした。
マティアスは興味津々でマルゲリータのクレープにし、「美味い」とサムズアップしていた。
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