【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
24 / 1,589
第一部・出会い 編

プライベートジェット2

しおりを挟む
「香澄」
「は、はい」

 佑に呼びかけられ、香澄は横を向く。

「シートの前に、機内Wi-Fiのパスワードが書いてあるから、スマホを使いたかったら利用して」
「ありがとうございます」

(ひええ……Wi-Fiまで……)

 覚えている限り、大手航空会社の飛行機でも機内Wi-Fiはあるが、サイト会員になるなどの手続きをしなければならなかった。
 至れり尽くせりだと思いつつ、収納に入っている冊子を見ていると、なんと最新映画まで見られる事に気付いた。

「映画も見られるんですね。これ、まだ日本で公開してない奴じゃないですか?」
「そういうのは、専用の会社と契約しているんだ。邦画はまたシステムが別なんだけど」
「はぁ……」

 感心したあと、スマホの電波は航空器機を狂わせる可能性があると思いだしたので、とりあえず機内モードにしておいた。
 やがて大人しく待っていると、車の運転手や護衛とおぼしき男性たちが乗ってきた。
 彼らは佑に「すべて積み終わり、固定も完了しました」と報告し、香澄を見て微笑みかけてきた。
 思わず「ど、どうも……」と会釈をする香澄に、佑が声を掛ける。

「彼らについては、東京について全員そろった時に紹介するよ。基本的に毎日の生活に、運転手と護衛がついている。あと、通いの家政婦さんもいる。庭師さんや掃除の業者は基本的に顔を合わせる事がないから、常駐の警備員さんに任せてる」
「は、はい……」

(常駐の警備員さんまでいるんだ)

 そのうち客室乗務員が忙しそうに動き始め、シートベルトサインが点灯する。
 飛行機のエンジンが掛かり、ゆっくりと滑走路を進んでいった。

(今日は天気がそれほど悪くないから、良かった)

 窓の外は快晴ではないけれど、吹雪でもない。
 どんよりと曇った空とチラホラ降る雪は、北海道の冬では当たり前の景色だ。
 新千歳空港のある周辺は畑が多く風が強いので、吹雪になると離陸できない事が多い。
 なので天気的に「恵まれた」と思ったのだった。
 ポーンと独特のサイン音が鳴り、少し経ったあとに飛行機が滑走路をまっすぐ進む。

(わ、この感覚久しぶりだ)

 グンッとGが後ろにかかる独特の感覚を味わい、香澄は思わず窓に齧り付く。
 タイヤと地面の摩擦がフッとなくなったかと思うと、機体が浮き上がりグングンと高度を増してゆく。

(わぁ、飛んだ飛んだ)

 札幌、もとい北海道にいると、他県に行く時はもちろん飛行機だ。
 フェリーという手段もあるが、大体道外に出掛ける時は、直接観光地に向けてのツアー旅行が多いのでフェリーとは縁遠い。
 北海道内でも帯広や釧路など行く場合、飛行機を使う人もいる。
 それほど北海道は広く、他県から独立しているので、香澄にとって飛行機に乗る事は旅行に行くのと同義だった。
 なのでこうして、内心子供のようにはしゃいでしまっている。

(これから飛行機を使う機会が多いのを思うと、耳が強くて良かったな)

 友人の中には耳が弱い人がいて、飛行機に乗ると鼓膜が影響を受けて辛いと言っている人もいた。
 彼女が飛行機に乗る時は耳栓と、唾を飲み込むための飴が必需品らしい。
 香澄は幸いあまり影響を受けないタイプなので、良かったと思っている。

 一面雪で真っ白の空港周りの畑を眼下に、そのまま飛行機は高度を上げて雲の上に上がる。
 そのうちしばらく経つと、ポーンとまたサイン音が鳴って機体が安定した事を知らせた。
 通路を挟んで隣の席で、佑が伸びをして少し席をリクライニングさせる。
 やがて客室乗務員が、飲み物や軽食の希望を聞きに来た。

「あ、えっと、じゃあ、ノンシュガーのホットカフェオレをお願いします。軽食は……えーと、夕方か……。あの、御劔さん、東京に着いたあとご飯はどうなるでしょうか?」
「佑さん、ね」

 言い直され、香澄はジワッと赤面する。
 客室乗務員はもれなく高身長美女なので、彼女たちの前でこんなやり取りをしていると、「似合わないって思われているんじゃないだろうか」と怖くなってしまう。

「今日の夕食は、移動で疲れただろうから自宅でとろうと思っている。家政婦さんが色々作ってくれているはずだ。飛行機で好きな物を選んで、あとは家で食べられるだけ食べたらいいんじゃないかな」
「……はい」

(贅沢だなぁ)

 こうやって遠い場所から家に帰っても、家にご飯を作ってくれている人がいるのはありがたい事だ。

「じゃあ、サンドウィッチセットをお願いします」
「畏まりました」

 客室乗務員は他の者たちにも尋ねたあと、奥に戻ってゆく。
 やがて準備ができた彼女たちが、カートを押してやってくる。
 ボックス席のテーブルは引き出すタイプで、材質も高級感のある艶やかな木製だ。

「お待たせ致しました」

 そしてテーブルの上にトレイごとサンドウィッチセットが出される。

「わ……」

 香澄の知る限り、機内食と言えばすべてプラスチック容器に入っている物だ。
 だが出されたのは白い横長のプレートだ。その上に小さなサンドウィッチとバゲットサンド、フルコースの前菜に似た物がちょんと綺麗に配置されている。
 湯気を立てるスープは香澄の好きなポタージュで、それももちろん陶器の器に入っている。もう一つの器にはフルーツが入っていた。

「凄い……!」

 一流レストランのように、ナプキンリングで留められたナプキンもある。
 軽食の前に出されたおしぼりは、もちろん紙製ではなく本物の布しぼりだ。
 カフェオレはたっぷり入るカップに注がれ、濃い香りがしている。

「いただきます……!」

 バタバタしていて空腹を忘れていたが、美味しそうな軽食を前にグッと食欲が湧いてきた。

(……と、その前に……)

「あの、み、……た、佑さん」
「何だ?」

 今度は彼はにっこりといい笑顔でこちらを見る。

(うう……。本当にこうやって呼ぶと嬉しそうだな。恥ずかしいけど、心に留め置いておこう)

「写真とか、撮っても大丈夫ですか? 親友とか家族とか、秘密を守れる人にだけ知らせたいっていうか……」
「構わないよ」

 駄目と言われるのを半分以上覚悟していたので、あっさり了承されて肩すかしを食らう。

「い、嫌じゃないんですか? こういう……見せびらかすような……」
「別に? 俺も個人のジャフォアカウントで、友人に見せたいと思ったものはシェアするし、現代で生きる人なら当たり前の感覚じゃないかな」
「あ、ありがとうございます……。でも、その、炎上とかしちゃいけないので、ごくごく身内向けにしておきます」

 許可を得て軽食の写真を撮ってから、香澄は美味しそうなそれにかぶりつく。

(美味しい……)

 もっもっと口を動かしつつ、今後の事を考える。

(きっとこれから沢山、写真を撮って記念に残しておきたいって思う事は増えるだろうけど、絶対ひけらかしたら駄目なんだ。佑さんの〝隣〟を狙っている女性は大勢いるし、もしかしたら私の知り合いの中にも『ずるい』って思う人も出るかもしれない)

 現実的な事を考え、身が引き締まる。

(麻衣とか家族とか、信頼できる人だけ招待したジャフォの鍵アカウントとかも作るのを視野に入れよう。それなら写真を投稿したいっていう欲求も満たされるし、安全だし。……いや、でもさすがに麻衣でも、そういう投稿が多いと嫌になるかな。それは相談しよう)

 こういう時、つくづく人間の持つ承認欲求は厄介だと思う。
 一般の育ちだからこそ、少しいつもと違う場所に来たり、いつもより高い食事を食べたりすると、写真を撮って「見てほしい」と思ってしまう。
 香澄が「必定以上に目立ちたくない、マイペースに生きていきたい」と思っている性格でも、少なからずそういう部分はあるのだ。

(佑さんの側で生きていくなら、これからずっと、自分を律していかないと)

 自分に言い聞かせて決めたあと、香澄は気持ちを切り替えて軽食を楽しみ、美味しいカフェオレを飲んだ。

**

 約一時間半のフライトを経て、飛行機は羽田空港に着いた。

 荷物はそのまま放っておけば、東京の『eホーム御劔』の社員が引き取ってくれるらしく、ありがたく手荷物だけで移動させてもらう。
 車に乗るのも、また滑走路まで直接車が迎えに来たので、それに乗り込むだけだ。

(あっという間に東京だなぁ……)

 新千歳空港から札幌までは畑が多く、途中にある町も小規模なのに対し、羽田空港から都心に向かう途中には、もうすでに建物が多く見える。
 慌ててスマホのマップを確認しようとすると、佑が「東京湾岸に沿って道路があるんだ」と教えてくれる。

「途中でレインボーブリッジも見えるよ」
「わあ! 本当ですか!?」

 それはぜひ見たい! と香澄の中で興奮度合いが上がる。
しおりを挟む
感想 575

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...