【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
70 / 1,591
第二部・お見合い 編

再会

しおりを挟む
「おま…………、……香澄か?」

 名前を呼ばれ、香澄は自分の直感が当たっていたのを確信した。

「……健二くん」

 呆然と元彼の名前を呼んだ時、列が動いて健二が前を指差した。
 慌てて前に進んだ香澄の肩に手を掛け、健二――原西健二がまじまじと顔を覗き込んでくる。

「香澄、雰囲気変わった?」
「え……。そ、そうかな?」

 基本的に自分としては何も変わっていないつもりだ。
 けれどChief Everyで働くようになって、外見を整えるのに多少気を遣ってはいる。

 最初に佑が百貨店でコスメをドカッと買ったあと、佑の知り合いであるメーキャップアーティストがやって来て、香澄に様々な事を教えてくれた。
 スキンケアの仕方から、美顔器でのケア、ベースメイクにしてもツヤ肌やナチュラル肌、マット肌など。
 他にもビジネス用のきれいめナチュラルメイクから、パーティー用のやや派手目のメイク、デート用に、女子会用など、何回か御劔邸を訪れて講習してくれた。

 なので、今はそこそここなれたメイクができていると思っている。
 だから久しぶりに健二と会って彼が「雰囲気が変わった」と言うのなら、百パーセントメイクと佑が買ってくれた服のお陰だと思う。

「何か、垢抜けて綺麗になったように見える」
「あ、ありがとう」
「香澄、観光でここにいるんじゃないだろ?」
「う、うん。今は東京で働いてるんだ。健二くんは?」
「俺は大学出たあと、上京してずっと『AKAGI』で働いてる」

『AKAGI』というのは、スポーツメーカーだ。
 日本では『AKAGI』のロゴは有名で、ブランド力がある。
 もともと創業者の赤城社長の名前が由来だが、それを〝赤木〟とし、葉を茂らせ根を広げる大樹のロゴマークとなっている。

「『AKAGI』で働いてるんだ。凄いね。そう言えば、スポーツメーカーで働きたいって言ってたっけ」
 大学を卒業する頃には健二と別れていたので、就職活動中の事はお互いあまり分かっていない状態だったと思う。
 香澄は自分の事で精一杯だったし、健二も他の友人とつるんでいた。

(最後に健二くんと話したのは、大学三年の最初辺りだったっけ……)

 三年生からゼミが始まったので、そこから二人の目指す方向が変わった。
 香澄が健二と付き合っていたのは一、二年生の時で、二年生の後半にはもうほぼ関係が終わっていたので、三年生になって距離ができたのは丁度良かった。

 昔の事をつらつらと思い出している間に列が動き、香澄は松井の分も含め三人分のコーヒーを買った。

「香澄、俺も買うからちょっと待って」
「あ、うん」

 待っていると健二はすぐにコーヒーを買い、戻って来る。

「今度会えない? 今はお互い昼休みだろ? 久しぶりに会ったし、飯でも奢るよ」
「あー……、うん……」

 健二といると心がチリチリとして落ち着かないのだが、それがどうしてなのか自分でもあまり理解していない。
 良くない別れ方をしたのは自覚しているが、あれから七年近く経っているので、それをずっと引きずるのもおかしい。

「じゃ、連絡先交換しよ。俺は電話番号とか、前から変わってないんだけどな」

 コーヒーショップの前でスマホを出し、お互いコネクターナウのIDなどを交換する。

「住まいはこの辺?」
「うん、割と近く」
「スケジュールのすり合わせとか、近くなったらするけど、じゃあ待ち合わせは大体品川近辺でいいな?」
「うん」

 ひとまず健二とは一旦別れ、香澄は腕時計を確認して慌ててTMタワーに戻った。




「ただいま戻りました」

 社長秘書室に入り、テーブルの上に紙袋を置くとコートを脱ぐ。

「松井さん、どうぞ」
「ありがとうございます」

 彼のデスクにコーヒーを置くと、松井は懐から財布を取り出し小銭を探しだす。
 そして手にブラックコーヒーを持ったまま、社長室に入った。

「失礼します」
「あぁ、ありがとう」

 すでにデスクについていた佑は、香澄がコーヒーを手にしている姿を見て微笑んだ。

「寒くなかったか?」
「はい、大丈夫です」

 彼のデスクにコーヒーを置き、一礼して戻りかけた香澄は「あ」と声を出す。

「ん?」
「その……、言っておいた方がいいと思ったんですが、さっき元彼と会いました」
「え?」

 急に佑の表情が険しくなり、やや雰囲気に余裕がなくなる。

「元彼って、札幌の人なんじゃないのか?」
「卒業後に上京したみたいなんです。付き合っていたのは一、二年生なので、大学生後半はあまり彼の事を知らなくて……」
「……そうか」

 佑は溜め息をつき、気持ちを落ち着かせるようにネクタイの結び目を確認する。

「それで、今度会う約束をしたんですが……。いい、でしょうか?」
「えっ?」

 佑がまた声を上げる。
 彼の反応を見て、香澄は慌ててつけ加えた。

「ち、違うんです。元彼の事は、もうほんっとうに何とも思っていません。ただ、向こうも七年近くぶりに会ったので、昔話とか、懐かしいねとか、そういう話がしたいんだと思います。いわば同窓会のノリに近い感じで……」
「……夜に会うのか?」

 佑が気にしているだろう事を察したが、まだ何とも言えない。

「分かりません。ただ『会おう』と言われただけで、ランチなのか、飲みなのかすらも確認していません」

 こう言うと、気にしてくれている佑に意地悪を言っている心地になる。
 だが時間のない時にチラッと顔を合わせた程度なので、本当に何も決まっていないのは事実だ。
 決まり悪くチョコレート色のデスクを見つめていると、佑が息をついた。

「……信じるよ」

 その一言がとてもありがたく、また、いい意味で重かった。

「すみません。昼休み中の事だったので、立ち話する余裕がなかったんです。連絡先を交換して、あとで改めて会おうっていう感じになってしまって」
「うん、それは理解してる」
「本当に、他意はありません。向こうも私に未練があるような雰囲気はなかったですし、普通に食事をして帰ります」
「うん」

 香澄が必死に説明しているからか、佑はとうとう苦笑いし始めた。

「香澄が思っているほど、俺は疑ってないから安心して。それに俺も百合恵さんの事があるし、会って食事をするぐらいなら大丈夫だ」
「……ありがとうございます」

 頭を下げた香澄に「ただ」と声が掛かり、彼女はハッと顔を上げる。

「その場に俺が行くのはみっともないからしないけど、客に紛れて久住と佐野を配置するのは許してほしい。元彼を疑っている訳じゃないけど、万が一何かがあったら嫌だから」
「分かりました」

 話しているうちに午後になり、香澄は「あ」と腕時計を見て声を上げ、「またあとで」と秘書室に戻った。

(あぁ、ドキドキした)

 本当に今は健二の事は何とも思っていない。
 だが佑にとって元彼である健二は、良くない存在であるに決まっている。
 当人同士が今は恋愛感情を持っていなくても、現在付き合っている佑が二人が会うのを快く思わないのは当然だ。
 本当は怒られるかと思ったが、佑は想像以上に大人だった。
 けれど「彼は大人の男の人だろう」と思うからこそ、香澄も正直に健二の事を話した。
 今は気負って緊張していた心を解放し、いずれ健二から連絡がきたらサラッと会って帰り、終わりにしようと思っている。

(私は何も期待してないし、向こうも今は何とも思ってないだろうし)

 もう一度自分に言い聞かせ、「うん」と頷いてから香澄はパソコンを起動させた。

**

 仕事のあとは、そのまま佑が贔屓にしているホテルに向かう予定なので、今日は少しおめかししてきた。
 それを見越して松井は「十四日は社長の外出の同行は結構ですから」と言ってくれ、何もかも見透かされている感が強く恥ずかしい。
 終業後に社長室を覗くと、微笑んだ佑と目が合った。

「一日、お疲れ様。これからは〝オフ〟にして楽しい週末を過ごそうか」

 恋人の時間だと言われ、香澄は頬を熱くさせる。

「……はい」

 頷いた香澄を見て、佑はパソコンをシャットダウンさせて静かに立ち上がった。
しおりを挟む
感想 576

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

「君はいらない」と捨てられた夜、天敵の冷徹社長に「なら、俺が貰う」と拾われました。――手を出さない約束でしたが、彼の理性が限界のようです

白山 乃愛
恋愛
【婚約破棄から始まる、不器用なライオン(冷徹社長)の猛烈な求愛!】 「俺の妻になるなら覚悟しろ。……もう、指一本逃がすつもりはない」 ★あらすじ★ 「美月は完璧すぎて、可愛げがないんだよ」 28歳の誕生日。 一流ホテルのウエディングプランナーである相沢美月(あいざわ みつき)は、婚約者の裏切りにより、結婚目前ですべてを失った。 雨の降る路地裏。 ヒールも折れ、心も折れてうずくまっていた美月の前に現れたのは、かつての高校時代の天敵であり、現在は勤務先の冷徹な社長 一条蓮(いちじょう れん)だった。 「捨て猫以下だな」 そう憎まれ口を叩きながらも、彼は泥だらけの美月を躊躇なく抱き上げ、最高級ペントハウスへと連れ帰る。 そして、彼が突きつけたのは、あまりにも強引な提案だった。 「住む場所がないなら、俺の家に来い。その代わり――俺の『婚約者』役を演じろ」 利害の一致した契約関係。 条件は「お互いに干渉しないこと」、そして「決して手を出さないこと」。 ……のはずだったのに。 「髪、濡れたままだと風邪を引く」 「あんな男のために泣くな。顔が台無しだ」 同居生活で見えてきたのは、冷徹な仮面の下に隠された、不器用すぎるほどの優しさと独占欲。 美月が作った手料理を誰よりも美味しそうに食べ、元婚約者が復縁を迫ってくれば「俺の女に触れるな」と徹底的に排除する。 天敵だったはずの彼に守られ、凍っていた美月の心は次第に溶かされていく。 しかし、ある雷雨の夜。 美月が不用意に彼に触れた瞬間、一条の理性のタガが外れてしまい――。 「……手を出さない約束? 撤回だ」 「そんな無防備な顔で見つめて、何もしないでいられるほど、俺は聖人君子じゃない」 10年越しの片思いをこじらせたハイスペック社長 × 仕事熱心で恋愛に臆病なプランナー。 契約から始まった二人の関係が、本物の愛(溺愛)に変わるまで。 元婚約者への痛快な「ざまぁ」も収録した、極上の大人のシンデレラストーリー! 【登場人物】 ◆相沢 美月(28) ホテルの敏腕ウエディングプランナー。真面目でお人好しな性格が災いし、「つまらない女」と婚約破棄される。実は家事万能で、酔うと少しだけ甘えん坊になる(本人は無自覚)。 ◆一条 蓮(28) ホテルグループの社長。美貌と才覚を併せ持つが、他人に興味を示さないため「氷の貴公子」と呼ばれる。実は高校時代から美月を一途に想い続けており、彼女のこととなると冷静さを失う。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...