183 / 1,591
第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
今日はお疲れさん
しおりを挟む
「オーパ、カスミってこういう子だよ。自分の孫やひ孫みたいに、ただ〝クラウザー家〟の力を使って守ればいいってもんじゃないんだ」
それに、クラウスも同意する。
「そうだよ。それにあんまりここで関わりすぎると、いざひ孫が生まれた時に近づかせてもらえなくなるよ。『金と権力で人を駄目にするじーさんだ』って」
「そっ、そんなこと言ってません!」
助け船はありがたいが、クラウスは言い過ぎだ。
慌てて否定した時、アドラーが溜め息混じりに笑った。
「……では、妻と孫の言葉の通り、ここは引こう」
「ありがとうございます」
香澄は心底安堵し、お礼を言う。
「他に、望みはないかね?」
まだ何か言うことを聞こうとするアドラーに、香澄は苦笑いする。
「いいえ。立派な個室に入院させて頂いて、これ以上の事はありません。これから日本から家族が来るみたいですが、落ち着いたころ皆で一度この街をおいとまします。また元気になったら、宜しくお願いします」
そう言うと、アドラーが名案を思いついたという顔で笑った。
「では、香澄さんのご家族を迎えるために、ホテルの部屋を用意しておこう」
「あっ、あああ……」
うっかり家族が来ると言ってしまったばかりに、彼にそんな事を言わせてしまったと、香澄は後悔する。
(アドラーさんがホテルを用意するっていうなら、絶対立派なホテルに決まってる……!)
恐縮するのは香澄だけでなく、庶民代表である両親と弟もだ。
立派すぎる部屋に無料で泊まっていいといわれ、あの堅実な家族が素直に「ありがとうございます」と思うはずがない。
家族に余計な気苦労をさせそうで、香澄は冷や汗を流す。
「香澄さん。宿泊場所についてはあなたが折れる番だわ。ホテルはクラウザー家でも経営しているし、余計な出費なしに都合がつくもの」
けれど節子にやんわりと言われ、それもそうだと納得した。
「分かりました。それでは、家族が滞在しているあいだ、どうぞ宜しくお願い致します」
頭を下げると、アドラーは「任せたまえ」と嬉しそうに笑った。
「さあ、あまり長居しても香澄さんが疲れてしまうわ」
節子に言われたあと、クラウザー家の人々が一言ずつ香澄に声を掛け、病室を去ってゆく。
先日のパーティーの時に会った全員が来た訳ではないが、アドラーと節子の間にいる兄弟たちは、アンネを除いて全員いる。
その上で手の空いている配偶者や、特に香澄を気に入っている他の親族などが来てくれていた。
最後に、双子が残った。
「大丈夫? カスミ」
「はい。こんなに思って頂けて、ありがたいばかりです」
「オーパは根っこの部分は、ドイツ人らしく堅実で節約が好きな人だけど、金を使うって決めた時はすっごいからね。それは覚えといた方がいいよ」
「は、はい……」
その「すっごい」が、香澄には想像もできない大金だろう事を思い、気が遠くなる。
「まぁ、俺たちも似たようなもんだけどね。アパレルやってるけど、普段の自分たちの服はTシャツにジーンズが多いし、見た目より機能や肌心地重視だ」
「そう……ですね」
言われてみれば、双子……というよりも、海外の人はシンプルな格好をする人が多いとかねてから思っていた。
「ざっくりとした価値観が、見た目をどうこうするよりも、個人の幸せに向いてると思うよ。日本人に社畜が多いのに比べて、こっちは休みをきっちり取るとか言うでしょ」
「そうですね。バカンスって日本にはないですし」
「勿論、ファッションや流行に敏感な人もいるけど、本質的には休暇を取れた時にいかに楽しく過ごすかを目的にして金を貯めている人が多いかな。あと、投資とかは半数以上が普通にやっているね」
「ほぉ……」
頷くと、クラウスが「話題がずれたね」と笑う。
「要するに、〝大切な時〟には金を使うよ、っていう事。そういう気質の人が多いし、オーパにはたんまり蓄えがある。だからもしもいつか何かしらの金を提示されても、あんまり金額にビビらないようにね」
「あ……、はい……」
ビビらないないようにね、と言われても、彼らの金銭感覚に慣れる事は一生ないだろう。
「ま、とにかく今日はお疲れさん。もうちょっとしたらタスクが来るだろうから、ゆっくり休んでな」
「はい」
「寂しかったら、僕らが毎日お見舞いに来てあげるから」
「あはは、ありがとうございます」
それに、クラウスも同意する。
「そうだよ。それにあんまりここで関わりすぎると、いざひ孫が生まれた時に近づかせてもらえなくなるよ。『金と権力で人を駄目にするじーさんだ』って」
「そっ、そんなこと言ってません!」
助け船はありがたいが、クラウスは言い過ぎだ。
慌てて否定した時、アドラーが溜め息混じりに笑った。
「……では、妻と孫の言葉の通り、ここは引こう」
「ありがとうございます」
香澄は心底安堵し、お礼を言う。
「他に、望みはないかね?」
まだ何か言うことを聞こうとするアドラーに、香澄は苦笑いする。
「いいえ。立派な個室に入院させて頂いて、これ以上の事はありません。これから日本から家族が来るみたいですが、落ち着いたころ皆で一度この街をおいとまします。また元気になったら、宜しくお願いします」
そう言うと、アドラーが名案を思いついたという顔で笑った。
「では、香澄さんのご家族を迎えるために、ホテルの部屋を用意しておこう」
「あっ、あああ……」
うっかり家族が来ると言ってしまったばかりに、彼にそんな事を言わせてしまったと、香澄は後悔する。
(アドラーさんがホテルを用意するっていうなら、絶対立派なホテルに決まってる……!)
恐縮するのは香澄だけでなく、庶民代表である両親と弟もだ。
立派すぎる部屋に無料で泊まっていいといわれ、あの堅実な家族が素直に「ありがとうございます」と思うはずがない。
家族に余計な気苦労をさせそうで、香澄は冷や汗を流す。
「香澄さん。宿泊場所についてはあなたが折れる番だわ。ホテルはクラウザー家でも経営しているし、余計な出費なしに都合がつくもの」
けれど節子にやんわりと言われ、それもそうだと納得した。
「分かりました。それでは、家族が滞在しているあいだ、どうぞ宜しくお願い致します」
頭を下げると、アドラーは「任せたまえ」と嬉しそうに笑った。
「さあ、あまり長居しても香澄さんが疲れてしまうわ」
節子に言われたあと、クラウザー家の人々が一言ずつ香澄に声を掛け、病室を去ってゆく。
先日のパーティーの時に会った全員が来た訳ではないが、アドラーと節子の間にいる兄弟たちは、アンネを除いて全員いる。
その上で手の空いている配偶者や、特に香澄を気に入っている他の親族などが来てくれていた。
最後に、双子が残った。
「大丈夫? カスミ」
「はい。こんなに思って頂けて、ありがたいばかりです」
「オーパは根っこの部分は、ドイツ人らしく堅実で節約が好きな人だけど、金を使うって決めた時はすっごいからね。それは覚えといた方がいいよ」
「は、はい……」
その「すっごい」が、香澄には想像もできない大金だろう事を思い、気が遠くなる。
「まぁ、俺たちも似たようなもんだけどね。アパレルやってるけど、普段の自分たちの服はTシャツにジーンズが多いし、見た目より機能や肌心地重視だ」
「そう……ですね」
言われてみれば、双子……というよりも、海外の人はシンプルな格好をする人が多いとかねてから思っていた。
「ざっくりとした価値観が、見た目をどうこうするよりも、個人の幸せに向いてると思うよ。日本人に社畜が多いのに比べて、こっちは休みをきっちり取るとか言うでしょ」
「そうですね。バカンスって日本にはないですし」
「勿論、ファッションや流行に敏感な人もいるけど、本質的には休暇を取れた時にいかに楽しく過ごすかを目的にして金を貯めている人が多いかな。あと、投資とかは半数以上が普通にやっているね」
「ほぉ……」
頷くと、クラウスが「話題がずれたね」と笑う。
「要するに、〝大切な時〟には金を使うよ、っていう事。そういう気質の人が多いし、オーパにはたんまり蓄えがある。だからもしもいつか何かしらの金を提示されても、あんまり金額にビビらないようにね」
「あ……、はい……」
ビビらないないようにね、と言われても、彼らの金銭感覚に慣れる事は一生ないだろう。
「ま、とにかく今日はお疲れさん。もうちょっとしたらタスクが来るだろうから、ゆっくり休んでな」
「はい」
「寂しかったら、僕らが毎日お見舞いに来てあげるから」
「あはは、ありがとうございます」
64
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる