277 / 1,591
第六部・社内旅行 編
悔しい!
しおりを挟む
そんな彼は営業成績も良く、営業部のムードメーカーだ。
イベント事なども彼が発起人になる事も多く、皆「生島が言うなら」という感じでついてくる。
彼も味方にできたように思え、佑は内心「よしよし」と頷いていた。
まだ佑と社員たちの会話が続いている間、成瀬が荒野と水木に囁く。
「飯山たち、意外と社長の部屋に押しかけなかったね。私たちが虫除けのために来なくても、他の人たちが来たし。懇親会中、飯山たちから社長の事守りきれそう」
「うんうん。このまま何事もなく終えられたらいいね」
「本当に赤松さん、遠慮しないで草津来ちゃえば良かったのになぁ」
「ねぇー」
三人組が飯山たちから佑を守ろうとしている間、当の香澄は飯山たちから直接攻撃を食らってしまっていた。
しかし三人組がそれに気づけないのも、仕方がない。
人の行動など、予想した通りにいくはずがない。
まして隠して守ろうとする者と、暴いて攻撃しようとする者とは、絶対的に相性が悪く、考え方も正反対なのだ。
**
宿に戻った香澄は、護衛に「絶対に佑さんに言わないでください」と念を押してから部屋に閉じこもった。
ついさっきまで佑との甘い時間が流れていた部屋に、一人で立ち尽くす。
ベッドまで歩いてボフッと倒れ込むと、涙がこみ上げてきた。
「――――っ、悔しい……っ!」
くぐもった声で叫び、思いきり拳をベッドに振り下ろした。
ボスッと鈍い音がし、衝撃は上質なマットレスに吸収されてゆく。
「どうして……っ、あんなこと言われないとならないのっ!」
何度も何度も、拳を振り下ろした。
呼吸がおかしくなるほど嗚咽し、目の前が涙で見えなくなった。
「好きな人と一緒にいたいって思うの、そんなに悪いのっ!? 忙しい人なんだもんっ、たまに温泉行ったっていいじゃないっ!」
ヒステリックな声を出して、この場にいない飯山たちに文句を言う。
けれど、声を出せば出すほど自分が情けなくて堪らなくなる。
――悪かったのは、あの場で言い返せなかった自分の弱さだ。
――言い返さなかったのも、佑に迷惑を掛けたくないと自分で判断したからだ。
――全部、自分の責任だ。
――けど、
「……悔しい……っ」
もう一度言ったあと、両手で顔を覆って肩を震わせた。
「――――っ、ぁ……、あぁあああぁっ!」
大人になってから、初めて声を上げて泣いた。
こんな悔しい思い、できるなら味わいたくない。
人間なら当たり前だ。
それでも香澄は、これは自分が選んだ道なのだと感じていた。
札幌で佑に見つけられ、彼の手を取った瞬間から、自分は人から妬まれる存在になった。
〝その他大勢〟の一般人から、〝世界の御劔の婚約者〟に大抜擢されたのだ。
子供の頃に見ていたアニメにだって、悪魔を召喚して願いを叶えてもらうなら、相応の代償が必要だと描かれてあった。
何事にも、犠牲のない成功などありえない。
それでも、佑の手だけは絶対に手放したくない。
彼に必要ないと言われるまで、側にいたい。
「……堪えて、……みせるもの」
ズッと鼻を啜り、香澄は両手で涙を拭う。
「佑さんが望んでくれる限り、私はどれだけだって嫌な女になってやる。嫉妬されてもニッコリ笑っていやみを言い返せるぐらい、したたかな女になるんだから」
自分自身に言い聞かせたあと、香澄は仰向けになって天井を見つめる。
どれぐらいぶりになるか分からないぐらい大泣きして、ストレスも解消された気がした。
「……お風呂、入ろう」
モソリと起き上がり、髪がくしゃくしゃなのも構わず浴室に向かう。
「……負けない」
脱衣所でポイポイと服を脱いで、ギプスカバーをつける。
「せっかくの温泉だし!」
ザプンッと音をたてて露天風呂に入った香澄は、「バンバンババンバンバンッ」とおなじみのフレーズを歌い始めた。
**
イベント事なども彼が発起人になる事も多く、皆「生島が言うなら」という感じでついてくる。
彼も味方にできたように思え、佑は内心「よしよし」と頷いていた。
まだ佑と社員たちの会話が続いている間、成瀬が荒野と水木に囁く。
「飯山たち、意外と社長の部屋に押しかけなかったね。私たちが虫除けのために来なくても、他の人たちが来たし。懇親会中、飯山たちから社長の事守りきれそう」
「うんうん。このまま何事もなく終えられたらいいね」
「本当に赤松さん、遠慮しないで草津来ちゃえば良かったのになぁ」
「ねぇー」
三人組が飯山たちから佑を守ろうとしている間、当の香澄は飯山たちから直接攻撃を食らってしまっていた。
しかし三人組がそれに気づけないのも、仕方がない。
人の行動など、予想した通りにいくはずがない。
まして隠して守ろうとする者と、暴いて攻撃しようとする者とは、絶対的に相性が悪く、考え方も正反対なのだ。
**
宿に戻った香澄は、護衛に「絶対に佑さんに言わないでください」と念を押してから部屋に閉じこもった。
ついさっきまで佑との甘い時間が流れていた部屋に、一人で立ち尽くす。
ベッドまで歩いてボフッと倒れ込むと、涙がこみ上げてきた。
「――――っ、悔しい……っ!」
くぐもった声で叫び、思いきり拳をベッドに振り下ろした。
ボスッと鈍い音がし、衝撃は上質なマットレスに吸収されてゆく。
「どうして……っ、あんなこと言われないとならないのっ!」
何度も何度も、拳を振り下ろした。
呼吸がおかしくなるほど嗚咽し、目の前が涙で見えなくなった。
「好きな人と一緒にいたいって思うの、そんなに悪いのっ!? 忙しい人なんだもんっ、たまに温泉行ったっていいじゃないっ!」
ヒステリックな声を出して、この場にいない飯山たちに文句を言う。
けれど、声を出せば出すほど自分が情けなくて堪らなくなる。
――悪かったのは、あの場で言い返せなかった自分の弱さだ。
――言い返さなかったのも、佑に迷惑を掛けたくないと自分で判断したからだ。
――全部、自分の責任だ。
――けど、
「……悔しい……っ」
もう一度言ったあと、両手で顔を覆って肩を震わせた。
「――――っ、ぁ……、あぁあああぁっ!」
大人になってから、初めて声を上げて泣いた。
こんな悔しい思い、できるなら味わいたくない。
人間なら当たり前だ。
それでも香澄は、これは自分が選んだ道なのだと感じていた。
札幌で佑に見つけられ、彼の手を取った瞬間から、自分は人から妬まれる存在になった。
〝その他大勢〟の一般人から、〝世界の御劔の婚約者〟に大抜擢されたのだ。
子供の頃に見ていたアニメにだって、悪魔を召喚して願いを叶えてもらうなら、相応の代償が必要だと描かれてあった。
何事にも、犠牲のない成功などありえない。
それでも、佑の手だけは絶対に手放したくない。
彼に必要ないと言われるまで、側にいたい。
「……堪えて、……みせるもの」
ズッと鼻を啜り、香澄は両手で涙を拭う。
「佑さんが望んでくれる限り、私はどれだけだって嫌な女になってやる。嫉妬されてもニッコリ笑っていやみを言い返せるぐらい、したたかな女になるんだから」
自分自身に言い聞かせたあと、香澄は仰向けになって天井を見つめる。
どれぐらいぶりになるか分からないぐらい大泣きして、ストレスも解消された気がした。
「……お風呂、入ろう」
モソリと起き上がり、髪がくしゃくしゃなのも構わず浴室に向かう。
「……負けない」
脱衣所でポイポイと服を脱いで、ギプスカバーをつける。
「せっかくの温泉だし!」
ザプンッと音をたてて露天風呂に入った香澄は、「バンバンババンバンバンッ」とおなじみのフレーズを歌い始めた。
**
65
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる