493 / 1,589
第九部・贖罪 編
示談金の相談
しおりを挟む
それまで黙っていた佑が、口を開く。
『……俺もここで話は終わり……、にしたい。だが物事にはけじめが必要だと思っている。さっきマティアスが罰が必要だと言っていたように、区切りを付けて次の関係を結ぶには、一度ちゃんと制裁を受けてほしいと思っている』
佑の声はもう怒っていなかった。
彼もそれぞれの理由を聞き、納得せざるを得なかったのだろう。
加えて香澄が「もういい」と主張した気持ちを、汲み取ったのもあるのかもしれない。
本人たちに向き合って、一番疲弊しているのは香澄だ。
その彼女があれほどまでに憎みたくないと言っているなら、佑がこれ以上無理強いをして敵対心を燃やすのは良くない。
それでも彼は、香澄の婚約者として自分も納得できるけじめをつけようとしていた。
佑の言葉を聞き、アドラーが頷く。
『幾らでも払おう。すべてを受け入れてくれた香澄さんのためなら、どれだけ払っても構わない』
双子、マティアスも続く。
『俺たちも出す』
『被害者はカスミだもんね』
『俺もフラウ・カスミにちゃんと償わせてくれ』
いきなり自分に金を払う流れになり、香澄は「えっ?」と動揺する。
『香澄? どれだけ請求したい?』
(聞かないで!!)
佑に尋ねられ、香澄は心の中で思いきり突っ込んだ。
訴えるとか賠償とか、そういうものとは無縁に生きてきた。
情けないながらも自分は高学歴の女性ではないという自覚もあるし、難しい話を振らないでほしい。
こんな状況になった場合の適正な金額など、想像する事すらできない。
それでも、佑は微笑んで優しく尋ねてくる。
『香澄が今回の事で納得できる金額を提示してごらん』
『え……えぇと……』
焦りに焦って視線をさまよわせると、正面から四人がこちらをジッと見つめている。
『じゃ……じゃあ……、三十万?』
給料ぐらいの金額を提示したが、各方面からバサッと切り捨てられた。
『安い』
『カスミ』
『バカだねー』
自分でも高いと思った金額を口にしたが、一刀両断されてしまった。
『……っ、じゃあ、五十万!』
思い切って手をパーにして突き出すと、佑が息をつく。
『香澄の前で具体的な金額を出したくないが、イギリスで掛かった医療費はざっと四百万、性犯罪、香澄のPTSDを含めた広義の意味での傷害罪、香澄が働けなかった期間の給料分、通院その他費用。精神的苦痛は一律に決められないが、安く見積もられては困る。俺としては一人一千万もらってもまだ足りない』
「!!」
香澄は知らない内に自分のために使われた医療費の額を知り、目をまん丸にして息を止めた。
『私も香澄さんへの謝罪が一千万で済むとは思っていない』
アドラーが言い、香澄は頭を抱える。
(あああ……。金銭感覚が狂っている人たちの乱闘だ……)
こうなったらもう、香澄には止められない。
払ってほしい佑と、ぜひ払いたいアドラーたち。
香澄が「いいですから」と言っても、絶対に聞き入れてもらえない。
チラッと助けを求めて節子を見たが、彼女はにっこり笑って「好きなようにさせておきなさい」という顔をしている。
『剣崎さん』
佑がそれまで脇に控えていた、顧問弁護士の剣崎を呼ぶ。
彼はスッと近づいてくると、香澄が恐れていた事を口にした。
『示談金に上限はありません。また示談金に税金はかかりませんので、どうぞ思う存分』
(あああああ!!)
本当に頭を抱えてプルプル震える香澄をよそに、佑は満足げに頷いてからアドラー達に示談金をふっかけた。
『それじゃあ、香澄の言い値をベースにして、マティアスには一億。アロクラはそれぞれ五千万。爺さんには、これから俺がまたオーパと呼ぶ条件もつけて、五億」
「ちょ……っ、ごっ、ごおく!? ま、待って! 経営者の方は別かもだけど、マティアスさんは一般人でしょう!」
思わず日本語で言い、佑の袖を掴む。
が、あっさりと双子に否定された。
『……俺もここで話は終わり……、にしたい。だが物事にはけじめが必要だと思っている。さっきマティアスが罰が必要だと言っていたように、区切りを付けて次の関係を結ぶには、一度ちゃんと制裁を受けてほしいと思っている』
佑の声はもう怒っていなかった。
彼もそれぞれの理由を聞き、納得せざるを得なかったのだろう。
加えて香澄が「もういい」と主張した気持ちを、汲み取ったのもあるのかもしれない。
本人たちに向き合って、一番疲弊しているのは香澄だ。
その彼女があれほどまでに憎みたくないと言っているなら、佑がこれ以上無理強いをして敵対心を燃やすのは良くない。
それでも彼は、香澄の婚約者として自分も納得できるけじめをつけようとしていた。
佑の言葉を聞き、アドラーが頷く。
『幾らでも払おう。すべてを受け入れてくれた香澄さんのためなら、どれだけ払っても構わない』
双子、マティアスも続く。
『俺たちも出す』
『被害者はカスミだもんね』
『俺もフラウ・カスミにちゃんと償わせてくれ』
いきなり自分に金を払う流れになり、香澄は「えっ?」と動揺する。
『香澄? どれだけ請求したい?』
(聞かないで!!)
佑に尋ねられ、香澄は心の中で思いきり突っ込んだ。
訴えるとか賠償とか、そういうものとは無縁に生きてきた。
情けないながらも自分は高学歴の女性ではないという自覚もあるし、難しい話を振らないでほしい。
こんな状況になった場合の適正な金額など、想像する事すらできない。
それでも、佑は微笑んで優しく尋ねてくる。
『香澄が今回の事で納得できる金額を提示してごらん』
『え……えぇと……』
焦りに焦って視線をさまよわせると、正面から四人がこちらをジッと見つめている。
『じゃ……じゃあ……、三十万?』
給料ぐらいの金額を提示したが、各方面からバサッと切り捨てられた。
『安い』
『カスミ』
『バカだねー』
自分でも高いと思った金額を口にしたが、一刀両断されてしまった。
『……っ、じゃあ、五十万!』
思い切って手をパーにして突き出すと、佑が息をつく。
『香澄の前で具体的な金額を出したくないが、イギリスで掛かった医療費はざっと四百万、性犯罪、香澄のPTSDを含めた広義の意味での傷害罪、香澄が働けなかった期間の給料分、通院その他費用。精神的苦痛は一律に決められないが、安く見積もられては困る。俺としては一人一千万もらってもまだ足りない』
「!!」
香澄は知らない内に自分のために使われた医療費の額を知り、目をまん丸にして息を止めた。
『私も香澄さんへの謝罪が一千万で済むとは思っていない』
アドラーが言い、香澄は頭を抱える。
(あああ……。金銭感覚が狂っている人たちの乱闘だ……)
こうなったらもう、香澄には止められない。
払ってほしい佑と、ぜひ払いたいアドラーたち。
香澄が「いいですから」と言っても、絶対に聞き入れてもらえない。
チラッと助けを求めて節子を見たが、彼女はにっこり笑って「好きなようにさせておきなさい」という顔をしている。
『剣崎さん』
佑がそれまで脇に控えていた、顧問弁護士の剣崎を呼ぶ。
彼はスッと近づいてくると、香澄が恐れていた事を口にした。
『示談金に上限はありません。また示談金に税金はかかりませんので、どうぞ思う存分』
(あああああ!!)
本当に頭を抱えてプルプル震える香澄をよそに、佑は満足げに頷いてからアドラー達に示談金をふっかけた。
『それじゃあ、香澄の言い値をベースにして、マティアスには一億。アロクラはそれぞれ五千万。爺さんには、これから俺がまたオーパと呼ぶ条件もつけて、五億」
「ちょ……っ、ごっ、ごおく!? ま、待って! 経営者の方は別かもだけど、マティアスさんは一般人でしょう!」
思わず日本語で言い、佑の袖を掴む。
が、あっさりと双子に否定された。
44
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
憧れのお姉さんは淫らな家庭教師
馬衣蜜柑
恋愛
友達の恋バナに胸を躍らせる教え子・萌音。そんな彼女を、美咲は優しく「大人の身体」へと作り替えていく。「ねえ萌音ちゃん、お友達よりも……気持ちよくしてあげる」眼鏡の家庭教師が教えるのは、教科書には載っていない「女同士」の極上の溶け合い方。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる