570 / 1,589
第十部・ニセコ 編
食事作りの提案
しおりを挟む
「……香澄さんはいいんですか」
和也に尋ねられ、ハッと我に返った香澄は、取るべき行動を確認する。
「今日の仕事はきちんとします。ルカさんがアクアパッツァを食べたい……と言っているのも夕食の事でしょうから、それまでにやる事はやって、ご迷惑はかけません」
それなら問題ないだろうと思って言ったのだが、和也はまた文句をつけてくる。
「忙しいのに会ったばかりの男に飯を作るんですか? 腰が軽いですね」
〝腰が軽い〟の意味は合っているのだが、何となく込められている感情を察して暗い気持ちになってしまう。
「……そういう問題じゃなくて……。彼、このままじゃあ栄養が偏るでしょう」
ルカの買い物籠には、カップ麺やインスタントラーメンが山盛りに入っていた。
せっかく食べ物の美味しい北海道にいるというのに、その食生活はお節介ながらも気になってしまう。
佑も双子も料理ができる富豪だが、世の中には家事ができない富豪がいてもおかしくない。
むしろ裕福な育ちなら使用人がいて当たり前なので、できない可能性の方が高い。
このまま和也と話していても埒があかないと思った香澄は、スマホを取り出した。
「私からオーナーに電話をします」
そう言ってさっさと秋成の連絡先を出し、スマホを耳に宛がう。
『もしもし、香澄ちゃん? どうかした?』
「あ、秋成おじさん? いまスーパーなんですが、以前に言っていた豪邸の方と出会いまして。どうやら家事に困っているようなので、今日仕事を終えてから夕食を作りに行っていいですか? やる事を終えたらすぐ戻りますから」
事情を話すと、彼は半分納得した声を出す。
『あぁー……。いいけど、初対面なのに大丈夫かい?』
「はい。この手の人には免疫がありますし、きっと大丈夫です。それよりインスタント物ばっかり食べているみたいなので、そっちの方が心配になっちゃって……」
『確かにそれは心配だな』
秋成が電話の向こうで笑った時、ルカがトントンと香澄の肩をつついてきた。
『この買い物が終わったら、僕が直接レッドパインのオーナーに挨拶に行くよ』
そう言われ、香澄は秋成にその旨を伝える。
『ずっと気になっていた豪邸の主と話せるのは嬉しいな。こっちもコーヒーぐらいは出せるから、気軽に遊びに来てくださいと伝えておいてくれ』
「はい」
電話を切って秋成が概ねOKを出したと伝えると、ルカはパッと表情を明るくする。
『ルカさん、万が一の食料も大事ですが、今晩アクアパッツァが食べたいのなら、その材料も買っておきましょうか』
『分かった! カスミ、幾らかかってもいいから、必要な材料をカゴに入れてくれる?』
喜び勇むルカに笑い返し、香澄は和也に会釈をした。
「必要な物を揃えたらすぐ戻りますから、買い物が終わったら入り口で待っていて頂けますか?」
「……ああ」
和也は最後にルカを睨み、カートを押して去っていく。
彼から不穏な空気を感じて気が重たくなったが、香澄はとりあえず買い物を済ませる事にした。
『じゃあ、材料を入れていきましょうか。アクアパッツァの他に食べたい物はありますか?』
『作ってくれるなら、リゾットとスープも! あ~、でもパスタも食べたいな』
挙げるメニューがさすがイタリア人だ。
『お口に合うか分かりませんが、作れそうなメニューで考えますね』
アクアパッツァのベースとなる魚は何がいいかルカに尋ね、他の材料も籠に入れていく。
彼は香澄の隣をプラプラ歩きながら、ご機嫌だ。
『嬉しいな。ここで女の子と買い物をできるなんて』
『いつからニセコにいらしたんですか?』
『ん~、この別荘を買ったのは今年の春なんだ。それから今年のバカンスは何がなんでもここで過ごすぞって思ってね。夏に妹がロンドンで産気づいたから、姪っ子の誕生を見届けて、少し仕事をしてから日本に来たんだ』
『そうなんですね。妹さん、無事にお子さん出産できて良かったです』
『ああ、可愛い子だったよ。二人目だから妹も慣れた感じだったけどね。上の子は男の子なんだけど、あの子がお兄ちゃんになったんだと思うと不思議な感じだな』
香澄は自分の子供はいないが、従姉妹の子がいるのでルカの気持ちは分かる気がした。
店内を回って食材を集めたあと、レジではルカがカードで支払う。
(……やっぱりこのレベルの人は、カードでスッ……なんだなぁ)
和也を探すと、サッカー台で商品をエコバッグに詰めていたので慌てて手伝いにいった。
「ごめんなさい。手伝います」
「……いえ」
不機嫌なのを隠そうとしない彼は口数少なく返事をし、黙々と食品をエコバッグに詰めている。
(性格がハッキリしていて機嫌を取るのが大変っていうか、気を遣うなぁ)
隣のサッカー台では、ルカがご機嫌に口笛を吹いているのが聞こえてきた。
和也に尋ねられ、ハッと我に返った香澄は、取るべき行動を確認する。
「今日の仕事はきちんとします。ルカさんがアクアパッツァを食べたい……と言っているのも夕食の事でしょうから、それまでにやる事はやって、ご迷惑はかけません」
それなら問題ないだろうと思って言ったのだが、和也はまた文句をつけてくる。
「忙しいのに会ったばかりの男に飯を作るんですか? 腰が軽いですね」
〝腰が軽い〟の意味は合っているのだが、何となく込められている感情を察して暗い気持ちになってしまう。
「……そういう問題じゃなくて……。彼、このままじゃあ栄養が偏るでしょう」
ルカの買い物籠には、カップ麺やインスタントラーメンが山盛りに入っていた。
せっかく食べ物の美味しい北海道にいるというのに、その食生活はお節介ながらも気になってしまう。
佑も双子も料理ができる富豪だが、世の中には家事ができない富豪がいてもおかしくない。
むしろ裕福な育ちなら使用人がいて当たり前なので、できない可能性の方が高い。
このまま和也と話していても埒があかないと思った香澄は、スマホを取り出した。
「私からオーナーに電話をします」
そう言ってさっさと秋成の連絡先を出し、スマホを耳に宛がう。
『もしもし、香澄ちゃん? どうかした?』
「あ、秋成おじさん? いまスーパーなんですが、以前に言っていた豪邸の方と出会いまして。どうやら家事に困っているようなので、今日仕事を終えてから夕食を作りに行っていいですか? やる事を終えたらすぐ戻りますから」
事情を話すと、彼は半分納得した声を出す。
『あぁー……。いいけど、初対面なのに大丈夫かい?』
「はい。この手の人には免疫がありますし、きっと大丈夫です。それよりインスタント物ばっかり食べているみたいなので、そっちの方が心配になっちゃって……」
『確かにそれは心配だな』
秋成が電話の向こうで笑った時、ルカがトントンと香澄の肩をつついてきた。
『この買い物が終わったら、僕が直接レッドパインのオーナーに挨拶に行くよ』
そう言われ、香澄は秋成にその旨を伝える。
『ずっと気になっていた豪邸の主と話せるのは嬉しいな。こっちもコーヒーぐらいは出せるから、気軽に遊びに来てくださいと伝えておいてくれ』
「はい」
電話を切って秋成が概ねOKを出したと伝えると、ルカはパッと表情を明るくする。
『ルカさん、万が一の食料も大事ですが、今晩アクアパッツァが食べたいのなら、その材料も買っておきましょうか』
『分かった! カスミ、幾らかかってもいいから、必要な材料をカゴに入れてくれる?』
喜び勇むルカに笑い返し、香澄は和也に会釈をした。
「必要な物を揃えたらすぐ戻りますから、買い物が終わったら入り口で待っていて頂けますか?」
「……ああ」
和也は最後にルカを睨み、カートを押して去っていく。
彼から不穏な空気を感じて気が重たくなったが、香澄はとりあえず買い物を済ませる事にした。
『じゃあ、材料を入れていきましょうか。アクアパッツァの他に食べたい物はありますか?』
『作ってくれるなら、リゾットとスープも! あ~、でもパスタも食べたいな』
挙げるメニューがさすがイタリア人だ。
『お口に合うか分かりませんが、作れそうなメニューで考えますね』
アクアパッツァのベースとなる魚は何がいいかルカに尋ね、他の材料も籠に入れていく。
彼は香澄の隣をプラプラ歩きながら、ご機嫌だ。
『嬉しいな。ここで女の子と買い物をできるなんて』
『いつからニセコにいらしたんですか?』
『ん~、この別荘を買ったのは今年の春なんだ。それから今年のバカンスは何がなんでもここで過ごすぞって思ってね。夏に妹がロンドンで産気づいたから、姪っ子の誕生を見届けて、少し仕事をしてから日本に来たんだ』
『そうなんですね。妹さん、無事にお子さん出産できて良かったです』
『ああ、可愛い子だったよ。二人目だから妹も慣れた感じだったけどね。上の子は男の子なんだけど、あの子がお兄ちゃんになったんだと思うと不思議な感じだな』
香澄は自分の子供はいないが、従姉妹の子がいるのでルカの気持ちは分かる気がした。
店内を回って食材を集めたあと、レジではルカがカードで支払う。
(……やっぱりこのレベルの人は、カードでスッ……なんだなぁ)
和也を探すと、サッカー台で商品をエコバッグに詰めていたので慌てて手伝いにいった。
「ごめんなさい。手伝います」
「……いえ」
不機嫌なのを隠そうとしない彼は口数少なく返事をし、黙々と食品をエコバッグに詰めている。
(性格がハッキリしていて機嫌を取るのが大変っていうか、気を遣うなぁ)
隣のサッカー台では、ルカがご機嫌に口笛を吹いているのが聞こえてきた。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる