778 / 1,589
第十三部・イタリア 編
ティラミスとコーヒー
しおりを挟む
さすがエスプレッソの国と言うべきか、スポンジに染みこんだコーヒーのコクがある。
その上、マスカルポーネチーズの濃厚さがコーヒーの風味に負けずに重なり、得も言われぬハーモニーを生み出している。
「おいしい、おいしい」
こんなに美味しいティラミスに出会ったことはなく、香澄は夢中になってスプーンを動かす。
多めに盛り付けたはずなのに、あっという間に皿が空になってしまった。
「あぁー……」
感動した香澄はビールを飲んだあとのおじさんのような声を出し、「おいしかったぁ……」としみじみと呟く。
そんな彼女の様子を見て、佑は声もなく笑っている。
「コーヒー飲む?」
「うん」
佑の問いかけに頷くと、彼はキッチンに向かった。
そして道具を確認すると、コーヒーポットにミネラルウォーターを入れて火に掛ける。
勿論マキネッタもあるのだが、普通のドリップコーヒーの用意がされているのは客を気遣ってだろう。
「佑さんのコーヒー飲むの、久しぶりだな」
香澄はシンクで皿を洗う。
佑がコーヒーを淹れてくれるのもそうだが、こういう風にキッチンに並ぶのは久しぶりだ。
「帰国して落ち着いたら、香澄が作ってくれた飯が食いたいな」
「初めて一緒に作ったの、お雑煮だっけ」
「はは、そうだ。餅は正義だよな」
「ねぇ、男の人ってハンバーグ、唐揚げ、カレー、オムライスが好きだって言うけど本当?」
「……好きだな」
まことしやかに言われている事を聞いてみたが、佑は神妙な顔をして頷く。
「ていうか、嫌いな人いないんじゃないか?」
ごく当たり前に聞いてくるので、香澄はもっと〝御劔佑〟らしい答えを欲しがる。
「世界中の高級料理を食べてるのに? もっとこう、トリュフ! とかキャビア! とか」
「寿司も好きだけど、ラーメンも好きだし、なんならコンビニおにぎりも好きだし」
その返事を聞いて、香澄は苦笑いした。
「お金持ちって一周回ってコンビニおにぎりになるのかな? アロイスさんとクラウスさんも、コンビニですごく楽しそうだったなぁ」
双子が突撃してきた時、コンビニで食べ物を一通り買って、二人でキャッキャとしていたのを思いだす。
ティラミスを食べた皿を洗い終わり手を拭くと、香澄はマグカップを出してキッチン台の上に置き、スツールに腰掛けた。
「ローマで何をしたい?」
不意に尋ねられ、香澄は「んー」と考える。
しばらく考え込んでから、ぽつんと呟いた。
「……本音を言ってもいい?」
「もちろん」
沸騰する寸前で火をとめ、佑はコーヒーをドリップしていく。
「イタリアって来た事がないし、観光したい。……でも、また今度のお楽しみでいいかな? って思ってる。……ごめんね。とっても高級なホテルに連泊させてもらってるのに、どうしても長旅の疲れが出ちゃってる。あちこち歩き回るより、のんびりしてたいかな」
コーヒーのいい香りがし、香澄は深く息を吸ってコーヒーアロマを堪能する。
「……疲れた?」
「ごめんね。もっと体力つける」
「いや、そうじゃない。気づけなくてごめん。……そうだよな。普通、ツアー旅行でも八日から十日、長くて二週間ぐらいだ。いきなり時差が激しいヨーロッパに連れてきて、あれこれ連れ回して疲れない訳がないよな」
佑がまた反省会を始める。
だから慌てて感謝を伝えた。
「私、ツアー旅行でもヨーロッパは来た事ないけどね。今回スペインとパリを楽しませてもらったから、残りはまた今度。贅沢な我が儘を言ってごめんね? つれて来てくれた事には、本当に感謝してるの」
「ん、分かった。コーヒー、牛乳入れるよな?」
「うん」
香澄はコーヒーを飲む時は、いつも無糖に牛乳だ。
もう一度スゥッと香りを吸い込み、目の前で佑が牛乳を注ぐのを見守る。
「どうぞ」
「ありがとう」
マグカップを受け取ったあと、また二人でソファに座り、くっつきあってコーヒーを飲む。
その上、マスカルポーネチーズの濃厚さがコーヒーの風味に負けずに重なり、得も言われぬハーモニーを生み出している。
「おいしい、おいしい」
こんなに美味しいティラミスに出会ったことはなく、香澄は夢中になってスプーンを動かす。
多めに盛り付けたはずなのに、あっという間に皿が空になってしまった。
「あぁー……」
感動した香澄はビールを飲んだあとのおじさんのような声を出し、「おいしかったぁ……」としみじみと呟く。
そんな彼女の様子を見て、佑は声もなく笑っている。
「コーヒー飲む?」
「うん」
佑の問いかけに頷くと、彼はキッチンに向かった。
そして道具を確認すると、コーヒーポットにミネラルウォーターを入れて火に掛ける。
勿論マキネッタもあるのだが、普通のドリップコーヒーの用意がされているのは客を気遣ってだろう。
「佑さんのコーヒー飲むの、久しぶりだな」
香澄はシンクで皿を洗う。
佑がコーヒーを淹れてくれるのもそうだが、こういう風にキッチンに並ぶのは久しぶりだ。
「帰国して落ち着いたら、香澄が作ってくれた飯が食いたいな」
「初めて一緒に作ったの、お雑煮だっけ」
「はは、そうだ。餅は正義だよな」
「ねぇ、男の人ってハンバーグ、唐揚げ、カレー、オムライスが好きだって言うけど本当?」
「……好きだな」
まことしやかに言われている事を聞いてみたが、佑は神妙な顔をして頷く。
「ていうか、嫌いな人いないんじゃないか?」
ごく当たり前に聞いてくるので、香澄はもっと〝御劔佑〟らしい答えを欲しがる。
「世界中の高級料理を食べてるのに? もっとこう、トリュフ! とかキャビア! とか」
「寿司も好きだけど、ラーメンも好きだし、なんならコンビニおにぎりも好きだし」
その返事を聞いて、香澄は苦笑いした。
「お金持ちって一周回ってコンビニおにぎりになるのかな? アロイスさんとクラウスさんも、コンビニですごく楽しそうだったなぁ」
双子が突撃してきた時、コンビニで食べ物を一通り買って、二人でキャッキャとしていたのを思いだす。
ティラミスを食べた皿を洗い終わり手を拭くと、香澄はマグカップを出してキッチン台の上に置き、スツールに腰掛けた。
「ローマで何をしたい?」
不意に尋ねられ、香澄は「んー」と考える。
しばらく考え込んでから、ぽつんと呟いた。
「……本音を言ってもいい?」
「もちろん」
沸騰する寸前で火をとめ、佑はコーヒーをドリップしていく。
「イタリアって来た事がないし、観光したい。……でも、また今度のお楽しみでいいかな? って思ってる。……ごめんね。とっても高級なホテルに連泊させてもらってるのに、どうしても長旅の疲れが出ちゃってる。あちこち歩き回るより、のんびりしてたいかな」
コーヒーのいい香りがし、香澄は深く息を吸ってコーヒーアロマを堪能する。
「……疲れた?」
「ごめんね。もっと体力つける」
「いや、そうじゃない。気づけなくてごめん。……そうだよな。普通、ツアー旅行でも八日から十日、長くて二週間ぐらいだ。いきなり時差が激しいヨーロッパに連れてきて、あれこれ連れ回して疲れない訳がないよな」
佑がまた反省会を始める。
だから慌てて感謝を伝えた。
「私、ツアー旅行でもヨーロッパは来た事ないけどね。今回スペインとパリを楽しませてもらったから、残りはまた今度。贅沢な我が儘を言ってごめんね? つれて来てくれた事には、本当に感謝してるの」
「ん、分かった。コーヒー、牛乳入れるよな?」
「うん」
香澄はコーヒーを飲む時は、いつも無糖に牛乳だ。
もう一度スゥッと香りを吸い込み、目の前で佑が牛乳を注ぐのを見守る。
「どうぞ」
「ありがとう」
マグカップを受け取ったあと、また二人でソファに座り、くっつきあってコーヒーを飲む。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる