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第十四部・東京日常 編
スマホ越しになら少し素直になれる
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「……ごめん。そんな風に感じていると思わなくて……。……俺の話を聞いてくれないか?」
「…………っ」
思わず佑の手を振り払った香澄は、ブンブンと首を横に振った。
今は感情的になりすぎていて、冷静になれる気がしなかった。
「……ちょっと、時間ちょうだい。冷静になりたいの。ちゃんと戻るから」
香澄はグスッと洟を啜り、このまま佑の側にいても何も解決しないと思い、立ち上がった。
「香澄?」
「連絡つくようにしてるから心配しないで。でも、たまには一人にさせて」
香澄は佑の顔を見ずに言い、ウォークインクローゼットまで行くと、コートを着てマフラーを巻いた。ハンドバッグを手にし、すっぴんのままドアに向かう。
「香澄!」
すぐに佑に追いつかれるが、香澄は彼を見ずにブーツを履いた。
「きちんと話し合うために、まず冷静にさせて。佑さんと一緒にいると、優しさに甘えて我が儘ばかり言ってしまう自分が嫌になるの」
潤んだ目で彼を見ると、佑は視線を落として溜め息をついた。
「……分かった」
「ありがとう」
小さく礼を言い、香澄はスイートルームを出た。
足早にエレベーターまで向かい、途中でフロアコンシェルジュに告げる。
「食事は一人分だけで結構です。変更してすみません」
「かしこまりました」
何も聞かない彼のプロ意識に感謝し、そのままエレベーターに乗った。
エレべーターで一階まで下り、できるだけ何も考えないように外にでた。
雑踏の中までいき、ずっと止めていたように感じる息を吐き、吸った。
(どこ行こう。……ご飯食べられる所にしよう)
まだ東京の地理に詳しくない香澄は、スマホを取りだしマップで飲食店を検索する。
(ん、よし。朝からハンバーガー食べよう)
そう思い、ホテルから徒歩五分にある、ハンバーガーショップへ向かった。
列に並んでいる間にオーダーする物を決め、いざカウンターにつく。
「照り焼きチキンバーガーと、チキンナゲット、サラダをお願いします。あとバナナジュースも」
「かしこまりました」
オーダーして電子マネーで清算すると、空席を求めて少しウロウロし、通りに面したカウンターに落ち着いた。
努めて何も考えないようにしているのに、佑の傷ついた表情が脳裏に蘇る。
(まだ熱があるのかな。汗を掻いて熱を下げる方法みたいだけど、そんなに簡単に下がるものなのかな。……お仕事に行くんだろうか。会社で倒れないといいけど)
蓋をしていた感情が堰を切ったように溢れ、佑が心配で堪らなくなる。
その時、佑からメッセージが入った。
『今日は会社を休むよ。ホテルの部屋でリモートワークをする』
メッセージはそれだけだったが、香澄の胸に安堵が広がる。
スマホ越しだから、幾分冷静になって素直になれる気がした。
『良かった。いま熱は何度?』
返事を打つと、すぐに返事がくる。
『三十七.六度まで下がったよ。いま高村先生の診察を受けた。毎度ながらの熱で、処方箋ももらった。これから松井さんに薬を取りに行ってもらう。朝食をとったらきちんと薬を飲むよ』
『分かった。無理しないでね。具合悪いって思ったら、すぐ横になって』
『了解』
それから少し間が空き、佑からまたメッセージがくる。
『今どこにいる?』
「…………」
どう答えようか悩み、まだ佑には会えない気がしたので、返事を濁す。
『言いたくない。ごめん』
佑なら、場所を教えるとすぐ来てしまいそうだからだ。
『分かった。飯はちゃんと食べること。話ができそうになったら教えて』
理解を示してくれた佑に、香澄は『了解です』とスタンプを送った。
それからアプリを閉じ、スマホを置いた。
(……そういえばすっぴんだった。恥ずかしい)
服も着の身着のままで、コーディネイトもあったものではない。
外を眺めているうちにハンバーガーが運ばれてきた。
とりあえず、空腹ではろくな事を考えないと思ったので、まず腹を満たす事にした。
「…………っ」
思わず佑の手を振り払った香澄は、ブンブンと首を横に振った。
今は感情的になりすぎていて、冷静になれる気がしなかった。
「……ちょっと、時間ちょうだい。冷静になりたいの。ちゃんと戻るから」
香澄はグスッと洟を啜り、このまま佑の側にいても何も解決しないと思い、立ち上がった。
「香澄?」
「連絡つくようにしてるから心配しないで。でも、たまには一人にさせて」
香澄は佑の顔を見ずに言い、ウォークインクローゼットまで行くと、コートを着てマフラーを巻いた。ハンドバッグを手にし、すっぴんのままドアに向かう。
「香澄!」
すぐに佑に追いつかれるが、香澄は彼を見ずにブーツを履いた。
「きちんと話し合うために、まず冷静にさせて。佑さんと一緒にいると、優しさに甘えて我が儘ばかり言ってしまう自分が嫌になるの」
潤んだ目で彼を見ると、佑は視線を落として溜め息をついた。
「……分かった」
「ありがとう」
小さく礼を言い、香澄はスイートルームを出た。
足早にエレベーターまで向かい、途中でフロアコンシェルジュに告げる。
「食事は一人分だけで結構です。変更してすみません」
「かしこまりました」
何も聞かない彼のプロ意識に感謝し、そのままエレベーターに乗った。
エレべーターで一階まで下り、できるだけ何も考えないように外にでた。
雑踏の中までいき、ずっと止めていたように感じる息を吐き、吸った。
(どこ行こう。……ご飯食べられる所にしよう)
まだ東京の地理に詳しくない香澄は、スマホを取りだしマップで飲食店を検索する。
(ん、よし。朝からハンバーガー食べよう)
そう思い、ホテルから徒歩五分にある、ハンバーガーショップへ向かった。
列に並んでいる間にオーダーする物を決め、いざカウンターにつく。
「照り焼きチキンバーガーと、チキンナゲット、サラダをお願いします。あとバナナジュースも」
「かしこまりました」
オーダーして電子マネーで清算すると、空席を求めて少しウロウロし、通りに面したカウンターに落ち着いた。
努めて何も考えないようにしているのに、佑の傷ついた表情が脳裏に蘇る。
(まだ熱があるのかな。汗を掻いて熱を下げる方法みたいだけど、そんなに簡単に下がるものなのかな。……お仕事に行くんだろうか。会社で倒れないといいけど)
蓋をしていた感情が堰を切ったように溢れ、佑が心配で堪らなくなる。
その時、佑からメッセージが入った。
『今日は会社を休むよ。ホテルの部屋でリモートワークをする』
メッセージはそれだけだったが、香澄の胸に安堵が広がる。
スマホ越しだから、幾分冷静になって素直になれる気がした。
『良かった。いま熱は何度?』
返事を打つと、すぐに返事がくる。
『三十七.六度まで下がったよ。いま高村先生の診察を受けた。毎度ながらの熱で、処方箋ももらった。これから松井さんに薬を取りに行ってもらう。朝食をとったらきちんと薬を飲むよ』
『分かった。無理しないでね。具合悪いって思ったら、すぐ横になって』
『了解』
それから少し間が空き、佑からまたメッセージがくる。
『今どこにいる?』
「…………」
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『言いたくない。ごめん』
佑なら、場所を教えるとすぐ来てしまいそうだからだ。
『分かった。飯はちゃんと食べること。話ができそうになったら教えて』
理解を示してくれた佑に、香澄は『了解です』とスタンプを送った。
それからアプリを閉じ、スマホを置いた。
(……そういえばすっぴんだった。恥ずかしい)
服も着の身着のままで、コーディネイトもあったものではない。
外を眺めているうちにハンバーガーが運ばれてきた。
とりあえず、空腹ではろくな事を考えないと思ったので、まず腹を満たす事にした。
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