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第十六部・クリスマス 編
よし、何とかなった
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みるみる、男性の鼻の下がだらしなく伸び、「い、いいよ」と言って彼はカメラを操作して香澄のデータを消す。
そのタイミングで香澄は久住たちに頷いてみせた。
「お客様、少し宜しいですか?」
警備員が男性に話しかけ、彼はギクッとした表情になる。
「な、なんだよ」
「お客様。他のお客様と同じ場所でお楽しみください」
警備員が男性の手をやんわりと掴むと、男性は助けを求めるように香澄を振り向いた。
そんな彼に、香澄はにっこり笑ってみせる。
「お客様はChief Everyの大切なお客様です。そして、この会場にいる他の方々も、等しく大切なお客様です。どうか皆様と楽しくイベントを楽しんで頂けませんか?」
香澄は丁寧にお辞儀をしてから、男性を見つめる。
ステージではMasiaのショーが終わり、ホールじゅうに大きな拍手が響いていた。
「……分かったよ」
はぁー……と溜め息をついた男性に向かって、香澄は「ありがとうございます」と微笑んだ。
そして手に持っているカゴから、お菓子の包みを一つ男性に手渡した。
「はい。メリー・クリスマス。お客様のクリスマスが最高の一日になりますように。どうぞこれからもChief Everyをご贔屓ください」
男性は一瞬ポカンと目をまん丸に見開いたあと、赤面して満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう! 香澄ちゃん!」
香澄は丁寧に一礼をし、警備員に誘導される男性を見送った。
(よし、何とかなった)
「……すみません、うっかりしていました」
「気を抜いていました」
久住と佐野が謝り、香澄は首を横に振る。
「大丈夫です。むしろ心配しなければいけないのは、社長のほうです。私は一般人です。よほどネットで深く調べなければ、御劔社長の婚約者なんて分かりません。私の側にピッタリついていたら、余計に悪目立ちすると思います。ですから今まで通り通常の警護をお願いします」
「……しっかり見ております」
スペインでの失態もあり、彼らの表情は固い。
「そんなに深く考えないでください。大丈夫」
二人に微笑みかけた香澄は、「戻りますね」と言って持ち場に戻った。
その頃、照明が変わってステージから伸びたランウェイに光が当たった。
DJブースに有名DJが立ち、英語でクリスマスの挨拶をしてからクラブミュージックを流し始めた。
巨大なステレオからズンズンと腹の底に響く低音と、クラシック音楽をアレンジした曲が流れ、客たちが体でリズムを取り始める。
「それでは! Chief Everyの春コレクションを世界で一番早くこの会場の皆様にお届けします!」
女性司会者のアナウンスがあったあと、ステージ袖からフワリとエアリーなワンピースを身に纏ったモデルが現れた。
トップバッターは日本の若い女性なら誰もが知る有名なモデルを起用し、その姿にキャアッ! と客席から歓声が上がる。
TMタワーのメインホールの照明も、その道では有名な舞台照明家の指示の元に計算されてある。
映像演出家に発注したプロジェクションマッピングが機動し、屋内にいながらその場にバンッと水しぶきが立ち上がった。
今回は突き出たランウェイを除き、ステージの前に透明なスクリーンを設置してリアプロジェクションと呼ばれるホログラム技術を駆使している。
日本ではバーチャルアイドルのライブで使われて有名になった手法で、現在ではミュージシャンのライブ、ミュージカルや歌舞伎など多岐に渡るステージでも利用されていた。
クリスマス・イブだというのにTMタワーのホールの中にのみ、主役のモデルを邪魔しない程度の演出で春が描かれる。
モデルたちは笑顔で手を振りながら、Chief Everyの最新アイテムを身に纏ってランウェイを歩いた。
今回モデルは男女ともに二十五人雇われた。
イヤフォンからは裏方にいるスタッフたちの指示がときおり聞こえ、全員が忙しく働いているのが分かる。
ショーの裏方はChief Every社員のイベント担当の者がし、河野は佑の側で護衛兼サポートをしている。
香澄はサンタクロースの格好をしてお菓子を配る係だが、佑に会場の全体の雰囲気を伝える役目もあった。
と、耳に佑の声が入る。
そのタイミングで香澄は久住たちに頷いてみせた。
「お客様、少し宜しいですか?」
警備員が男性に話しかけ、彼はギクッとした表情になる。
「な、なんだよ」
「お客様。他のお客様と同じ場所でお楽しみください」
警備員が男性の手をやんわりと掴むと、男性は助けを求めるように香澄を振り向いた。
そんな彼に、香澄はにっこり笑ってみせる。
「お客様はChief Everyの大切なお客様です。そして、この会場にいる他の方々も、等しく大切なお客様です。どうか皆様と楽しくイベントを楽しんで頂けませんか?」
香澄は丁寧にお辞儀をしてから、男性を見つめる。
ステージではMasiaのショーが終わり、ホールじゅうに大きな拍手が響いていた。
「……分かったよ」
はぁー……と溜め息をついた男性に向かって、香澄は「ありがとうございます」と微笑んだ。
そして手に持っているカゴから、お菓子の包みを一つ男性に手渡した。
「はい。メリー・クリスマス。お客様のクリスマスが最高の一日になりますように。どうぞこれからもChief Everyをご贔屓ください」
男性は一瞬ポカンと目をまん丸に見開いたあと、赤面して満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう! 香澄ちゃん!」
香澄は丁寧に一礼をし、警備員に誘導される男性を見送った。
(よし、何とかなった)
「……すみません、うっかりしていました」
「気を抜いていました」
久住と佐野が謝り、香澄は首を横に振る。
「大丈夫です。むしろ心配しなければいけないのは、社長のほうです。私は一般人です。よほどネットで深く調べなければ、御劔社長の婚約者なんて分かりません。私の側にピッタリついていたら、余計に悪目立ちすると思います。ですから今まで通り通常の警護をお願いします」
「……しっかり見ております」
スペインでの失態もあり、彼らの表情は固い。
「そんなに深く考えないでください。大丈夫」
二人に微笑みかけた香澄は、「戻りますね」と言って持ち場に戻った。
その頃、照明が変わってステージから伸びたランウェイに光が当たった。
DJブースに有名DJが立ち、英語でクリスマスの挨拶をしてからクラブミュージックを流し始めた。
巨大なステレオからズンズンと腹の底に響く低音と、クラシック音楽をアレンジした曲が流れ、客たちが体でリズムを取り始める。
「それでは! Chief Everyの春コレクションを世界で一番早くこの会場の皆様にお届けします!」
女性司会者のアナウンスがあったあと、ステージ袖からフワリとエアリーなワンピースを身に纏ったモデルが現れた。
トップバッターは日本の若い女性なら誰もが知る有名なモデルを起用し、その姿にキャアッ! と客席から歓声が上がる。
TMタワーのメインホールの照明も、その道では有名な舞台照明家の指示の元に計算されてある。
映像演出家に発注したプロジェクションマッピングが機動し、屋内にいながらその場にバンッと水しぶきが立ち上がった。
今回は突き出たランウェイを除き、ステージの前に透明なスクリーンを設置してリアプロジェクションと呼ばれるホログラム技術を駆使している。
日本ではバーチャルアイドルのライブで使われて有名になった手法で、現在ではミュージシャンのライブ、ミュージカルや歌舞伎など多岐に渡るステージでも利用されていた。
クリスマス・イブだというのにTMタワーのホールの中にのみ、主役のモデルを邪魔しない程度の演出で春が描かれる。
モデルたちは笑顔で手を振りながら、Chief Everyの最新アイテムを身に纏ってランウェイを歩いた。
今回モデルは男女ともに二十五人雇われた。
イヤフォンからは裏方にいるスタッフたちの指示がときおり聞こえ、全員が忙しく働いているのが分かる。
ショーの裏方はChief Every社員のイベント担当の者がし、河野は佑の側で護衛兼サポートをしている。
香澄はサンタクロースの格好をしてお菓子を配る係だが、佑に会場の全体の雰囲気を伝える役目もあった。
と、耳に佑の声が入る。
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