1,189 / 1,589
第十八部・麻衣と年越し 編
〝都心 ラブホテル ムードがいい〟
しおりを挟む
「キス、慣れてるの?」
「……え? ……普通だ」
マティアスは目を瞬かせる。
「〝普通〟が分からない。彼女は何年前までいた?」
こんなふうに、元カノ事情を根掘り葉掘り聞くのは、本当に〝面倒臭い女〟だ。
嫌で堪らないけれど、前に進むために尋ねた。
彼ならきっと〝面倒な女〟と思わない。
そう信じられたから聞けたのだと思う。
「……最後に付き合ったのは大学生頃か? それ以来、秘書業に就いてからは決まった相手はいない」
「うそぉ?」
思わず漏れた声に、マティアスは真面目な表情で頷く。
「本当だ。仕事のストレスでそれどころではなかった。今は解放されて、ようやく恋愛を楽しもうという気持ちになれているが」
マティアスが「恋愛を楽しむ」と言ってもいまいちピンとこないが、本人が言うならそうなのだろう。
「……じゃあ、その間、キスとか…………下世話だけど、性処理的な事は?」
「風俗に行った事はある。だがその内どうでも良くなった。自分の問題より復讐を果たす事に専念し、ムラムラした時は一人で処理した」
恥ずかしがる事なく言われ、麻衣は困惑する。
「……彼女がほしいとか、イチャイチャしたいとか、……そう思う余裕がなかったの?」
「そうなるな」
マティアスは傷ついた過去に苦しむでもなく、淡々と答える。
「……じゃあ、なんでこんなにキスがうまいの?」
素直になるのはとても恥ずかしい。
自分がひねくれていると自覚しているからこそ、マティアスに嫉妬している気持ちを詳細に伝えるのが恥ずかしかった。
「……うまい、か?」
マティアスは目をぱちくりと瞬かせ、初めて言われたという顔をする。
「う……うん」
「気持ち良かったか?」
言われて、彼の温かくぬめらかな舌で口内をまさぐられた時の、叫びたくなるような、どうにもならない感覚を思いだし、ブワッと体温が上がる。
「…………すごく」
あまりの恥ずかしさに、内心「ちくしょう」と思いながら頷く。
「よしっ」
恥ずかしくてムカつくほどなのに、マティアスはなぜか小さく拳を握って喜んでいる。
「何が『よし』なの!」
べしっとマティアスの胸板を叩くと、彼は嬉しそうに笑いながら麻衣の手を掴み、その甲にキスをしてきた。
「マイ、もっとキスをしたら駄目か?」
幸せそうな顔で尋ねられ、気圧される。
「……こ、ここは御劔さんの家だから、そういう事は駄目」
そう言うと、マティアスは何か考えたのかタブレット端末を弄り始めた。
(なんだろ……)
画面を覗き込むと、マティアスは検索エンジンに〝都心 ラブホテル ムードがいい〟と打ち込んでいる。
麻衣は思わずシーツに突っ伏した。
(だあああああああああああ!! 嘘でしょ!?)
「ちょ、ちょっと、何調べてるんですか!」
「ここでは嫌なんだろう? ならホテルしかないじゃないか。俺も日本のラブホテルを体験してみたかった」
「そう簡単に行く所じゃないでしょう!」
ラブホテルなど別次元の世界すぎて、旅行に行くよりハードルが高い。
「俺は行った事がない。二人で初体験してみないか? きっと楽しい」
マティアスは気になったホテルの内装を、じっくり見ている。
「好きなホテルの雰囲気はあるか? ここはアジアンリゾートを意識しているらしい」
「だっ、だからラブホの事なんて知りませんったら!」
「だから二人で一緒に知ればいいだろう」
マティアスはそう言ったあと、頬にチュッとキスをしてきた。
「んなぁっ!?」
「本番まで慣れよう。言っておくが、俺は日本人の男より日常的にキスをすると思う。アロクラに比べて面白みのない性格だと自覚しているが、マイを愛しく思う気持ちは隠したくない」
これからも遠慮せずチュッチュすると言われ、麻衣は赤面したまま固まっている。
「ラブホテルに行くのは嫌か?」
「い……、……うぅ……。……う……。嫌……じゃ、ない……けど…………」
絞り出すように言う麻衣に、マティアスは畳みかける。
「どうせ専門の場に行くなら、セックスしてみないか?」
「――――!」
(この男はあああああああああ!!)
麻衣はボフンッと顔面をシーツに押しつけ、悶える。
「……え? ……普通だ」
マティアスは目を瞬かせる。
「〝普通〟が分からない。彼女は何年前までいた?」
こんなふうに、元カノ事情を根掘り葉掘り聞くのは、本当に〝面倒臭い女〟だ。
嫌で堪らないけれど、前に進むために尋ねた。
彼ならきっと〝面倒な女〟と思わない。
そう信じられたから聞けたのだと思う。
「……最後に付き合ったのは大学生頃か? それ以来、秘書業に就いてからは決まった相手はいない」
「うそぉ?」
思わず漏れた声に、マティアスは真面目な表情で頷く。
「本当だ。仕事のストレスでそれどころではなかった。今は解放されて、ようやく恋愛を楽しもうという気持ちになれているが」
マティアスが「恋愛を楽しむ」と言ってもいまいちピンとこないが、本人が言うならそうなのだろう。
「……じゃあ、その間、キスとか…………下世話だけど、性処理的な事は?」
「風俗に行った事はある。だがその内どうでも良くなった。自分の問題より復讐を果たす事に専念し、ムラムラした時は一人で処理した」
恥ずかしがる事なく言われ、麻衣は困惑する。
「……彼女がほしいとか、イチャイチャしたいとか、……そう思う余裕がなかったの?」
「そうなるな」
マティアスは傷ついた過去に苦しむでもなく、淡々と答える。
「……じゃあ、なんでこんなにキスがうまいの?」
素直になるのはとても恥ずかしい。
自分がひねくれていると自覚しているからこそ、マティアスに嫉妬している気持ちを詳細に伝えるのが恥ずかしかった。
「……うまい、か?」
マティアスは目をぱちくりと瞬かせ、初めて言われたという顔をする。
「う……うん」
「気持ち良かったか?」
言われて、彼の温かくぬめらかな舌で口内をまさぐられた時の、叫びたくなるような、どうにもならない感覚を思いだし、ブワッと体温が上がる。
「…………すごく」
あまりの恥ずかしさに、内心「ちくしょう」と思いながら頷く。
「よしっ」
恥ずかしくてムカつくほどなのに、マティアスはなぜか小さく拳を握って喜んでいる。
「何が『よし』なの!」
べしっとマティアスの胸板を叩くと、彼は嬉しそうに笑いながら麻衣の手を掴み、その甲にキスをしてきた。
「マイ、もっとキスをしたら駄目か?」
幸せそうな顔で尋ねられ、気圧される。
「……こ、ここは御劔さんの家だから、そういう事は駄目」
そう言うと、マティアスは何か考えたのかタブレット端末を弄り始めた。
(なんだろ……)
画面を覗き込むと、マティアスは検索エンジンに〝都心 ラブホテル ムードがいい〟と打ち込んでいる。
麻衣は思わずシーツに突っ伏した。
(だあああああああああああ!! 嘘でしょ!?)
「ちょ、ちょっと、何調べてるんですか!」
「ここでは嫌なんだろう? ならホテルしかないじゃないか。俺も日本のラブホテルを体験してみたかった」
「そう簡単に行く所じゃないでしょう!」
ラブホテルなど別次元の世界すぎて、旅行に行くよりハードルが高い。
「俺は行った事がない。二人で初体験してみないか? きっと楽しい」
マティアスは気になったホテルの内装を、じっくり見ている。
「好きなホテルの雰囲気はあるか? ここはアジアンリゾートを意識しているらしい」
「だっ、だからラブホの事なんて知りませんったら!」
「だから二人で一緒に知ればいいだろう」
マティアスはそう言ったあと、頬にチュッとキスをしてきた。
「んなぁっ!?」
「本番まで慣れよう。言っておくが、俺は日本人の男より日常的にキスをすると思う。アロクラに比べて面白みのない性格だと自覚しているが、マイを愛しく思う気持ちは隠したくない」
これからも遠慮せずチュッチュすると言われ、麻衣は赤面したまま固まっている。
「ラブホテルに行くのは嫌か?」
「い……、……うぅ……。……う……。嫌……じゃ、ない……けど…………」
絞り出すように言う麻衣に、マティアスは畳みかける。
「どうせ専門の場に行くなら、セックスしてみないか?」
「――――!」
(この男はあああああああああ!!)
麻衣はボフンッと顔面をシーツに押しつけ、悶える。
23
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる